おっさん
ラグナがあっちゃ〜という風に頭を叩き、オニオンナイトは不安げな瞳で俺を見つめてくる。
依然として背後から聞こえる叫び声、絶叫、悲鳴…泣き喚くちびっ子たちの何を言っているか分からない言葉。
とどめに鈍い金属音と重い何かが床に落ちた音にひくりと口端が引き攣って、カインが腰を上げたのに伴い俺も立ち上がった。
『あと何人ぐらいいるんだ?』
「7人…」
『7人!!?そ、そうか…』
ヴァンの口から放たれた数字に目眩がしそうになる。
あと7人…併せて14人か…食費とか衣服代とか高くなるな……
「◎…悪い……」
『…ラグナ君が気にすることじゃないさ』
目を見開いた俺に申し訳なさを感じたのか、しゅんとして謝るラグナに慌てて首を振った。
しかし7人ね…どうりで叫び声が多いわけだ。
「待て待てどうなってるんだこれは!」
「あなた…ウォーリア……!!?」
「皆、落ち着いて!落ち着……うわっ!!!」
―ガッシャーン!!
「お、重いっ鎧重いっ!!!」
「悪い、大丈夫か?」
―ドスッ
「う、うわぁあぁ…っ!」
「フリオニール!?な、なんで泣くんだ…、」
ぎゃーぎゃーわーわー、鼓膜が破れそうだ。
呆然として扉の前で突っ立っている俺は、ははは、と乾いた笑みを浮かべる。
全員大人…らしいけど、身体ちっさくなって自律神経も子供になってるのか?
目の前で泣き出す複数の子供を仄暗い廊下の中で見つめていると泣きたくなってきた。
『っ、?!』
どうしよう、宥めるの面倒臭い、なんて考えていた時。
ふいに、くいくいっと袖を引かれる感覚がして、視線を下に向ける。
するとそこには今まで見たことのない新しいちびっ子がいた。
額に傷のあるちびっ子は、澄んだ青い瞳を少し不機嫌そうにさせて俺の手を引っ張っている。
「す、すこーる!!?お前…ちっさくなったなぁ」
「!!あ、んたも、か…!!?」
ひょっこりと後ろから覗いてきたラグナが、俺を見上げるちみっ子を呼んで目を見開く。
スコールと呼ばれたちみっ子も吃驚したのか俺から視線を外しラグナを凝視した。
『ラグナ君、スコール君を頼めるか?』
仲間同士だから任せても大丈夫だろ。
そう考えてラグナに頼むと、微かにスコールの眉がぴくりと動く。
「おうよ、◎。この俺にまかせなさ「あんたに用はない」―…えぇー…冷たい…」
なんだ、この二人仲悪いのか?
といっても邪険な雰囲気を出してるスコールが一方的に嫌ってるみたいだけど。
見事に撃沈したラグナの頭を優しく撫でていると、スコールは更に強く袖を引っ張ってくる。
「あんたでかまわない。この状況をどうにかしてくれ」
『あ、あぁ…じゃあラグナ君は他の皆を頼もうか、』
「…わかった……」
とぼとぼと廊下へ向かっていったラグナの背を睨むスコールに、本当に嫌いなんだと確信した俺。
仲間なのにやっぱりそりが合わないこともあるのを知り、仕方ないか、人間だもの、と肩を竦めた。
「っな、うわぁ!!」
『よっと、じゃ、スコール君よ行きますか』
背を見せていたスコールの脇下に手を突っ込み、そのまま持ち上げて顔の高さにする。
目を真ん丸くさせてすぐに暴れ出した身体を抱きくるめて歩き出せば、腕の中から叫ぶちびっ子。
「ふ、ざけ、っ…おろせ!子供扱いをするな!!!」
『ガキをガキ扱いして何が悪い。暴れて落ちても知らないからな?』
ふ、っと力を抜いて軽く降下させると、スコールは息を飲んで固まった。
大人しくなったので安心して先に廊下で皆に事情を話すラグナの元へ行く…前に。
抱っこされていたスコールを見つめたとき、じわりじわりと青い瞳から滲む涙が目に入り、ぎょっとした。
「っ、ぅ、く…!」
『…なっ…!、泣くなよ!!ごめんごめんっ』
ぐにゃりと表情を歪めたスコールは、小さくしゃくりあげ泣き始める。
溢れ出した涙に戸惑いつつも、放って置くわけにはいかないから(大人として)、頬を濡らすそれを指で拭う。
ぼろぼろ落ちる涙を拭き取りスコールの頭をあやすように撫でてはみるものの、胸に顔を埋めて本格的に泣く彼は全く止まらない。
うわぁあー…やっぱり小さくなって涙腺緩んでる………
井上さーん!!と、子供に好かれる先輩に心の中で助けを求め床にしゃがみ込んだ。
おろしてやってもスコールはひっくひっくと泣いている。
「お、れは…ガキじゃ、な…!おとす、って…う、ぁあ…!!」
『はいはい悪かった。スコールはガキじゃないな。お……大人、だもんな…?』
君付けは子供扱いとしてとられるから無しとして、最後の方は容姿が子供な為、若干疑問系になってしまった。
だけどスコールは俺の言葉に満足したのか、ごしごしと目元を擦って少し赤くなった目を此方に向ける。
「二度と"君"付けするな…それから"ガキ"と言うな…!」
『わかったよ、スコール』
きっと睨んできた姿に苦笑いをして頭を撫でてやると、少しだけ難しい表情を浮かべたが、気にせずに立ち上がった。
「◎〜、一応説明してきたぜー」
『ありがとうラグナ君。ほらスコール、行くぞ』
「…あぁ…」
視線を合わせて笑った俺に、スコールは頷いたあと近くに来たラグナを睨む。
びくっとしたラグナはその視線にしょんぼりして、スコールを避けながら俺の側に寄った。
可哀想だからしょんぼりとした肩を叩き労ってやると、ぱっと顔を上げて俺を見上げる。
「…えーっとな……?おじさんが一人いないんだが…。あ、オレのことじゃないぞ?」
ラグナはぽりぽりと頬を掻きながら報告し、そしてすぐに言葉を訂正した。
が、今の彼の姿自体子供なので意味がないと思い曖昧に頷いておく。
というかおっさんだったのかお前…
意外な事実に若干引いてしまった。
まぁ…誰でもおっさんになるんだし、あれだけどな。うん。俺もいつかはおっさんになるし。
………おっさんかぁ…………
おっさん
何だか複雑な心境になり、将来の自分を想像して悲しくなった。
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