自己紹介と確認
『俺は◎ ◎といいます。君たちのお名前はなんて言うのかな?』
「…………………、」
『……………………』
あれから大変だった。
泣きやんだと思ったら次は凄い殺気のこもった眼差しが来るし、お前は誰だとか言われるし。
寧ろ俺が聞きたいわ。お前ら誰だ。
まぁ、だいぶ混乱がおさまったちみっ子たちは、今は静かに目の前で座っている。
…一部を除いて。
「どうして私たちがこんな目に…!ふざけるな!!」
「あの意味分からないひずみが原因じゃないかなー」
「何で!何でだくっそー!!」
ソファに足を組んで座る女の子、呑気に顎に手を当てて笑う少年と、元の服自体が上半身裸みたいなもんだった男の子。
ばしばしとソファを叩く男の子に顔が引き攣った。
『おい、ちみっ子。やめなさい』
「ちみっ子ってなんだよ!!オレはヴァンだ!!」
『ヴァン君、止めろ』
ぎゃあぎゃあと喚くヴァンは、俺の制止を聞かず騒いでいる。
頭が痛くなってきて眉間を揉むと、ヴァンの隣で呑気にしていた少年が俺を見つめてきた。
「◎さん?此処は君の家なんだよな、」
『あぁ、うん』
「なんでオレたちが此処にいるかわかるか?」
『それは俺が一番知りたいことだよ』
ぽす、と頭を撫でて笑いかければ、一瞬目を丸くしたあと、少年は複雑そうな表情を浮かべる。
年不相応なその顔に内心驚きつつも、子供扱いが嫌だったのかと考えたり。
でも気にせずうりうりと撫で続け、子供は子供らしくしてろという意味を込めて髪をぐしゃぐしゃにしてやった。
「オレ、頭撫でられる歳じゃないんだけどなぁ」
『は?まだ十、十一歳の子供だろ。何言ってんだ』
苦笑いをこぼして何気なく言った言葉に、ずっと静かにしていた紫の髪の子が口を開く。
「本当は皆、もうとっくに大人だ」
『…………ははは、かーわい。背伸びしちゃって』
「背伸びじゃねーよ…マジで…俺、二十歳だし」
『はっはっは、可愛い冗談だ』
紫くんが話したのを皮切りに、皆ぽつぽつと無言タイムを止め始める。
しかしちょっと薄い茶髪の子が言った言葉に、俺は思わず表情筋をつらせ乾いた声で笑ってしまった。
二十歳?君はどう見ても八、九歳の子供じゃないか。
ちらり、隅っこにおいた数々の鎧に目を向ける。
確かに子供がつけるにしては大きすぎるけど…ははは、まさか。
『えーっと、名前がわからないから申し訳ないんだが…』
「俺、バッツ。バッツ・クラウザー。で、そこの泣いてたやつはオニオンナイトな」
『バッツ君、と…オニオンナイト君…』
あぁだからヴァンにねぎぼうずって言われてたんだな。
へぇ、と一人ごちて頷くと、俺の隣にいたオニオンナイトが脇腹を殴ってきた。
「ねぎぼうずって言うな」
『はいはい、たま君』
「たま君もい―!うわっ!!」
子供なのにちょっと力が強い。
痛くはないが殴ってきた手を掴んで引っ張った。
吃驚して身を縮こまらせたオニオンナイトをそのまま膝の上に乗せ、がしがしと頭を撫でる。
『君たちは?』
「カイン・ハイウィンドだ」
「俺はラグナ・レウァールっていうんだ。以後お見知り置きを」
何か言いたそうなオニオンナイトを無視して、カインとラグナに微笑んだ。
そして次に、むっすりとした顔でこれでもかと言うほど鋭い視線を向ける女の子と、上着を握りしめて此方を見ていた女の子に聞く。
『お名前、教えてもらってもかまわないか?』
女の子の扱いには慣れている為、自然と柔らかな雰囲気で話しかけられた。
「わたしは…ユウナ、です」
おずおずとしたユウナは、今気付いたけど青と緑の綺麗なオッドアイだ。
『ユウナちゃんか。それで、君のお名前は??』
素直に答えたユウナの髪を優しく梳き、黙り込んだ女の子に再度問いかける。
すると彼女は眉間に刻んでいた皺を更に深くして、吐き捨てるように呟いた。
「………お前に教える名などない」
『じゃあ桜でいいな、桜で』
生意気なガキだ、あまり子供が好きでない俺は頭の血管がぷっちんしたぞ。
子供に乱暴は言えないのでこみ上げてきた怒りをオニオンナイトを抱き締めることで抑える。
腕の中で何やら呻くたま君は気にしないようにして、名前を言いたくないならと髪の毛の色で呼ぶことにした。
桃か桜で迷ったけど、果物よりお花が良いだろう。
そう考えて桜にしてやり、俺は皆の顔を見渡し名前を頭に記憶させた。
「おい待て!私は"さくら"じゃないっ!勝手に決めるな!!」
よしよしと名前と顔を記憶して、慌ただしさに一時期忘れた聞きたいことを思い出していると、横から飛んできた怒鳴り声。
『桜ちゃん、どうした?』
「だからさくらじゃない!!私は、―…っ」
わざとらしく首を傾げると、ムキになって声を張り上げたが、すぐに口を噤みムッとした。
かっかしてるんだな、この歳の子は。
『うん?桜ちゃんは桜ちゃんじゃないのか??』
「…ッッくそ……ライトニングだ!!さくらと呼ぶな!」
『はいよくできました』
悔しげに歪められた表情に苦笑して誉めてあげれば、頭を撫でようと伸ばした手を叩かれた。
子供扱いされるのが余程嫌らしい。
仕方ない、まぁ、そういう性格の子もいるさ。
手を引っ込めて代わりにオニオンナイトの頭をまた撫でた。
『ライトちゃん、ねぎ「オニオンナイト!!」…はいはいたま君ねたま君、ユウナちゃん、カイン君、バッツ君、ラグナ君、ヴァン君…で間違いないな?』
「誰がたま君だ!!」
『よしよし、五月蠅い』
いちいち反応する姿が可愛くてからかいつつも皆に確認すると、全員がおもしろいぐらい同じタイミングで頷く。
なんてシンクロ率だ。
『…君たちには聞きたいことが沢山ある。質問してもかまわないか?』
「それはオレたちも一緒さ。そんで、まずはお互いの情報交換といきますか!」
子供に対する口調が分からず、ぎこちない話し方で喋ると、やけに大人びたラグナ君が提案してきたものだから吃驚した。
しかしまぁ、情報交換は重要なので、頷いて俺は一度頭の中で状況整理をしてから、目の前にいる子供たちに説明する。
『此処は見ての通り俺の家だ。俺は君たちに会うまで―…』
これは長話になるぞ。はぁ……
井上さん助けて下さい、なんて考えながら、ゆっくりと皆で状況整理をした。
自己紹介と確認
ひとまず俺の頭の中を整理させてくれ。
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