迷子常習犯の不安





遠くからもはっきりと分かるほど大きな建物が、だんだんと近づいてくる。

馬鹿デカいその建物を窓越しに見上げていれば、何だか首が痛くなってきた。痛ぇ。年かなこりゃ。いや今子どもなんだけどな。


それでもあまりの大きさに凄いなぁと思って一人食い入るように見つめていると、心なしか車が建物へと向かっている気がした。


もしかしてこれが買い物する場所?

…いやいや広すぎでしょー。
もちろん、今オレが大人だったらそうでもないのかもしれないが、この状態だと結構広いなあ。
それに、もしはぐれたら…うわっ考えたくねえ…。

確実に迷子決定で路頭に迷うよな。オレ方向音痴だし。やばいラグナさん死んじゃう!


どう考えても建物に入ろうとハンドルを切って道に曲がる◎の後ろ姿に、オレは最悪の事態を想定して嫌になった。


スコールやウォーリアは生真面目だししっかりしているから、はぐれることもなければ迷子になることも、たぶんない。

だけどオレは自分でも困るほど、気になったら一人好き勝手に行っちまうし、何より重度の方向音痴だ。はぐれるな。うん。


◎は良い子で頼りがいのある子だからオレたち三人ともはぐれないよう気にかけてくれるだろう。

それで、頑張り屋さんっぽい感じだからオレがいつもの如くふらふらして一人で消えたら、きっと自分の所為だって焦っちゃうんだろうなあ。



「は、はぐれないようにしねぇとな、うん」


何もかも世話になるのに心配までかけちゃいけない。
何よりオレより年下の子に…いやいや大人としてまずいぞオレ。



『ん?ラグナ、どうかしたのか』

「な、なんでもない」


うわ!やべえっ!
くるりとオレたちを振り返った◎に口から心臓が飛び出そうになった。

慌ててぶんぶんと首を振っても、取り繕おうと冷や汗を流すオレに◎は不思議そうに眉を寄せている。


もう目的地には着いたのか、車を止めてじっと此方を見つめるその黒い目にドギマギした…うう、あの目なんか苦手なんだよなあ。なんつーか、好青年すぎてまともに見れねえ…。


思わず俯いてもじもじしていると、そうか。と落ちてきた声にほっとする。よかった、あんまりくだらないことで迷惑かけたくねえからな。



『着いたぞー』


◎ののんびりした声にいつの間にか俯かせていた顔を上げる。
窓の外を覗けば、視界に収まりきらない白い建物の入り口が、沢山の人で溢れかえっているのが見えた。

ああ、ぞっとする。



『あー、三人とも。靴を買ってくるからそれまで良い子に待てるな?』


神々の世界とやらでは到底見ることが出来なかった光景に目眩を起こしていると、シートベルトを外した◎がオレたちに確認をとった。



「はーい!」


一応、返事だけは明るく、心持ちは焦りでいっぱいになりながらもその端正な顔を見返す。

ふっと笑った◎は、ウォーリア、スコール、そして…オレの頭を順に撫でた。

そしてドアや窓の開け方、暇ならば車内についたテレビで映画やら何やらが見れるように簡単な操作の説明をしたあと、最後にもう一度笑って車をあとにする。



「俺、迷子にならない自信がねえよ…」

「………………私もだ」


ぽつりと呟いた言葉に答えたウォーリアと無言で頷くスコールに、オレはいよいよ不安になった。



迷子常習犯の不安


迷子になったら…ごめんなあ。





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