些細な諍い






「◎、」

『ん、何?』


ばちばちと火花を散らす二人を微笑ましく眺めていたとき、くいくいと手を引っ張ってきたスコール。

忘れていたわけじゃないけど、自分の存在を主張する彼を見下ろせば不満そうに眉を寄せられた。



「…俺もついてく…」


部屋にだろうか?
それとも買い物にだろうか??

よく分からなかったけど、まぁ断る理由もなかったから承諾しておく。

一番初めに名乗り上げた奴を優先してあげよう。

こくりと頷いて許可をすると、眉間に刻まれていた皺が一瞬にして消え、スコールはぱぁっと表情を明るくする。


あまり表だって表情は変えていないが、仏頂面を見るより可愛かったので茶色の髪を撫でてあげた。



「本当か?本当だな??絶対だぞ…!」

『あぁ、本当だ。一緒に行こうか』

「…………やった…!」


うわ、目をキラキラさせてる…
笑えばもっと可愛いんだろうになぁ。

ぎゅうっと手を握る力を強くして嬉しそうに目を煌めかせているスコールに苦笑をこぼし、とりあえずこれで一人目だなと考える。

未だに火花を散らしている二人は……まぁ、何人来ても迷わなければ良いだけの話だから置いといて、俺はスコールの手を引いて自室へと向かう。

ついでに冷や汗を流すラグナが何となく可哀想だったから、長い黒髪を軽く撫でてやったあと、背中を押して一緒に連れて行った。


………一瞬にして機嫌悪そうにむすっとなるなよスコール君…



「何で此奴も一緒なんだ」


おいおいと呆れていた矢先、握る手に込められた力が意外と強くて骨がみしみしと軋んでいることに気づいた俺。

力強いな、まぁ男の子だから仕方ないか。うん。いててて…!


でもそれより、苛立ちから吐き捨てられた一言もなかなか威力の強い言葉で、あからさまにラグナを傷つけたようだ。



「酷い…仲良くしようぜスコ「断る」…っ、…◎ー!」

「っあ…!!」

『お?』


若干べそをかいていたラグナは彼なりにスコールに歩み寄ったけど、いとも簡単に切り捨てられてしまう。

一刀両断されて我慢の限界になったのか、涙目になったラグナが俺を呼ぶと腰に抱きついてきた。

腰を襲った軽い衝撃と、顔を埋める現子供の元おっさんに戸惑ったが、こういう時は慰めてやる…ものだよな?たぶん…


対処法が分からないおかげで随分ぎこちない動きになったけど、いつもより優しめに頭を撫でてあやす。

ラグナに突っかかろうとするスコールは、手を握ったまま少し距離をとらせた。



『スコール、いくら嫌いでも言葉と態度を考えろ。やりすぎだ』


そこは虐めちゃ駄目とか叱れよ!とか世のママさん方に思われそうな気がするなぁ。

でも好き嫌いは他人が口出しして直るものじゃないから、注意だけにしよう。



「っ、だっ、て…!!」

『男がだってもでもも使うな。言い訳は見苦しいぞ……ほら、ラグナ君も泣くなよ』


ぐっと顔を歪めて食い下がるスコールを一別し、腰に顔を押しつけたままおそらく泣いているラグナの背をさする。

すると今度はスコールまで目に涙を貯め始めたものだから、あ゙ー!ってなってしまった。


えぇー…?何で泣くんだ…!?
あ゙ーッ面倒臭い!これだから子供は…!!


井上さーん!!
本日二度目。
心の中で井上さんと叫び助けを求めてみる。



「ゔぅ〜…スコールが、っすこーるがぁ……!」

「◎っ、おこ、った…っ」


あのー僕、今ぽんなんですよ上半身。
地肌に髪の毛当たって擽ったいんだが。

たたっとスコールまで抱きついてきて、両サイドにて二人で仲良くグスグス泣いている様子に、溜息しか出ない。

どうすれば良いってんだいったい…!!



『はあぁぁ……あのなぁ、泣いてばかりだと買い物連れて行かないからな…』


苛立ちを紛らわすために無意識にがしがしと頭を掻いて、腰元で啜り泣く二人に言い放った。

そうだ、手が掛かるちびっ子は連れて行けない。
何故なら俺が疲れるし、買い物どころじゃなくなるからだ。



「「……………………」」


んんん?
少しキツく言ってしまった瞬間、どうしてだろう。
面白いぐらいにぴたりと止まった泣き声。


え?何これ凄い沈黙。

あまりにも静かな二人に吃驚して下を向けば、涙の引いた四つの瞳が此方を見つめていた。

若干目元は紅いが先ほどまで泣いていたのが嘘のようにじーっと俺を見上げる二人は、うんともすんとも言っていない。


お前ら嘘泣きか?嘘泣きだったのか??

思わずそう考えたけど、気まずい雰囲気でちらりとお互いに顔を見合わせた二人を見て、そうではないと分かった。



「……あんた…あとで覚えてろよ」

「こわっ…!…まぁ、一時休戦ってやつだな……」


ギロリ、という効果音が聞こえそうなほど冷たい眼差しを向けたスコールに、怯えながらも言い返すラグナ。

仲直りはしてないが泣きやんだことにほっとして、俺は両サイドで睨み合うチビを引きずりながら部屋へと向かった。


いい加減、上半身裸だと寒いからな。



些細な諍い

ていうか腰に顔埋められてた所為で涙やら鼻水やらが肌についたんですけど。

びちょびちょして凄く気持ち悪い。うげぇ…







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