おしゃべりガール





人々で賑わう店内にルーシィと共にきたナツたちは、目の前に注文された数々の食事が並んだ瞬間に凄まじい勢いで飛びついた。

余程、腹が空いていたのだろう。

至る所に食べカスが飛び散り、どんどん周りが汚れていった。


◎はその様子を横目で見つめながら、その勢いの凄さに呆れて溜息を吐く。

彼は何も頼んでいないようで、窓の外から見える景色に視線を移すと、ナツたちの口から発せられる言い表した難い咀嚼音を耳にして眉間に皺を寄せていた。



「あんふぁいいひほがぶぁ」

「うんうん」


忙しなく手と口を動かすナツと頭から魚を口いっぱいに頬張り必死に食事をするハッピーに、流石に引き気味のルーシィは引き攣った笑みしか浮かべられない。



「あはは…ナツとハッピーだっけ?」


彼等にあまり急がないようにと手で制するルーシィは、頭にべちゃりと食べカスが飛んできた事に更に口角をひくりとさせる。



「わかったから、ゆっくり食べなって…何か飛んできてるから……はは」


お色気代が食費に消えた事を微かに嘆きながらも頭にへばりついた食べカスを丁寧に拭き取ると、先程出会った男について説明し始めた。



『魅了か…』


あの男が魅了という魔法を使っていた事をルーシィから聞いた◎は、先程の女性たちの様子を思い出して一人頷く。


しかしあまりにも小さな呟きは周りには聞こえないので、ルーシィはフードを被り無言でいるように見える◎が気になるのか時折ちらりと見ていた。

まぁ、顔が見えず謎めいた彼が気にかかるのは仕方がない事である。



「この魔法は人々の心を術者に惹きつける魔法なのね。何年か前に発売が禁止されてるんだけど……」


◎から視線を外した彼女は、禁止されても尚、魅了を使い女性たちの気を引いていた男が許せないのか、苦々しげな表情を浮かべた。

しかし、それは少しの間だけで、暫く経つと明るい表情に戻り食事をするナツたちの方を向く。



「あたしはアンタたちが飛び込んできたおかげで魅了が解けたって訳」

「なぶぼご」

「こー見えても一応、魔導士なんだーあたし」


軽く受け流し食事に没頭しながらも相槌を打つナツに気付かず、楽しげに笑うルーシィは声を弾ませてギルドなどについて長い話をした。



『話が長いな、この女』

「ほぼなぶがぁ」

『…お前はお前で、何を言ってるんだかわからないし』


料理から目を離し振り向いてきたナツの口周りには様々な種類の食べカスがべっとりと付着しており、◎は今日何度目か分からない溜息を吐き出す。



すると、知らぬ間に語り終えて満足になったのか一度話を切ったルーシィが、ナツたちに笑いながら謝った。



「あーゴメンねぇ!魔導士の世界の話なんて分かんないよねー!!」

「いあ゛……」


呆然として自分を見つめるナツたちを全く気にせず、少し落ち着いたらしい彼女は指を組み其処に顎を乗せ笑んだ。



「でも絶対、そこのギルド入るんだぁ…あそこなら、大きい仕事、沢山貰えそうだもん」

「ほ………ほォか…………」

「よくしゃべるね…」


夢見心地のような笑みを浮かべてそのギルドを思い浮かべているのか感嘆の息を吐くルーシィに、一同は唖然として食事の手を止めている。

◎に至ってはもう話を聞いていないようで、また窓の景色に視線を移動させて通り過ぎる人や馬車を目で追いかけていた。





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