真っ逆さま


『で、どうしてこうなった』

バッサバッサと頭上で聴こえる音と、バタバタバタと己の裾あたり、そして眼前で聴こえる音に、◎は半ば呆れながらつぶやく。


「◎は軽いけど2人一緒は重いよ〜」

「何ィ!?◎、もっと飯食えよ!痩せ過ぎだぞ!!」



ナツのマフラーが目の前で風になびき、バシバシと頬に当たるのを感じるその横目で、当の本人たちは平然と会話していた。

ここは、ハルジオン(上空)。そう、(上空)だった。


『わざわざ空から行く奴があるか』

「でもこっちのほうがはえーだろ…妖精の尻尾語ってる奴の顔見とかなきゃなんねーしよ」


ハッピーに頑張って運んでもらい、夜の空中散歩気分で船へと向かう2人は、ちらりとお互いの顔を見合わせる。


「あんな奴いたか?」

『…記憶にないな』

ナツの問いかけに◎は肩をすくめる。何故妖精の尻尾という名が出て、なおかつあの男の話をしているのか。それは簡単なことだった。
そう、ルーシィに話しかけられた時はそのあまりの話の速さにこちらからギルドの話をすることはなかったが、何を隠そう彼らは妖精の尻尾の一員だったのだ。
それなのにもかかわらず、そんな彼らの記憶に、今朝見たサラマンダーの男はいない。まず、自分たちのギルドに、あのような目立ち方をする者などいないのだ。いや、女を侍らす者はいたのだが、魅了<チャーム>など使わなくても持ち前の美貌で虜にするような者しかいない。


「ねえそろそろオイラ、疲れたよ〜」

「がんばれハッピー!もうちょっとだ!」

勝手にギルドの名が語られているのか。
そう結論づけた◎は、ひいひいと言い始めたハッピーとそれを励ますナツの声を聞きながら、顎に手を当てて考えこむ。
なかなか、いい予感はしない。わざわざ他のギルドの名を使う奴にろくなことをする奴がいるはずがないのだ。


『ナツ、あの船の真ん中らへんでおろしてもらうか?』

「おーちょうどいいな。…船か…うっぷ」

「乗る前に酔わないでよーナツー!というか、もう、限界…!」

船とかなり近付いたあたりで、適当に降りる場所を決める。パーティ中、といったところか。船上には沢山の女性客。そして、彼女らを飾る様々なドレスで、物の見事に色づいていた。しかし、その賑やかな雰囲気で、少し静かな様子の船内に、◎は目を細める。

―やはりろくな事にならなさそうだ、と。


『…ナツ、この船だが』

「ふたりとも、ごめん〜!」

「『!!』」


数秒後、ハッピーの魔法がとけた2人は真っ逆さまに落ちた。

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