満腹ボーイズ
「あーーー!くったくった!腹いっぱいだー」
『食い過ぎだ、恩返しとはいえ女の金だぞ…』
「◎、飲み物しか頼んでなかったよね」
「こいつ意外と気にしいだからな。つかよくそれでもつな、腹減らねぇ?」
街から聴こえる喧騒に混じって、3つの声があたりに響く。
先ほどのルーシィという少女と別れたナツ達は、腹ごなしと言ってはなんだが、相変わらずイグニールの情報を集めに街を散策していた。
『だからここに来る前に、お互い飯を食べただろうが…』
腹をこれでもかというほど膨らましたナツとハッピーを横目に、◎は1人額に手を当てて呆れる。女。そう、彼は男として女に奢られるのは嫌だった。しかし、だからといって恩返し、という相手の気持ちを蔑ろにするような男でもなかった。
そのために飲み物1つでその気持ちを汲み取りつつ、極力金銭的負担をかけないようにしたのだが―もともと腹ぺこだった彼の相棒たちはそんなこと微塵も考えていなかったようだ。
彼を横目に、たぷんたぷんと揺れる膨れた腹がそれを物語っている。
『はぁ…もういい。それより、イグニールのことだ。もうここに情報はないんじゃないのか?』
◎はできるだけその腹から目をそらしてナツに聞く、というよりは言外に、帰るぞ、と伝える。すると、今の今まで満腹でご機嫌だったナツの表情が暗くなった。
おお、とか、うん、とかちくしょう…とみるみるうちにうなだれるその背に、ぽんと肩を置けば、渋々と頷いて、またうなだれる。
「うその情報だったんだね、ギルドで聞いたの」
「またイグニールに会えなかった…」
唇を尖らせるナツと、なだめるハッピー。そして毎回のことだがどうして情報の信憑性を考えないのかと問い詰めたくなる◎。
しかしナツがあまりにも落ち込んでいるものだから、彼は何も言わずに、駅へと向かう道へナツ達を促そうとした。
が、しかし。
「見て見て〜!あの船よ、火竜様の船!」
「あ〜んっ!私もパーティ行きたかったぁ」
「火竜?」
「知らないの?今この街に来てるすごい魔道士なのよ」
「あの有名な―」
彼らの後ろで流れる、甲高い声の会話。
「妖精の尻尾の魔道士なんだって!」
その言葉で、その足はぴたりと止まった。
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