行き先
………類は友を呼ぶってやつか。
走ってくる二人を見ているとついそう思ってしまう。
「サテュロス!いったい、どうしたと、いうのだっ!?」
「おい、突然、走るな…!」
俺たちの姿を見るなり声を上げてスピードを緩める女性と青年。
女性の方は金糸のような艶めく髪に、サテュロスと同じ顔に刺青…かな?模様がある。
対して、派手だなぁ…と思う女性の後ろを息も絶え絶えに追ってきた青年は落ち着いた色の背格好だ。
何故かマフラーを巻いているのが気になるだけで、女性と比べれば平々凡々。
凛々しいけど幼さが垣間見える顔立ちに、旅人、というより戦士としての若さを感じた。
「メナーディ…遅いぞ」
「すまぬ、しかし…っ…、…そいつは誰だ」
サテュロスが声をかけた女性、メナーディは、息を整えて謝罪をする…と思いきや、すぐに俺を睨む。
あぁ、とその視線を辿って俺を見たサテュロスは、ぐいっと強い力で腕を引っ張ってきた。
「◎だ。たった今知り合った」
「ただの人間ではないか…」
いや、ただの人間って…魔物だとでも思ったのかよ。
何処か呆れたように俺を見るメナーディに、若干口元がぴくりとした。
「◎、メナーディだ。それから後ろにいるのはガルシア」
『あー、…初めまして。以後宜しくお願い致します。メナーディさん、ガルシアくん』
「……気安く呼ぶな」
眉を寄せて邪険な雰囲気を纏ったメナーディに今度こそ大きくひくつく表情筋。
可愛げのない女…!
でも、もしかしたらサテュロスと同じタイプで、良い人かもしれない。
…口調や風貌が似ているだけで"良い人"と思うのは軽率すぎるか。
「あ、あぁ、宜しく、◎さん」
メナーディと俺の間に漂い始めた険悪な空気と、何故かサテュロスに手を掴まれたままでいる様子に戸惑いつつ、ガルシアが手を差し出す。
握手を交わしてにこりと微笑むと、ガルシアは視線をさまよわせてぎこちなく笑みを返してきた。
『ガルシアって弟みたいで良いな』
「なんだ、弟が欲しいのか?…くれてやるぞ」
『いやいや、仲間をくれてやるってお前…』
癒されるわ〜こんな弟が欲しいなぁ。
そうぼやく俺に驚くガルシアを後目に、ニヤリと笑んだサテュロスは嘲笑を浮かべる。
あれ、仲間…なんだよな?
「、◎さんはこれから何処に行くんだ?」
内心首を捻ってサテュロスを見る俺は、ガルシアの質問にまぁ冗談だろうと楽観的に考えて彼に視線を向ける。
『何処に行く、か…』
ハイディア村が麓にあるだろう高く聳えるアルファ山を眺め、すっと目を細めて睨む。
今まで気にならなかった軋みが、また耳障りな音を立て始めて鳴いた。
俺がアルファ山の方向を見た瞬間、微かに三人の目つきが厳しさを纏わせた気がする。
もしかして…いや、まぁ、別に言ってもかまわないか。
『ハイディア村。…いや、アルファ山かな』
囁くように声を落としてその名を口にした途端、気のせいとは思えないほど、明らかな動揺が見て取れた。
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