挟まれて、焦燥感







ゆらゆらと意識が揺れて浮上する。
気がつけばぐっすりと眠っていた俺は、暖かな日よりに目を擦った。



『んぁ…?』


そこでやっと気付く。
腕が動かしにくくて、暖かいというよりやけに柔らかな感覚がすることを、遅ればせながら。


身体全体を包むその暖かさは、太陽の光にしては生ぬるい。


更に言えば頭の下に感じる心地良い何か。
俺って枕敷いてたっけ?


何だか怖くなって、おそるおそる瞼を開く。
その僅かな間にも心臓は嫌な音を立てて、俺は耐えられないというようにバッと目を見開いた。



『!!!』


そして、後悔。
視界に映った青は、紛れもなく見知った色だった。

さらりした髪が頬にかかるほど近くにある顔は、普段と違って幼くあどけない。

実年齢は恐ろしいほど歳がいっているのに、外見は俺たちとさほど変わらないピカードが、ぐっすりと眠っていた。

すうすうと寝息をたてるピカードの肌は驚くほど白くて、呼吸音が聞こえなければ死んでるんじゃないかと思ってしまうぐらいだ。


事細かく観察出来る距離にはっとして、思わず身を引く。

すると、後頭部に感じた更なる違和感。
それはピカードの腕じゃなくて、明らかに別のものだった。


え…いや…まさか………

背後を振り向きたいが、しっかりと腰に回された腕の所為で動くことは出来ない。

それどころか、もう一つ腹に回された腕が更に俺の身体を縫いつけているのに気付いてしまい、嫌な予感は当たってしまった。


ぎ、ぎぎ、と唯一動かせる首を限界まで後ろに向かせ、微かながらも背後に視線を動かす。

と、見えてしまった深い焦げ茶に、また心臓が跳ねる。



『ガルシア……』


しかも髪色と同じ瞳とも目が合って、本気で口から心臓が飛び出るんじゃないかと思った。

起きてる、よな此奴。

まさか目を開けたまま寝ているわけじゃないだろう、とぎこちなく名前を呼んでみれば、微かに動く視線。



「起きたか」

『いや、え…え?なんで??』


至って普通に話しかけられて、俺は動揺を隠しきれない表情でひそひそと問う。

無表情で俺の腹に腕を回し、更には後頭部に手を添えるガルシアに、目が点状態だ。


さっき当たったのは手か、なんて思いつつも、どうして髪を撫でられなければいけないのか。

何が悲しくて俺は男二人の腕の中で目を覚まさなければならないのか。

というか何で二人は俺を抱き枕にして寝ているのか。


全ての謎と疑問を込めて、何で、と呟いた。
のだけれど…

きょとんとしたガルシアは首を傾げるだけで、俺の問いには答えない。



「なんで、とは…?」

『いやだから、何で俺はこうなってるんだ?』


微かに声を上げて聞いた瞬間、依然として俺に抱きついているピカードの腕が、ぎゅうっと引き寄せるように力を込めてきた。

ふいに引かれたおかげで、ガルシアに顔を向けたまま固い胸元に押しつけられる。

しかも頭の下に敷いていた腕も動くものだから、ぼすりと頭に顎を乗せられ抱きくるめられてしまった。



「……………」

『っうぉ!』


ガルシアがじっとピカードと俺を眺める。
かと思えば、首元に額を押し当てられて、くすぐったさにぞわぞわした。


腹に回されていた腕が、ピカードと同じように動く。

後ろからもぎゅっと抱きしめられて、目が覚めたときよりも密着した身体に目眩がした。

まさに板挟み状態。
俺はどうすればいいんだ。



「◎とピカードが一緒に寝ていたから、俺も混じっただけだ」

『…おかしいな、一人で寝てたはずなんだが』

「あまりにも気持ちよさそうな寝顔だったし…つい、添い寝したんじゃないか?」


言葉を発する度に吐き出される息と空気の振動がうなじにかかり、むずむずする。

それでも会話を続けていると、つい、なんて言われたから呆れて声が出なくなった。


つい、で添い寝はしないだろ、普通。

捻っていた首を元に戻し、少し上にあるピカードの寝顔に視線を移す。

やはりぐっすりと寝ている彼は、気持ちよさそうに目を閉じ深い眠りの中だ。



「もう少し寝よう。まだ昼過ぎだ」


後ろから眠たそうに欠伸をしたガルシアが、少しだけもぞもぞとしたあと勝手の良い体勢を見つけたのか首の付け根に落ち着いた。



『お、い…ガルシア……ガルシア?』


ぴくりとも動かなくなった背後に声をかけても、返事は返ってこない。

三秒で寝るなんておかしいだろ!
起きろよおい。頼む起きてくれ!


一切の身動きが取れなくなり焦るのに、前後の二人はすうすうと寝息を立てている。

抱き枕の俺をしっかりと抱いて眠る二人に、俺は泣きたくなった。





だから何で俺を挟む!?


Fin.




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