双竜、男と汽車に乗る







ガタン、ゴトン、線路を走る汽車がフィオーレを背に走っていく。

窓を開け放ち風を浴びる◎は、外の景色に目を向け、気持ちよさそうに細めた。






「っ、…うっ………」
「おぇえ…っう゛…う、ぷ…っ」


その正面で聞こえる呻き声。
清々しい気分を一転させる重々しい雰囲気に、◎は表情をひきつらせて唸った。



「………………どうにかならんのかそれ」

「「無理だ…っ」」


彼の目の前には2人仲良くうなだれる双竜の、弱々しい姿があった。

普段とは打って変わり血の気を失った表情で答える2人を見て、◎は呆れた面もちで腕を組む。


乗り物が苦手であるくせに、◎についていくと言って聞かなかったスティングとローグ。

初めは威勢が良かった彼らも、汽車に乗った瞬間から見る見るうちに青ざめ弱り果ててしまった。



「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…」


わざとらしく頭を振る◎は、心底呆れ果てながらも、2人に哀れみの眼差しを向ける。

胃の辺りを押さえ椅子の上で身体を折り曲げていたスティングが、その溜息混じりの声にぴくりと反応した。



「うるせェ!うっぷ…吐くぞ!」

「吐けよ、窓に向かってな!」

「おぉおう………!!」


不穏な雰囲気を感じ取った◎は、怪しく口を押さえたスティングの後頭部を素早く掴み窓の外へ押し出す。

顔に叩きつけられる風圧にじたばたと暴れていたが、暫く押さえつけられているとスティングはだらんと力なく動かなくなった。



「おう゛ぇえええ………っっ」

「うおっ汚いな!ばっちいぞスティング!」


ひゃっひゃっひゃ!と高笑いする◎の手元でぐったりとするスティングは涙目で胃の内容物を垂れ流す。

端から見れば異様な光景に、ローグはこみ上げてきた吐き気を堪えて静かになった。



「ローグ?」


それに気づいた◎は、スティングを押さえつけたまま不思議そうな眼差しでローグを見やる。



「…眠らせてくれ…っ気分が悪い…」

「そうか、…横にでもなるか?」


胃がぐるぐると回り胸焼けがする感覚に、顔を青ざめさせて訴えた彼の声は何とも苦しそうだ。

心配そうに眉尻を下げて顔色を伺えば、片目にかかった長い髪をさらりと揺らし、ローグは首を振った。



「………膝を…頼む…、堅い椅子じゃ、無理だ……」

「!!」


途端にスティングが跳ね上がり、窓の外に出た顔を元に戻そうともがく。

ローグの提案がどうも気に入らなかったらしく手足をばたつかせるスティングは必死だ。

先ほどとは打って変わった元気な様子に、◎はびきびきとこめかみ辺りに筋を浮かせ苛立った。



「ローグおまっ、」

「急に暴れるな!って、…あ、」

「ッうおおおお!?ぐほっ!!」


ガン!!
ぷしゅ〜…………


がばっとスティングが顔を上げたのもつかの間。
ただ頭を押し返すつもりが、勢い余って窓の縁に額をめり込ませてしまった◎は、鈍い音を立てて反応を返さなくなったスティングにさっと青くなる。



「す…スティング…?スティーング?……やべ、気絶してる…………」


額から煙を上げているスティングは、◎の呼びかけに答えない。

ばつが悪そうに後頭部を掻いてローグに縋るような視線を寄越せば、今回ばかりはお前が悪いという目で見返される。



「やりすぎだ、◎………はあ、俺は寝るぞ」


よろよろと席を立ち◎の隣に移動したローグは、彼が口を開く前に膝に頭を乗せて目を閉じた。



「…………………とりあえず静かになったから、いいとするか」


◎は片手に持っていたスティングを解放し、完全に空いた前の席に凭れさせる。

ローグからはもうすでに寝息が聞こえてきていた。




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