双竜、男に絡む
ざわめくギルドのカウンターにかかる声。
それに答えた女性はいくつかの注文を聞くと、愛想良く笑んですぐに奥へ消える。
◎はその背中を見送り席につくと、手にした依頼書とより詳しい資料に目を通し始めた。
ぺらぺらと頁をめくる彼の隣は空いている。
暫くして椅子を引いた音とともに席は埋まった。
そして再びカウンターにかけられた声に、◎が注文した品を手に奥から女性が現れる。
カウンターにそれらを並べた女性は隣の客へと移っていく。
◎は資料から目を離さずに、前に置かれたジョッキに向かって手を伸ばした。
「あ」
だが、彼の手が触れる直前にジョッキは消えてしまう。
すかっと空を掴んだ◎は、横から伸びてきた手に握られているジョッキに眉根を寄せた。
「300万J…ってことは討伐系の依頼か?」
ひくりと歪んだ表情そのままに隣を見れば、ジョッキを奪った犯人が悪戯っぽく笑っている。
「スティング、」
「てかこれうめぇな。何のジュースだ?」
「って、うめぇじゃないだろ!返せ!」
ぐびぐびとジョッキを呷るスティングは◎の制止を聞かず、それどころか彼の依頼書を引ったくり読み始める。
そして一通り目を通すと、隣に座っている青年に渡した。
「この値段、割に合わねぇと思わないか?」
受け取った青年はスティングの言葉に頷く。
「ああ…ただの討伐にしては高すぎる」
◎は小さく舌打ちをすると、スティングを挟み青年に話しかけた。
「ローグ、いたならスティングを止めろ。こいつ人のものを飲んでるぞ」
「食ってもいるけどな」
「!俺の朝飯があああああ!!」
絶叫する◎を横目に、オレンジ色の果実を片手にもしゃもしゃと口を動かすスティング。
口いっぱいに頬張りながらにやにやと笑む彼は、怒りに青筋を浮かべる◎とは対照的に楽しげだ。
拳を作りうち震える◎の苛立つ様子によりいっそう笑みを濃くし、呆れた眼差しのローグへと向き直った。
「はぁ……で、どうするんだ?」
答えは分かり切っていたのだが、ローグは依頼書をカウンターに置き、怒る◎に視線を向けながらスティングに向けて問いかけた。
待っていたと言わんばかりに目を輝かしたスティングは、にかっと犬歯を見せると満面の笑みで答える。
「決まってんだろォ?◎について行く!」
その瞬間、背後からにゅっと伸びてきた腕が、彼の髪をわし掴んだ。
「ふざけるな。ローグはいいとして貴様だけは許さんぞスティングゥウウウ!!」
「うごぉっ!!?あででででで!!!」
「……………さっさと行くぞ」
ぎゃんぎゃんと喚き騒ぎ始めた2人に、カウンターに肘をついてうなだれるローグから長い溜息が漏れた。
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