今日は本当に不思議な日だと思った。仕事だと思って家を出たらアパートの前に高級車。
言わずもがな、誰だかは分かる。あんまり目立ちたくないとか言っておきながらどうしてそういう処は自重しないんだ。
「…幽」
「兄さん、おはよう」
俺、平和島静雄の弟。今や芸能界のアイドルともいえる羽島幽平こと、平和島幽。
朝から何の用だ?とか思っていたら腕を強く引っ張られて唇に柔らかい感触。
目の前には幽の顔。まさか、これ。
「おはようの、キス」
「ばッ!な…ッ!!」
相変わらずこんな恥ずかしい事を平気でしやがるんだから困ったもんだ。
これから仕事だっていうのに…。
「じゃあね」
「は?え、幽…まさかコレだけをするためにココに来たのか?」
「そうだけど。何かいけなかった?」
「え、いや…」
幽は真面目にそういう事をするからなんだかこっちが悪い事しているみたいじゃないか。
小さく頬をかくと俺は幽に手を振って仕事場へ向かった。
今日は確かゲーセンの前でトムさんと待ち合わせていたはず。
…なのに。
「あー静雄さんだー!!」
聞き覚えのある声。ああ、これは…。
「九瑠璃、舞流…久しぶりだな」
「静雄さんも久しぶりー!幽平さんは元気?」
「…傷(怪我とかしてないですか?)」
「さっきも会ったけど、元気そうだったぞ」
俺がそう言ったら二人とも顔をしかめて悔しそうに嘆いていた。
この二人は幽のファンだ。しかも俺の大嫌いなノミ蟲の妹達。
兄貴はあんな駄目なヤツなのに妹はなんでこんな素直で可愛い奴なんだろう。
世の中不思議だとつくづく思う。
「幽平さん、何か言ってました?次はどこに行くとか!!」
「いや…、ただおはようのキスとかはされたが…」
「…唇(キス…)」
油断した。完璧に油断した。九瑠璃に腕を引っ張られたと思ったら唇に柔らかい感触。
今日一日で二回もキスされるとは…。九瑠璃の舌が俺の唇を舐める。
「あああー!!クル姉ずるい!私もする!幽平さんとの間接キス!!」
「んむぅ!?」
今度は舞流にキスをされる。なんだ、これ。なんで俺がキスされてんだ?
しつこくキスをされ、漸く離れたと思ったら俺達の周りの視線がとてつもなく痛い。
そりゃそうだ。こんな朝っぱらから道のど真ん中でキスしてりゃあなぁ…。
「な、なんなんだよお前らは…」
「幽平さんとの間接キス!きゃー!どうしようクル姉!嬉しい!」
「…同(私も)」
俺は無視か。やっぱり兄がああなら妹も同じなのか…?俺と幽は違うけどな。
その後二人は俺にお礼を言うと上機嫌で何処かへ行ってしまった。
…一体なんなんだ。っと、そうだ待ち合わせ場所に急がねぇと。
駆け足で待ち合わせ場所に向かえばトムさんは時計をチラチラとみていた。
「トム、さん!すんません遅れました」
「ん?いんや。まだ大丈夫だべ。っしゃ、静雄も来たし行くか」
「肯定。速やかに現場へ向かいます」
ああ、そういやヴァローナも一緒だったな。ヴァローナは最近俺の部下になったやつ。
喋り方はいまいちよく分かんねぇけど色々知ってるんだよな。
甘いもんも好きみたいだし。今度ケーキバイキングにでも連れてってやるかな。
トムさんとヴァローナと一緒に目的地の現場へ向かう途中。
見なれた制服を着ているやつらを見かけた。向こうもこっちに気付いたようで駆けよってきた。
「静雄さん、お久しぶりです!」
「えーと、来良の…」
「竜ヶ峰帝人、です」
「紀田正臣です!」
「ぁ、園原杏里、です」
いつも三人一緒にいるよな、こいつら。この三人は俺が通ってた高校の後輩。
今ってまだ授業してるんじゃなかったけか?
「今日はテストだったんで早めに学校が終わったんです」
「で、これからゲーセン行ってエロ可愛い杏里を真ん中にしてプリクラを撮ろうって話してたんすよー!なぁ帝人!」
「ちょ、いきなり僕に話を振らないでよ正臣!」
「なんだよ帝人。杏里はエロ可愛くないとでもいいたいのか!?帝人の目はなんの為に付いているんだ!杏里のこの綺麗なボディを拝む為だろうが!!」
「正臣もう煩い。ごめんね園原さん。正臣の事は無視していいからね」
「え、は、はい…」
…いつにも増してやり取りがコントみたくなってないか?仲がいいのは良い事だしな。
俺の高校時代は凄まじいもんだったからあんまり思い出したくない。
来良の後輩と別れた後、仕事をちゃちゃっと終わらせ夕飯でも買おうかと悩んでいた時。
「よぉ、静雄。今帰りか?」
聞きなれた声。来良学園がまだ来神学園だった頃の同級生。
門田と遊馬崎と狩沢と渡草。この四人もいつも一緒にいるよなぁ…。
「門田か。仕事はさっき終わった処だ。そっちは何してんだ?」
「俺らは相変わらずこの変をブラブラしてるだけだな」
「あー、シズちゃんだ!ねぇねぇ、シズちゃんもこっちに来て一緒に読まない?」
「? 何をだ?」
「決まってるじゃないっスか!電撃文庫っスよ!」
コイツらは相変わらずのオタクっぷりだな。俺は本なんて読まない。そんなに集中力はねぇし。
スキあらば狩沢と遊馬崎は俺をワゴン車の中に連れ込もうとする。
ある意味コイツらが一番怖いかもしれない。俺がキレださないか渡草が運転席で青ざめた顔で見ていた。
いや…流石にもうこのやり取りには慣れたからキレはしねぇけどよ。
「そういやシズちゃんはイザイザとボーイズでラブってるの?」
メキッ
「わぁああ、狩沢さん!静雄さんにそれは禁句…!」
天敵の名を出され思わず掴んでいた車の扉を握り潰してしまった。ああ、悪い渡草。いつか弁償する。
その後も狩沢が俺と臨也がラブってるだの意味分かんねぇ事ばっかり言いやがるから頭に血が上ってきた。
俺が暴れ出す前に門田が俺を止めに来て早く帰れと急かされた。
今日はアイツに出くわさない良い日…でもないが。取りあえず会わなくて済んだと思っていたのに。
「やぁシズちゃん」
出た。よし、殺す。
「無言で標識引っこ抜いてコッチ来るの止めてくれないかなシズちゃん。すごく怖いよ」
「丁度苛々してた時に手前が現れたんだ。文句は言わせねぇ」
「それ、八つ当たりっていうんだよ?知ってた?シズちゃん」
とりあえず持っていた道路標識を臨也に向かって投げつけた。
避けられるのは目に見えていた。だから投げた後にガードレールを引っこ抜いて今度はそれを投げつける。
「避けんじゃねぇ!!」
「避けなきゃ俺死んじゃうよ」
「だったら当たって死ね!」
「酷いなぁシズちゃん。これでも俺も必死に生きてるんだよ?」
よく言う。人の事見下してるくせに。ああ、駄目だ。
今日は朝からいろんな事が合ってまだ頭の中がごちゃごちゃしてるっつーのに…。
「やっぱり駄目だ。手前をぶっ殺さなきゃ駄目みたいだ」
日常なんていらない。俺には非日常の方が似合うんだよ。
ありふれた毎日なんかいらない。
楽して生きる毎日なんて、つまらないだろ?
――――――
お待たせしましたシロ様!
確か静雄の総受けとしてのリクを受け取った、はず←
しかしこれは総、受け?あああ、こんなのですみません!!
リクエストありがとうございました!!