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食堂での一件を終えてもニーナはどうにもエースの態度が気になっていた。

今は甲板に横になってぼんやり空を眺めてるエース。その横で甲板に座って、同じくぼんやり空や海に視線は向けるニーナだが、意識はエースに向いている。

「あ、ニーナ!こっちでカードしようよ」
「ごめんねハルタ」
「えぇ、またエースがべったりしてるの?」
「アハハ……」

時折掛かる誘いの声を苦笑と共に断る。相手からはその度に、横に寝転がるエースへ仕方ないな、と視線を向けられた。

そんな誘いを断って何度目だっただろうか。気付けば太陽は海の向こうへ沈もうとする中、ポツリとエースが横になったまま呟いた。

「悪ぃな……」

何を思っているのか、申し訳なさそうにしていながらも、若干安堵したような顔を向けられては、ニーナもエースを放っておけなくなる。

そんなニーナの内心を察したのか、ヘラリとまたエースの顔が緩んだ。

「お前の傍って落ち着くんだよ」

そんな風に言われてしまうのだから、やはりニーナにエースを置いて場所を移動するようなことが出来ないのだ。

そうしている内に、今度はニーナがポツリと呟いた。

「……何かあるの?隊長職には興味無い?」
「んん、そういう訳じゃねぇんだけどな」
「まあ、急に言われたら戸惑うっていうのは分かるけどね」
「そうなんだよなぁ」

分かってくれるか、とエースが顔を明るくする。そのまま体を起こして頷くエースだが、どうもニーナにはそれだけではないような気がしてならない。
それに、急な話に戸惑うというのも、普段のエースならば当てはまらないのではないだろうか。

「前言ってたじゃない。名声がどうのって」
「……まぁな。それはそうなんだけどな。俺が隊長で良いのかって思ってよ」
「強さは誰もが認めてるじゃない。“火拳のエース”。実力の面では大丈夫でしょ」
「そこじゃねぇんだ……」

彼が何を悩んでいるのか、ニーナには分らない。が、あの何でも自由奔放に我が道を行くエースをここまで悩ませるのだから、きっと何かあるのだろう。

そう思って、ニーナはこの船の船長を思い出した。

「じゃあ、いっそのこと白ひげさんに相談してみたら?」
「親父に……?」
「そ、エース達の“親父”さんに」

彼の何もかもを包み込むような大きさと豪快さの前なら、エースの悩みもすぐに吹き飛ぶのではないだろうか。


なにせ、世界を滅ぼす可能性のある自分を、恐れるに足らん、と笑い飛ばした人物なのだから。


「……そう、だな」

何か意を決したような顔でエースが立ち上がると、ニーナ達の背後から明るい声が掛かる。

「おーい、二人とも。いつまで遊んでんだ?飯が冷めるぞぉ!」
「サッチさん。今行きます!」

船内から出て来たサッチに呼ばれ、気付けば空には星が輝き出している。
思ったより時間を潰していたようだ。と自覚すると同時にニーナはどうしようか、と意識をモビーディックにロープで繋いである小舟に向けた。

元々、日中だけの積もりで顔を出したのだが。けれど思わぬ事態に遭遇してしまい、更にこのままこの船を後にするのも気がひける。

けれど、ただ自分がエースのその後が気になるから、という理由で、仮にも別海賊団の船に長居するのも……

と思っていたのだが、次に出たエースの言葉に悩みは途端に吹き飛ぶ。

「ニーナ。まだ行くなよ」
「え、えっと…… 分かった」

真剣な表情でそう言われてしまえば、この船に留まる理由がいとも容易く生まれる。
小さく頷けば少し和らぐエースの表情に、ニーナも胸を擽られるような感覚に思わず頬が緩んだ。

なら、早速食事に行こう、と船内へ足を向けたニーナだが、エースが動かないことにどうしたのかと振り返る。

「……先に行っててくれ」
「フフ、分かった」

行くなと言ったり、行けと言ったり。
けれどそれが悪い気は決してしないのだから、やはり彼にはそう思わせる部分があるのだろう。

そう納得してエースに背を向ければ、甲板に自分達を呼びに来たサッチの隣に何時の間にやらマルコも立っていた。

二人並んで見守る先には、甲板の縁から夜空を見上げるエースの姿。そんな彼等の様子にニーナは目を細めると、軽く二人に手を振り船内へと戻った。


エースが2番隊隊長を引き受けたのは、その翌日のことである。
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