時は限りなく | ナノ


14

「…じゃ入るけど、いい?逃げ回る用意と、戦う準備を忘れないで」

ウイスキーピークを視界に入れたと同時に、例の怪しい二人組みは海へ飛び込み泳いで去ってしまった。
そんな波乱の予感を物ともせず、麦わらの一味は初めての島に不安や期待を膨らませている。しかし、募る緊張を余所に、島へ入った彼らに届いた最初の声は…

『ようこそ!歓迎の町、ウイスキーピークへ!!』

彼らを歓迎する大勢の人間達の声だった。



「いら゛っ…!ゴホン、マーマーマーマーマ〜!いらっしゃい」

妙な声で挨拶をしたのは、この町の町長を名乗るイガラッポイという男だった。

「もてなしは我が町の誇りなのです」

そう言って笑顔で歓迎してくれる町長と町民達が、建物の中へと誘う。そのまま日暮れと共に始まった宴は、月が登ってもまだ続いた。

始終歓迎してくれる町民達に、すっかり気分を良くした麦わらの一味同様、ニーナも満面の笑みで宴を楽しんでいた。

「そこでおれはクールにこう言ったんだ。“海王類どもめ、おれの仲間達に手を出すな!”」
「すてきーっ、キャプテン・ウソップ!」

「うっぷ!!」
「どあーっすごいぞ、10人抜きだぁ!」

「おりゃーっ!」
「うあーっ こっちのねーちゃんは12人抜き!何という酒豪達だぁ!」

「おかわりーィ!」
「うげー。こっちで船長さんがメシ20人前を完食!コックが倒れたー!」

「のっほっほっほ」
「うおっ!こっちのにーちゃんは20人の娘を一斉に口説こうとしてるぞォ!」

「まだまだァ!」
「うがーっ、このねーちゃんは我が町自慢のダンサー達とダンス勝負で15人抜いたぁ!」

「何なんだこの一味はァ!」

見れば見るほど、怪しい町だった。

飲み勝負でゾロが倒れ、ナミも限界が近づいてきた。ルフィも満腹なのだろう、膨らんだ腹を抱えて倒れこむ。ウソップもサンジも騒ぎ疲れ倒れ、ニーナも踊り疲れて倒れるように近くのソファで眠り込んだ。

……やはりどう考えてもおかしい。眠ったふりをしながらニーナは静かになった部屋でうっすらと目を開いた。

双子岬へ来ていた二人組は、間違いなくこの町の人間だ。だが、グランドラインの過酷な海を越えてまで捕鯨にくるほど食料に困っているのなら、こんな馬鹿騒ぎを町民が許すとは思えない。そもそも、海賊を歓迎しようという時点で怪しい。

しかも、だんだんとこの建物の外に集まる気配が増えている。
様子を伺う積もりで彼らの茶番に付き合ったが、どうやらそろそろ本音が聞けそうだ。

そう思ってニーナが起き上がろうとしたのだが……

「ミ……Mr.8!ミス・マンデー!いつの間にか一人部屋から逃げ出して……」

すぐ外で聞こえた声にニーナもガバリと起き上がれば、ゾロの姿が確認できない。どうやら、一足先に敵を確認しに出たらしい。

「なら私も加勢に……」
「待ちなさい!」
「っ!?」

途端、ガシリと肩を掴まれ一瞬飛び上がりそうになるが、振り向いた瞬間に飛び込んできた顔に悲鳴を飲み込む。

「ナ、ナミ?」
「ニーナ、アンタはここに残って私と一緒に居て」
「え、あの…… だってゾロが外で」
「アイツなら大丈夫よ。それに、アンタがいっちゃったら誰が、か弱い私を守ってくれるわけ?」

クイッと親指で深く眠り込んでいるルフィとウソップとサンジを指しながら、ジリジリと迫ってくるナミ。自分が守らずとも十分なのでは、とニーナが思うほどの気迫だが、それを言葉にはしなかった。

「まったくもう!こんな怪しい町で本当に眠りこけるなんて。どんだけ警戒心が無いのかしら」
「やっぱり海賊大歓迎なんて、怪しいよね…… あ、これ泡立ち麦茶だ。なるほど、町民は全員酔ったフリか」
「敵の数は、ざっと100人ってとこかしら」
「うん…… ねぇ、本当にゾロ大丈夫?」
「100人くらい大したこと無いわよ。殺したって死ぬような奴じゃないんだから。それにしても……ガラクタばっかり。お金になりそうなものは一つも無いわね」

金目のものを物色するナミに、苦笑を向けるしかできない。
外のことがニーナは些か心配なのだが、まあ確かに、見たところゾロの方が圧倒的に力はあったし。数に負けるような男でもないだろうから、何とかなるだろうが。

「しっ!静かに」
「なに!?どうしたの?」

そうこうしていると、唐突に外から現れたミス・ウェンズデーと何故か一緒にいたカルガモが、ルフィを外へ引きずり出していった。

「え、えええ。ナミ、今度こそマズイって。ルフィ寝たままだったよ」
「だから大丈夫だって。それよりもう少し様子を見ましょう」
「だって寝たままなんだよ」

ありえない。というか、あってはいけないだろう。仮にも一海賊団の船長が、あんな容易く、寝たまま人質にされるなんて。

始めこそニーナも焦ったが、結局すぐにゾロが外の全員を伸してしまった。呆気ないほどの手応えのなさに、ナミの言葉の方が正しかったことを思い知る。

「心配した私がバカみたいだね」
「だから言ったでしょう」


***



が、そこで終わると思ったが、事態はその後急展開する。
唐突に現れた新たな男女の二人組に襲われるMr.8とミス・ウェンズデー。

「罪人の名は、アラバスタ王国護衛隊長イガラム!……そして、アラバスタ王国“王女”ネフェルタリ・ビビ!!」

謎の男から飛び出した名前に、ニーナも思わず息を飲む。

(アラバスタの、王女!?)

あの文明大国アラバスタの王女が、こんな所で賞金稼ぎなどしているとは。俄かに信じられないが、それが真実か否かは狙われている二人の反応で分かってしまう。

「匂うわね、ビジネスの匂いが」
「はい?」
「いくわよニーナ」

満面の笑みで意気揚々と隠れていた部屋から出るナミ。その向かった先では、イガラムと呼ばれ謎の男の爆撃で負傷した町長が、ゾロに必死に懇願していた。

「遥か東の大国“アラバスタ王国”まで王女を無事送り届けて下されば…ゴホッ!ガなラヅや莫大な恩賞をあなだがだに…」
「その話のった。10億ベリーでいかが?」

「じゅ、10億ベリーって……」

ニーナでも思いつかないような額を平然と言い放つナミ。請求されたイガラムも当然だが言葉を失っている。

「私達に助けを求めなきゃきっと…王女様死ぬわよ?」
「!!?」
「出せ」

笑顔で脅迫するナミに、ニーナはこの船で一番怖いのは彼女だと確信した。
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