燃え尽きてゆく

 団長補佐、というのは思っていたより辛い仕事だった。
 冷酷で非情なエルヴィンの絶対の指示を誰よりも理解し、彼のハードワークを支える。それだけで肉体的に疲労がくるところに、兵士達の要望や不平不満がダイレクトに伝わってくる。両方の立場が理解できるだけに、立ち回りが難しかった。
 その役割に押しつぶされそうになることがある。繊細で臆病な心では到底成し遂げられないことで、だんだん心に蓋をするようになった。
 そのことを見透かしていたのが、団長のエルヴィンと兵士長であるリヴァイだった。



 壁外で大量の死者を出してしまったときなどは、人に見られないように涙を流してしまうこともある。
 そんな時、彼らしいぶっきらぼうな言葉で慰めて、冷えた心に再び火を灯してくれるのがリヴァイだった。

「お前は悪くない」

 頬に優しくキスをして、ぺろりと涙を舐めて。
 彼の柔らかい薄い唇がそっと唇に触れ、深く深く重ねられ、吐息まで絡めとられていく。

「……なまえ」

 彼の声は冷静なようでいて、今にも叫びそうな程の振動を持っていた。
 きっとこの人も傷ついてる、苦しんでる。
 彼も似たような立場だものな、と漠然と思う。

「あなたも悪くないよ」

 傷を舐め合うように、身体を重ねていく。
 他人が見たら、なんて滑稽な光景なのだろうと思うに違いない。けれどきっと私達には必要な行為。
 
 彼の骨張った手は、巨人を何体も屠ってきた、血に塗れた手だ。
 それでも私の身体に触れる彼の手は、まるで壊れ物を扱うような優しく繊細な動きだった。
 両方の胸を包むように撫で回され、感じるところをゆっくりと触れて、感覚を高ぶらせられる。
 普段の彼からは想像もつかない愛撫に最初は驚いたものだ。粗暴に見えて、とても優しい男だった。

 ゆっくりと秘所に指を埋め込まれていくと、感じるところをじれったく責めたてられる。いちいち反応を確かめるように、その両の目で射抜かれるように見つめられながら、絶頂へと導かれる。羞恥に震えながらも丁寧に扱われていることに安らぎと幸福を感じるのだ。人間として彼に大事にされることを必要としていた。
 
 彼の昂ったモノを宛てがわれ、ゆっくりと腰を進められると、敏感になった膣が彼の熱をすぐに感じ取り、入った瞬間に意識が飛びそうになる。

「あっ、……うぅんっ、……リヴァイ……」
「なまえ……っ、なまえ……」

 彼はうわごとのように名前を呼びながら、腰を徐々に激しく律動させていく。感じるところを責め立てられ、圧迫するように押しつけられ、深く抉られる。
 そこがビクビクと収縮し、背筋を仰け反らせるように達すると、彼の飛沫を最奥で感じた。

 気がつくと涙は止まっていて、二人でまた笑い合えるようになるのだ。
 これは私には必要な手順だった。



 私が傷つき、涙を流していても、エルヴィンは何も言わない。
 そんな馬鹿げた真似はやめろ、団長補佐に相応しくないと蔑むような目で見下ろし、死んだ心が再び動き出すように、少々乱暴な方法で息を吹き込んでくれるのがエルヴィンだった。

 頬に流れる涙を骨張った大きな手で拭われ、顎を掴まれ、唇を塞がれる。息継ぎもできないような激しく貪るような口づけで、口内を蹂躙される。

「エルヴィン……、やめて……」

 彼の胸板を押し返すように拒絶すると、逆らった罰だと言わんばかりに激しく責め立てられる。
 それを分かった上でやっているのだ。これも私達には必要な行為。
 
 乳房を鷲掴みにされ、そこにかぶりつくように舌で愛撫され、急激に快感を高められていく。普段の柔らかな物腰はなりを潜め、貪欲に獲物を貪る征服者の顔に僅かながら恐怖を覚えた。
 秘所に舌を這わせ、太い骨張った指を拗じ込まれ、容赦なく刺激を与えられると、ビクビクと腰を振るわせ簡単に達してしまった。

「君だけだよ。私を責めるような目で見ず、受け入れてくれるのは……」

 熱を持った行為とは相容れないような、冷えた虚しい嘆きのように聞こえる。
 きっと彼も心に蓋をしている。彼が何を考えているかは解らないが、何も考えたくなくなる時もあるのだろう。

「なまえ……」

 彼に見下ろされ、名を呼ばれると、それだけで胸が締め付けられるような切なさを感じる。どんな方法だろうと彼に必要とされ、支配されていることを感じたいのだ。

 ぐちゅ、ぐちゅと卑猥な水音をさせ、熱く滾ったモノを奥まで穿たれるのはとても苦しく、かつ幸せな感覚だった。嘔吐きそうなほど突かれ、すぐに腰を引かれると痺れそうなほどの喪失感で頭がおかしくなりそうになる。耳にかかる彼の吐息に、僅かな喘ぎに、下半身が余計に疼いていく。
 何も考えられなくなるまで、お互いに貪り合っていった。

 涙は止まらないが、これもきっと私には必要な手順で。



 そうして、また生かされていく。
 二人の熱で燃え尽きる日まで。


(2013.11.14)

[ main | top ]