正しいハロウィンの楽しみかた
※注意 兵長がコスプレをしています。しかも女装です。
なまえはリヴァイをハロウィンパーティーに誘うことに成功した。
普通に誘っても「面倒だ」「くだらない」などと無下に断られてしまうことは目に見えていた。
リヴァイの前でお菓子を包んだり、仮装をしたりして、楽しそうだな♪ と思わせてから誘おうと思っていたのだ。
酷い目に遭ってしまったのは想定外だったが、なんとかミッションは成功した。その上お揃いの猫耳をつける約束まで取り付けることができた。
なまえは昨日の衣装に着替え、たくさんのお菓子を入れた籠を持ち、部屋でリヴァイの迎えを待っていた。
ノックの音が聞こえ、はーいと返事をしながら扉を開ける。そこに居たのは猫耳を付けた、長い黒髪の魔女だった。
「どっ、どちら様でしょうか……?」
「てめぇ、どういうことだ。言う通り仮装をしてやったのに」
「兵長!?」
どこの綺麗なお姉さんかと思った。目付きが悪いのは相変わらずだが、それすらも妖艶な魔女の魅力の中に組み込まれているかのようだった。彼は整った顔立ちをしているのだ。
「う、美しいですね」
「喧嘩売ってるのか?」
「でも、なんで女装?」
「男が猫耳付けたらおかしいだろうが」
気にする所、そこ……? と思ったものの、リヴァイが約束を守ってお揃いの猫耳を付けてくれたことをなまえは嬉しく思った。
パーティーは104期がメインだが、それぞれがお世話になってる先輩も誘おうということで大規模なものになった。会場である集会室は人で溢れ返っている。
「なまえー!! 私が作ったソレ、似合ってる! 可愛い可愛い」
集会室に入ると、マッドサイエンティストに扮しているのか、普段のままなのか判別のつかないハンジがすごい勢いですり寄って来た。
「ありがとうございます! ハンジさん」
「ヌードサイズで作っただけあって、ぴったりだね」
ハンジは満足そうになまえの背中や腰の辺りを撫で回し、嵐のように去って行った。
「ヌードだと?」
その様子を隣で見ていたリヴァイの眉がピクリと寄せられた。
「てめぇ、ハンジの前で裸になったのか?」
「いや、下着は付けてましたけど……」
「危機感が足りねぇだろ。襲われるのは男とは限らねぇ……」
「だから! 昨日も言いましたけど! みんながみんな兵長のようなへんた……」
「とりあえず、躾は後だ。お前に向けられる淫らな視線を全部、俺に集中させてやる」
彼は長い髪をサラッと片手で振り払うと、いつになく妖艶な表情をしてなまえを見下ろした。
お前を守れるのは俺だけだからな……とぶつぶつ呟きながら。
そこにいつもの彼はいなかった。
確かになまえは安全で、かつ楽しい時を過ごせた。同期のみんなとも話せたし、先輩たちとも親しくなれた。仮装をしたみんなの姿もとても面白かったし、お菓子だって交換できた。
なのに、胸に渦巻くこの思いはなんだろう。
人類最強から殺気を取り払い、色気を最大限に盛り込んだらどうなるのかを、なまえは思い知らされた。
リヴァイが「Trick or Treat」と言うより早く、彼に次々とお菓子が捧げられていった。
――圧倒されるほどの、大人の魅力。……完敗だ、と思った。
「まぁ、ざっとこんなもんだ。お前には十年早いがな」
パーティーのお開き後、二人でなまえの部屋に戻り、両手に抱えても尚ありあまるほどの戦利品を前に、リヴァイは言い放った。
彼は、お目付役という彼の役割を全うしただけだ。それがどんな方法であれ。
彼が一撃で仕留められるのは巨人だけではなかった。人類最強たる所以はそこだけではなかったのだ。自分はこの男のことを何も知らなかった――。
「それより……だ、ハンジの件だ」
「女同士だから大丈夫ですって!」
「……あのな、女同士だって愛し合えるんだよ」
リヴァイはうっとりとした目でなまえを見つめながら、愛の言葉を囁いた。
ロングヘアの妖艶な美女に口説かれている。ありえない状況に心臓がドキドキするのを自覚する間もなく、柔らかい唇が重ねられた。
「どうやって愛し合うんですか?」
「それは誘ってるのか?」
きっとここで籠絡したら、女に誘われて簡単に落ちるんじゃねぇと罵倒され、酷い躾が待っているに違いないと心の片隅で思った。しかし、巨人のみならず人まで一撃で仕留める彼を見たいと思ってしまう、イタズラ心が勝っていた。
小さく頷く。
「魔女さん、教えてください」
「そうか、そんなに削がれたいか」
なまえのうなじを撫でながら、魔女が言う。冷酷な表情で薄く笑う、恐ろしい猫耳の魔女が。
「魔女を誘ったらどんな目に遭うか、教えてやるよ。子猫ちゃん」
楽しいハロウィンの夜の始まりの合図だった。
(2013.10.31)