3日前まで我慢してたけど結局爆発した

 普段は滅多に感情を露わにしない人だった。
 特に恋人である私の前ではいつも穏やかな笑みを向け、紳士然とした物腰で優しく接していた。
世間で言われているような冷酷な人ではない。優しくて思い遣りに溢れている人だ。我が儘を言っても少し困った顔をしながらなんでも聞いてくれて、お姫様のように扱ってくれていた。


 それが今はどうだろう。
 綺麗なアイスブルーの瞳は冷たくこちらに向けられ、明らかに怒りの色を見せている。そんな風に上から見下ろされ、掴まれた手首に力が込められて痛いほどだ。
 ミケと会う約束をしていた会議室で、そこにいたのはエルヴィンだった。





「エルヴィ……」
「どうしてここにいるって顔をしているな」

 低い声が冷たく響いた。いつもとまるで違う雰囲気に、なまえの背筋に嫌な汗が伝っていった。

「最近なまえの様子がおかしいのは気付いていたよ。なにか隠し事をしているだろう?」

 確かにひとつだけ、彼に隠していることがあった。それでもなまえは慌てて首を横に振って否定する。エルヴィンには決して悟られるわけにはいかなかった。

「ミケとは随分仲がいいんだな」
「それは……、同じ班だし……、今日だって、……そう! 壁外での配置の打ち合わせをする約束で……」

 歯切れの悪いなまえの答えに、ますますエルヴィンは苛立っているように見えた。

「二人きりでか? あまり仲良くしすぎるのは良くないな。編成を変えよう。君は今日から私の隊に入ってもらう」
「え……」
「文句があるのか?」

 ないとは言えない。恋人と仕事でも側にいられるのだ。むしろ喜ばしいことである。しかし、そうなる前になまえには時間が必要だった。

「そういうの、公私混同なんじゃ……ないかな」

 バクバクと鳴る心臓を抑えて、冷静を装って反論する。最後の方には消え入りそうな声になってしまった。

「命令だ。従ってもらう」
「そんなっ」

 戒めてられていた片方の手首はそのままに、もう片方で顎を取られ、無理矢理上を向けさせられる。

「っ、」
「なにかやましいことでもあるのか?」
「私を疑うの?」
「十分に疑われるようなことをしているだろう? ミケとだけじゃない。ハンジやリヴァイとも仲が良すぎだ。人の目を盗んでコソコソと……、気付いていないと思ったか?」
「そんなんじゃ……、私、疑われるようなことなんて、なにも」
「……そうか」

 エルヴィンは冷たい瞳で見下ろしたまま、少しだけ口の端を持ち上げた。その妖しげな表情を認めるや否や、身体を反転させられ、壁に押さえつけられる。

「では、身体に尋ねるとしよう」
「え……?」

 状況を把握できないまま、壁に押さえつけられたまま下半身を弄られる。中途半端にズボンを下ろされ、下着の隙間から慣らすこともないまま指がつぷりと挿入された。

「んっ、ちょ……エルヴィン」
「こんなところ、ミケに見られたらどうする?」
「やめて……!」

 挿入された指はなまえの弱いところを容赦なく責め立てた。
 こんなところを人に見られたらという羞恥心から、身体を捩って本気で抵抗すると、余計に身体の拘束が強くなってしまった。両手は後ろ手に纏められ、エルヴィンの片手で簡単に押さえつけられた。

「そんなにミケに見られたら困るか?」
「やっ、あぁ……」

 きっとエルヴィンは、ミケとの関係を疑っているに違いなかった。しかし重大な秘密を隠しているなまえはただただ首を振って否定することしかできなかった。

「俺は楽しみだよ。ミケがどんな顔をするか」
「……っ、エルヴィンがそんな悪趣味だとは知らなかったわ」

 苦し紛れに抗議すると、それが余計にエルヴィンの怒りを煽ってしまったようだった。

「それが君の答えなのか?」

 後ろから囁くエルヴィンの声は、少し悲しげな響きを持っていた。
 一方で下着をずらして何の予告もなく、エルヴィンの昂ったモノがぎちぎちと強引に押し進められていった。

「ひっ……、うぅん……」

 纏められた両腕ごと壁に押さえつけられ、自然とエルヴィンに腰を突き出す格好になった。あまり慣らされていないまま容赦なく突き立てられ、膣壁を擦られていく。強すぎる刺激に、なまえの身体がビクビクと震えた。

「こんな風に犯されても感じるのか」

 呆れたように呟くエルヴィンに、なまえは恥ずかしくて消え入りたくなりそうな気持ちになってくる。そんな冷たい彼の声音も今のなまえには甘く響いて身体を痺れさせていった。
 
「君は私が思っていたような子ではなかったようだな」
「違う……、違うの、……っ、あう……ッ」

 エルヴィンがなまえの腰を急に持ち上げ、壁と彼の背にぴったりと密着する形になった。背の高いエルヴィンに持ち上げられるとなまえの足は床に付くか付かないかの不安定な体勢になって、ますますされるがままになってしまう。ギリギリまで腰を引かれ、何の抵抗もできずに突き上げられる。
 こんなにもエルヴィンを怒らせてしまったことへの悲しみと、逃れられない快感とで、なまえの頬に涙が伝っていった。

「泣いて許しを乞うのか? そんなことをしても、駄目だ」

――君は私のものだ。

 もう意識を保つのにも必死な頭で、エルヴィンの声がかすかに聞こえた。息を乱す吐息と、消え入りそうな愛の言葉と共に。





 乱れたカッターシャツを正し、ループタイを整えるエルヴィンをなまえはぼうっと眺めていた。
 どきっとするほど綺麗。でも、怒らせると怖いことを知ってしまった。

「……あの、エルヴィン、私ね」

 声を掛けると、ちらりと流し見るようにこちらに視線を向けられた。

「ミケとのことか?」
「うん、なんでそんな誤解をしたのか知らないけど……、そんなんじゃないよ」

 エルヴィンをこれ以上怒らせないように、恐る恐る話すと、彼はけろっとした態度で答えた。

「ああ、知ってる。君達がなにを企んでいるのかも」
「え……!!」
「でもあと3日、耐えられなかった」

 すまないな、と悪びれもない様子のエルヴィンになまえがあっけにとられていると、彼は機嫌良さそうに近付いてきて、なまえの頬にキスをした。

「もちろん当日まで知らないふりをするさ」
「信じられない!」

 思わずきっちりと整えられたエルヴィンの前髪をぐしゃっと乱したのは、小さすぎる仕返しだろう。

「本当に、可愛いね。なまえは」
「今頃機嫌取ったってダメですー」

 ひどいひどいひどいと苛立ちが渦巻きながらも、前髪がふわっと下りたエルヴィンが愉快そうに微笑んでいる姿は妙に可愛らしく見えた。
 結局許してしまって、誕生日当日も盛大に祝ってあげることになるのだろう。

 そして、これからもエルヴィンを愛し続けるのだろう。
 彼が少しだけ見せた嫉妬深さと愛の重さを知ってしまったからには。


(2014.10.11)



エルヴィン団長のお誕生日が近いので、ちょっとだけ誕生日ネタ絡めてみました。
ひなこさま、リクエストありがとうございました。ほんと遅くなってしまって申し訳ありません!
ありがたいお言葉の数々、本当に恐縮です。とてもとても嬉しかったし励まされました。これからも良かったら遊びに来てくださいね。

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