04





アレディが精悍な顔つきを真剣な表情で引き締め、ネージュも同様に見目麗しい美貌を凛と整える。

「マスターハンド殿、この恩は忘れません」
「時間を無駄使いしたことは気に食わなかったけれど、皆さんと過ごした日々は充実してました。……ド感謝してもよろしくてよ?」

二人なりの最大級の礼が届いたのか、マスターは無言で頷いた。これで心残りはないと、二人は暗に伝えていた。

それを察したメンバーから、次々に声援が惜しみなく送られる。

「頑張ってこいよ!」
「ピッカァ!」
「―――元気でな」
「仲良くやれよ!」
「お幸せにー!」
「あっちについたら僕らのことを思い出してねー!」
「あ、ありがとうございました」
「僕もお二人に負けないように修練しますから!」
「……この出会いは忘れん」
「楽しい日々をありがとう」
「どうかあちらでもあなた方が健やかでありますように」

とりあえず何かがズレている声援へのツッコミは辛うじて封じ込め、気を取り直した俺は最後の締めとして二人に歩み寄った。

「アレディ、ネージュ……」

しかし、こんな時に限って言葉が思いつかなかった。二度と会えなくなる、という事が枷となってのし掛かる。

ここは笑って見送るべき場だ。
だが緩やかな波紋となった名残惜しさが、徐々に言葉を奪っていく。

「リンク殿」

真っ直ぐな響きが、俺をはっと我に返らせた。

「我々は無限の開拓地へ戻ります。この世界で得たものは私の血肉となり、あなた方と出会えた奇跡を胸に刻みます。ですが、こうして世界を分かれた後も―――あなた方との絆の繋がりは決して無に還さないと御約束します」
「というより、そこのドジな神様のような都合の良い忘却が出来る程度の繋がりなら、今すぐフェイスレイヤーの錆びにいたしますわよ?」

二人は自信を乗せて俺を励ましてくれた。そこには迷いも恐れもない。さも当然のような姿勢があるだけだ。

……ああ、そうか。

俺は理解した。
住まう世界は違えることになろうと―――この奇妙な世界で紡いだ“絆”は消えないじゃないか。こんな単純なことを忘れていたとは。本当に今更である。

「……そうだな、その通りだ。ありがとう」
「あら、やけに素直なのね」
「それは人の事が言えるのか?」

気がつけば、やけにすっきりとした言葉が浮かんでいた。




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