01
―――“世界の中心”。
俺は、いや俺たちはこの大仰というか過剰な表現しかできない空間に軒並み勢揃いしていた。
とはいえ各々談笑を交わす姿からは異様極まりない時空間に対する緊張感は皆無である。普通に平々凡々と暮らす人間ならば異常事態そのものの光景に唖然となる者もいるだろうが、俺たちスマッシュブラザーズの面々は英雄と呼ばれるだけあって平然としていた。まあ、この空間を見慣れていたことも理由の一つにあるだろうが。
この世界における空間と時間の中心、別名―――“終点”。
予算が無かったのかは俺の知ったことではないが、武闘台がぽつんと宙に置かれただけの最終目的地。
ここで何度、飽き性の創造神のやる気を出させるために励んだか想像に難くない。景色としては絶景なのだが散々苦労した思い出しか思い浮かばない辺り、創造神の体たらくぶりが如実に示されているようで呆れるばかりである。
俺は脱力しつつも空―――と思わしき場所を見上げた。
光の奔流が創世と終焉を繰り返し演出する様は圧巻の一言に尽きる。これを世界の中心と言わずして何と表現できるのか、俺の乏しい知識では判別しかねた。
しかし、この場でしか成し得ないことが一つだけあるのは知己していたが。
そもそも何故このような場所に、俺たちスマッシュブラザーズが乱闘目的以外で勢揃いしているのか?
単純に言えば、帰還する者が二名ほどいるからである。
「皆さん……この一月、本当に御世話になりました」
紅の拳闘士―――アレディが礼儀正しく頭を下げた。
唐突に『無限の荒野』という名の異世界からトラブルによって飛ばされてきた来訪者。だが馬鹿真面目を貫き通し、最初から最後まで筋を通すこの青年をメンバーが好ましいと思うまでに時間はさほどかからなかった。
いくら己が身を焦がそうと真摯なまでに鍛錬に励み、馴染みのない場所で精一杯の努力を行い、かつ助力を惜しまない愚直さは、器の大きさを垣間見せてくれた。まあ多少鈍感な部分はあるものの、将来の有望性が高いのは確かだな。
事実、ここに集ったメンバーの大半は別れによる名残惜しさの色が見え隠れしていることから、アレディが如何に尽力してきたかが伺える。特に彼に懐いていたカービィは別れが惜しいあまりに瞳を潤ませてメタナイトの背に隠れている。なんとも微笑ましいな。
「ま、こんなに遅れるとは思いもしませんでしたけど……ハウゼン家の姫として、御礼を申し上げます」
同時に妖精族の姫―――ネージュが顔を背けながら神妙に告げた。
…………。
一見素っ気ない口調の感謝の言だが、俺は見逃さなかった。その滑らかな頬に若干赤みが差しているのは隠しようもない。
相変わらず難しい性格を抱えているな、と思うと同時に妙に懐かしくなる。
素直な態度になれないというのに、その裏返しとして何かしら挙動不審になるという性格は、まるでかつての相棒を連想させるだけあって苦笑した。
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