ホントノキモチ



※注意
・キセキの世代の過去編ネタバレ有
・小堀さんと三軍コーチ親子設定



「ただいま」
「おかえり父さん」
ネクタイを緩めながら疲れた顔で帰ってきた父を出迎える。

「なんだ浩志どっか行くのか?」
夜九時を回っているのに出かける準備をしているオレが気になったのだろう
「うん。牛乳きらしてたから近くのコンビニまで買いに行こうと思って」
スニーカーの靴ひもを結びながら答えると父はそうか、と言い玄関に上がろうとする。
さすがに成長期の息子と標準よりも背の高い父がいるとただでさえ狭い玄関が窮屈だ。

「じゃあいってきます」

仕事明けの父の迷惑にならないよう少し急いで家を出る。
靴のかかとを直し、ふぅと息をついて軽く走り始めた。


先ほど近くのコンビニと言ったがここからだとだいたい1qほど離れている。
大都会東京の隣の神奈川に住んでるとはいえここは辺境だからしかたがない。
まぁいつも部活でやっているロードワークに比べたらなんてことない距離だ。

徐々にスピードを上げながら走っているとふいにストリートコートが目に入った。

…昔休日になると必ず父さんが連れてきてくれた場所だ。

ふと動かしていた足を止め錆びついたフェンス越しにコートを見る。
昔はあんなにキラキラして見えたはずなのに今はずいぶんと寂れている。
しかしバスケのボール転がっているところを見るとまだ廃れてはいないようだ。

「あの頃はバスケが楽しかったんだけどな…」
そう…あの頃はまだバスケをすること楽しくてしょうがなかった

しかし今は…そう言えなくなった



−−先日地区大会のスタメンが発表された。
「…5番大川 7番櫻田……」
次々に4人呼ばれ必然的に試合に出られる権利は残り1人にしかない。
オレの任されている番号は10番

『やれるだけのことはやった…!だから今回こそ…!!』

「…8番井上!以上!今回はこのメンバーでいく!」
周りで歓喜と激励の言葉が飛び交う中オレは立ちすくむしかなかった。

ただでさえキツイ練習をこなし誰よりも遅くまで自主練に励んだ
時には苦しくて何度も吐いたがそれでもバスケが好きだから頑張ったのに…

努力は報われるなんて嘘じゃないか…!

すべてに裏切られたオレは…その日を境に努力するということを諦めた。



「何をしてるんだ浩志?」

急に声をかけられはっと声のした方を見る。

「父さん…」

そこにいた声の主は玄関で入れ違いになったはずの父。

「なんでここに…?」
「お前の帰りが遅くて心配になったんだ。…しかしこんな懐かしいとこにいたのか」
久しぶりだなぁなんて呟きながら隣に並ぶ。

…なんとなく今は父さんと話しづらかった。

実はスタメンになれなかったこともバスケを好きだと思えなくなったことも父さんには伝えてないのだ。

父さんは三軍とはいえ中学最強・帝光バスケ部のコーチ
そんな父に本当のことを言ったらきっと幻滅される…

そんなことを考えたら居たたまれなくなり俯いてしまった。

「…よし!久々に1on1するか!」
「…え!?」
頭上から降ってきた言葉に驚きばっと顔を上げると父さんはいたずらっ子のようにニッと笑いかけてきた。
「せっかく来たんだ。ちょうどボールもあるみたいだしさっそくやるぞ!」
「ちょっ!父さん!!」
オレの手をぐいぐい引っ張ってコートに立たせる父さん。
…きっと端から見たらどっちが父親だ!とか思われるだろうな。

「父さんオレ今そういう気分じゃ「オレがOFでお前がDFな。一本でも止めたらお前の勝ちだ」…父さん。」
はぁ…父さんがこんな風になればもう止められない。
しぶしぶと着ていたパーカーをベンチに軽く畳んで置きTシャツ一枚になる。

「…ねぇ父さん。その格好でやるの?」
Yシャツを腕まくりしている父さんの格好は玄関で見た時と同じスーツ姿(あ、でもジャケットは置いてきたみたいだ)
「ん?あー…まぁいいだろう!ハンデだハンデ」
ハンデ…。たしかに父さんよりオレは弱いけどそこまであからさまに言われるとムッとくる。

「…お手柔らかにお願いします」

ようやくお互いスイッチが入り1on1が始まる。

ダンダンとドリブルをして右へ抜けようとする父さんにくらいつきコースを防ぐ。
しかしそれを読んでいたのかオレが体重移動したと同時に左へ切り返しシュートを放つ。
綺麗な弧を描き父さんの打ったボールがリングに吸い込まれた。

「どうした?お前の実力はこんなもんか?」
「っ…!」
明らかに見下されてる。

「まだ…まだこれからだ!」

しかしどれほど粋がっても父さんからボールを奪うどころか触ることさえできない。
そうしている間にも一本…また一本とゴールを決められていく。




「…もう諦めたらどうだ浩志?」

何本決められたのか…もう10本を超えたあたりから数えていない。

「ハァッ…まだっハァッ…っまだやれる!」
圧倒的な力の差なのは分かってる。
でも…負けたくなかった。
なぜだがわからなかったけど…バスケでだけは負けたくなかった。

「もう一本っ!!」
動きの鈍くなった身体に鞭を打ち自分自身を奮い立たせ再度父さんに挑もうとした。




「…もう止めだ」
ボールを脇に挟み父は終わりを告げた。
「なっ…!オレはっ…まだやれるよ!!だからっ「なぜそこまでこだわる?」
オレの言葉を遮り父さんは真剣な眼差しでオレに問うてきた。
「え…」
「どう足掻いてもお前じゃオレに勝てないことがいい加減わかったろう?それなのになぜお前は戦おうとする?負けるのが分かっているのに挑むくらいなら諦める方がよっぽど楽じゃないか」

そうだ…たしかに父さんの言うとおりだ
諦めてしまえばどんなに楽だろう…

でも…オレは…!


「…たしかに父さんの言うとおりだと思う。諦めれば負ける苦しみを味わなくて済むしいろんなものから解放されて楽になれると思う。」
「…じゃあ「だけど!敵わなくたってだって…目標に届かなくたって…諦めたくないんだ!!だってオレは…バスケが好きだから!!」
声を荒げて自分の気持ちをぶつけた。
久しぶりに大声を出したせいか鼓動がやけに煩いがそんなの今は関係ない。


「…バスケが好き…か」

ふっと口元を緩めた父さんはオレを見つめて言葉を続けた
「浩志。お前にまだその気持ちがあってよかった。その気持ちが有ればお前は強くなれる。レギュラーだって夢じゃないさ。」
そう言い微笑みかける。

あぁ…父さんはオレがレギュラーになれなかったこともその夢を諦めていたことも知ってたんだ。

だからこうやってオレに教えてくれたのか…

…今まで溜め込んでたものが溢れ、気付いたらオレは涙を流していた。

「父さん…おっれ…っ頑張るよ…!」
「…期待してるぞ浩志」
幼い頃よくやってくれたように父さんはオレの頭をくしゃりと撫でててくれた。


−−−一ヶ月後オレが県大会のコートに立ったのはまた別の話…



〜反省会〜
初めて小説を書き改めて読んだら自分の文才無さに打ちのめされました…
ちなみに1on1のあとは二人で牛乳買いに行きました←
たぶんこれあとで消します^^;


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