かみさまがいるとしたら | ナノ


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「…どうして」
「何が?」
「どうして、そんなことが言えるんだよ!オレは…オマエにあんなことしたのにっ!」

思わず振り返って、後悔した。
そこにはあの時から少しも変わらない辺見が立っていたから。

感覚がまざまざと蘇る。あの時、細い首を掴んだ手が震えはじめた。
オレは確かに、この手であの首を絞めた。

「言っただろう、忘れちまったのか?」

笑みというにはあまりにも曖昧すぎる顔をしながら、困ったように肩を竦めた。
そんなの、あんなことをされたヤツにする表情じゃない。


『たとえっ、不動のやったことがすべて嘘だとしてもオレの気持ちは変わらない。オレは不動を愛してる』

忘れてなんかない。忘れられるわけがない。



「…っ…」
「なぁ、不動。オレと過ごしたオマエと、あの時のオマエ。どっちが本当のオマエなんだ?」

一歩一歩距離を詰めてくる辺見に息を呑むが、視線を外すことができない。
埠頭で観た太陽を包み込んだ海と同じ色をした瞳がオレを捉えて離さないのだ。

「…あ…」

すっと手が伸びてきて抱きしめられた。そのまま、徐々に腕に力が加えられて隙間なく抱き寄せられる。

「もういいよ。オレはありのままのオマエが知りたいよ」

耳元でそっと囁かれて、ぐにゃりと視界が歪んだ。


それは、酷く懐かしく、ずっとずっと望んでいたぬくもりだった。




コイツは、馬鹿なんじゃないかって思う。
あれだけ馬鹿にされて、傷つけられて、裏切られたのに、それでもぬくもりを与えてくれる。

でも、だからこそ、オレはコイツのことをこんなにも好きなんだろう。

「…てる」
「え?」
「オレもオマエのこと、愛してる」

あんなにも躊躇っていた言葉は、気が付けば自然と口から零れ落ちていた。








「あの、不動」
「…何?」
「そろそろ、試合始まるんじゃ…」

そう言えば、そうだった。
嬉しさやら感動やらですっかりと抜け落ちていた。

「ん」

最後に一度だけ、力を込めて抱きしめ返してから身を離した。

「サッカー続けてたんだな」
「約束だからな」

オレが言わんとしていることは、辺見にもお見通しであろう。



『別れても、きっとまた会えるよ。サッカーを続けてれば、さ』



「いってらっしゃい。オマエのサッカー、見せてくれ」

大きく笑った辺見に、つられてオレも笑った。





もし、神サマがいるとしたら、ソイツはひどく意地が悪いのだろう。

それでも、人は、それに縋りついてしまう。

だって、最後にはこんな風に、微笑みかけるのだから。




















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