「お、おい…」
「…なに?」
話しかけてきたイルーゾォに鋭い視線を向ければ、イルーゾォはその顔を引き攣らせた。いっとくけど今回は簡単には許してあげないから。
「おい、どうせおまえが悪いんだろ、イルーゾォ。さっさと謝ってあいつ何とかしてくれよ」
少し離れた場所でそう話すホルマジオの声が聞こえる。そう、今回は全面的にイルーゾォが悪い。いや、大体いつもイルーゾォが悪いんだけどね!
「な、なんでオレが謝んねぇといけねぇんだよ。××が謝るべきだろ!」
へぇー、そんなこと言うんだ。ふーん…。
カチンときた私はリビングから出ていこうと立ち上がった。二人は突然立ち上がった私に視線を向ける。私も同様に彼らに視線を向けるとイルーゾォに続いてホルマジオも顔を引き攣らせる。余程私は怖い顔をしているのだろう。ごめんね、ホルマジオ。私が怒ってるのはイルーゾォにだけだからね。それを伝えるためイルーゾォを視界から消し、出来る限りの笑みをホルマジオに向けたがどうやら逆効果だったようで、二人して顔を青ざめさせていた。
*
喧嘩をしてから二日が経った。未だにイルーゾォとは口を聞いていない。正直イルーゾォに対する怒りよりも話せない寂しさの方が強くなっていた。だが今更なんのきっかけもなしに仲直りをしようと話しかけられるほど素直にはなれなかった。…イルーゾォの声が聞きたいな。
部屋で膝を抱えて座っていると勢いよく扉を開けてイルーゾォが入ってきた。驚いて瞬きを繰り返す私を見据えると真っ直ぐにこちらまで来て、その手に持っていた物を私の目の前に突き出した。
「おい、いい加減機嫌直せ」
「…なに、もので釣ろうっての?」
あぁもう…なんて私は可愛くないんだ。なんでこんなことしか言えないのだろうか。そんな可愛げのない言葉をかけられたにも関わらず、イルーゾォは変わらずその包みを突き出したままだ。ちらりとイルーゾォの顔色をうかがってからその包みを受け取った。
「これ…」
中身を確認すると、入っていたのはカンノーリだった。しかもただのカンノーリではない。雑誌などで特集も組まれるほどの人気有名店のもの。以前私が雑誌を読みながら食べてみたいと独り言を零していたもの。イルーゾォに直接話したわけでもないのに聞いて覚えていたの…?
「…たまたま売ってたから買ってきただけだ」
そんなの嘘だ。いつもすぐに売り切れ、買うにしても並ばなければならない程だ。たまたまで買えるものではないはず。それをわざわざ私のために買ってきてくれたというのか。
「ありがとう」
包みを胸に抱えてイルーゾォに礼を伝えると、イルーゾォは短く返事をして顔を逸らした。
「でもこんなに沢山…」
「他の奴らとでも食べりゃあいいだろ」
「じゃあ」
イルーゾォも一緒に食べよう?
服の裾を掴み、隣に座るように促せば、少ししてイルーゾォは私の隣へ腰を落とした。そして私は包みから二つ、カンノーリを取り出した。それを食べようと口を開けたが、ふと思い出してイルーゾォの方を向いた。
「イルーゾォ、この間はごめ、」
「待て」
「…この間は、悪かった」
私の言葉を遮り、イルーゾォはそう謝罪の言葉を述べると、思わず凝視する私の視線から逃れるように顔を逸らしてカンノーリを口に含んだ。
「ううん、私の方こそごめんね」
私も改めて謝罪をすると同じようにカンノーリを頬張った。流石人気なだけあってとても美味しかったが、きっとこの格別な美味しさは今この瞬間だけのものなのだろうと私は感じていた。
Twitter 2019.08.22
2019.08.22