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誰もいないリビングのソファに腰掛けるホルマジオの体には至る所に包帯が巻かれていた。先日の任務では指示には背いた挙句、情報も得られずじまい。それ相応のペナルティを受けるのは必然である。分け前は減らされ、リーダー直々にキツい灸を据えられたホルマジオをからかってやろうと、イルーゾォはリビングの鏡から上半身だけを出して声をかけた。
いつもみたいな反論が返ってくるかと思いきや、その予想に反してホルマジオはただ力ない返事を繰り返すだけ。想像以上に堪えている様子のホルマジオにイルーゾォはからかう気も失せ、どうしたものかと頭を悩ませた。

「あー…例の女に慰めてもらったらどうだよ?出すもん出しゃスッキリすんだろ」
「あぁ?」

その言葉に先程とは一転して睨みをきかせるホルマジオにイルーゾォは思わず顔を引き攣らせた。

「な、なんだよ。女ともなんかあったのか?」
「…うるせぇよ」
「だったらそんな面倒な女なんて切って他に乗り換えたらいい話だろ」

ホルマジオはソファにもたれて天を仰いだ。
そうだ、自分の思い通りにならない女なんてさっさと捨てて次を探せばいい話だ。それが面倒なら金を払って女を買えばいい。今までだってそうしてきたではないか。

「…なんだよ、まさかマジになっちまったのか?」

図星を突かれたその問いかけにホルマジオが思わず肩を跳ねさせると、イルーゾォが信じられないという顔をする。冗談のつもりで言った言葉がまさか核心を突くとは思わず、おいおい嘘だろと身を乗り出して鏡から出てホルマジオの向かいのソファに腰を落とした。面白いものを見つけたと言わんばかりの顔で見つめてくるイルーゾォに、先程までの態度はどうしたとホルマジオは呆れるが、行き場のないこの感情を整理するためにも、諦めて話すこととした。



「…らしくねぇなぁ。もうさっさとオレの女になれって言ってこいよ」

やはりイルーゾォに話したのが間違いだったとホルマジオは後悔した。それが出来ないからこうまで悩んでいるのではないか。女の扱いには長けていると自負していただけに情けないことこの上ない。

そう、何度も肌を重ねてきたのにホルマジオは××の事を何も知らない。普段は何をして、何が好きなのか…一つも知らない。
知っているのは行為中の蕩けた表情、眠っている時のあどけない表情、少し不安そうに料理に手をつけるホルマジオを見る表情、美味いと伝えた時の少し嬉しそうな表情。
―あの男にもそんな表情を見せているのだろうか。あの男はオレの知らない××の姿をいくつ知っているのだろうか。

「水に流させてまた元の関係に戻るのか?おまえはそれでいいのかよ?どうせならこっぴどく振られて諦めつく方がいいだろ」
「……」
「…なんだよ」
「いや、イルーゾォでもまともなこと言えんだな」

そう言えばイルーゾォはテーブル越しにホルマジオの体に蹴りを入れた。的確に包帯を巻いている部分に蹴りが入り、痛みからホルマジオは呻き声をあげる。

「いつまでもそんな態度でいられても迷惑なんだよ。さっさと行け、ケリつけるまで帰ってくんな」

脚を戻してソファにふんぞり返り、早く行けと手を払うイルーゾォにけしかけられてホルマジオは立ち上がる。

「けしかけた責任取ってちゃんと慰めろよなァ!」
「知るか。万が一上手くいったら酒でも奢ってやるよ」

イルーゾォがそう言うと、ホルマジオは先程よりも幾分か晴れやかな表情で出ていった。



「(あいつ、案外ポンコツだったのか…)」

いくらなんでもただのセフレに毎回毎回飯なんて作らねぇだろ。それに気付かないほど、あのホルマジオが一人の女に骨抜きになってるとはおもしれぇじゃあねぇの。

仲間の意外な一面を何故か少し嬉しく思いながら、イルーゾォも出掛けるために立ち上がった。さて、どの酒を買ってこようか。
もう自分が酒を奢る事になると、イルーゾォは確信していた。



2019.07.01


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