恋しい、恋しい


※生存if
彼専属添い寝屋分け合いと同じ世界線


形兆君の様子がおかしい。そう感じるような違和感が今日の彼にはあった。
まずいつもの調子で虹村家に現れた私を見て、扉を閉めて追い返そうとしなかった。他にも私の言うことやることに否定や反論もせずに受け入れてくれたし、抱き着いたりしても引き剥がしたりしなかった。
この五日間で一体彼の身に何が起きたのだろう。最近は毎日顔を合わせていたからこんなに会わない期間が続いたのは久しぶりのことで彼のこの変化についていけなかった。
五日前、前回は一体何年前だっただろうと思い出せないほど久しぶりに私は体調を崩した。頭痛、咳、鼻水、喉の痛み。それは紛うことなき風邪の症状で、万が一にも移してはいけないから治るまで虹村家へは行けませんと連絡した私に、おまえでも風邪引けるのかと彼からはいつもの調子で返事が返ってきていた。
そうしてやっと症状が治まり、愛しの彼に会いに来たというのに彼はこの様子で。もしかしたら私が症状を自覚するのが遅く、すでに周りにウイルスを撒き散らしていたのだろうか。今のところはっきりとした症状は見られないけど、どこかぼうっとしているように感じる彼の様子は風邪を引く前兆なのかもしれない。
「……形兆君。私、今日はもう帰るね」

背の高い彼を見上げる。私を見下ろす彼はその眉間に深い皺を刻んでいた。

「今日なんかいつもと違うよ。もしかして私が風邪移しちゃったのかも」

だから今日はもうゆっくり休んで欲しい。
そうして貼り付いたままだった彼から身体を離し、玄関へ向かおうとした私の腕を彼が掴んだ。

「形兆君?」
「……ああ、おまえのせいだ」

いつもより圧の少ない声とその内容に首を傾げる。そう確かに私のせいなのだ、形兆君が風邪を引いたかもしれないのは。でもなんだろうか、この違和感。
まだ私の二の腕から離れていかない彼の右手、変わらず額には深い皺が刻まれているけどその眉尻は下がっている。
――ああ、もしかして。

「……そうだよ、私のせいだもんね。私には形兆君の看病をする義務があるよね?」

だから久しぶりに添い寝サービスをやりましょう、回復できるように安眠に導いて差し上げます。
そう言う私へ彼は馬鹿かと口で言いながら腕を握る力を強めたけれど、サービスの拒否はされなかった。



「おまえが先に寝てどうする」

間抜けにも口を半開きにしながら寝息を立て始めた添い寝屋に思わず言葉を漏らす。
行けませんとの言葉と泣いている絵文字付きのメールが届いたときには、うるさいのが一人減って慌ただしさが落ち着くと、静かに過ごせると思った。実際この数日は静かな日々で、億泰までもが過度にこいつの心配をするあまり覇気がなかった。
だからか静か、すぎて――。

「馬鹿なんだから風邪なんて引いてんじゃあねえよ」

仕事を放棄した添い寝屋から提供されるはずだったサービスを受けるべく、その身体を引き寄せた。



2023.01.18


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