目覚めた貴方へ


眠る貴方への続き


何か、決定的なことがあったわけじゃあない。ただイルーゾォと過ごすうちに自然とそうなりたいと思い始めた。でもそう思っているのはきっと私だけ。彼は私よりも美人で、頭が良くて、スタイルもいい……彼と釣り合いの取れる女性を沢山知っているはずだ。もっと彼の役に立つ相応しい女性がいるはずなのだ。
彼が私を大切に思ってくれていることぐらい分かっている。それでも不安になってしまう。私はギャングでもない、スタンド能力もない、力もない、彼の足を引っ張るだけのただの一般人。それでも願ってしまう。

イルーゾォのそばにいたい。支えていきたい。イルーゾォの唯一の人になりたい。





「ん、おはよう…イルーゾォ」

いつも私より遅く起きる彼が今日は珍しくもう起きていた。珍しいと思いながら顔を見つめると、その目の下には隈があり、どこか疲れているようにも見える。

「眠れなかったの?」
「いや…」

何故か私から目を逸らして歯切れの悪い彼。どうしたのかと首を傾げたが、時刻を確認して慌てて起き上がる。

「あ!私、朝食の用意してくるね」
「……名前」
「ん?」
「……いや、なんでもねぇ」

なんでもないと言われたらそれ以上聞くことも出来ず。いつもと違う様子のイルーゾォが気になりつつも、時間に追われて部屋を出た。



洗面所に来て顔を洗う準備をしながら先程のイルーゾォの姿を思い浮かべる。ここ最近何か言いたげにしていることが多々あったが、どうしたというのだろう。それほどまでに言いづらいことなのかと悪い想像ばかりしてしまう。
だめだめ、早く準備しよう。脳内を占拠した悪い想像を、頭を振って無理やりかき消した。

「え…?」

蛇口から流れる水に手を差し出そうとして、やっと自分の変化に気付いた。昨日、眠る前にはなかった物が自分の指で輝いている。恐る恐る触れてみると、明らかにそこだけ感触が違う。見間違いなどではなく、やはりそこにはシルバーに輝く指輪があった。

洗面所を飛び出して駆け足で寝室へ向かう。
ねぇ、まだ私はイルーゾォのそばに居てもいいの?イルーゾォも私と同じ気持ちだって……思ってもいいの?

「イルーゾォ…!」

勢いよく寝室の扉を開くと、片膝を抱えて顔を埋めていた彼の肩が跳ねた。私と目を合わさないように顔を上げたが、少ししてしっかりと私の方に向けたその表情は、今までに見た事ないほど真剣なものだった。

「名前……聞いて欲しい、ことがある」

私はこくりと頷くと、はめられた指輪を指で撫でながら、次に続く言葉を想像して期待に胸を膨らませていた。



Twitter 2019.06.23
2019.06.23


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