01.漫画家は見た

 それは丁度、スケッチブックに新たな景色を生み出しているときだった。
二人の女子高校生が手を繋ぎながら砂浜を歩いていた。制服はあのプッツン由花子と同じ、ぶどうヶ丘高校のもの。
 最初は特に気にもしなかったが丁度スケッチする範囲に入ってきたので、彼女らを黒線でザカザカと描く。手元にあった双眼鏡に二人を写せば、彼女らの細かなところが良く見えた。
前方を大股で歩く少女は、陳腐な一言で片付けてしまえば美少女というものだった。引っ張られるように慌ただしく足をもたつかせながら後ろを歩く少女は眼鏡を掛けた三つ編みおさげの、マイルドにいえば文学少女のような、悪く言えば(というか僕の率直な意見は)典型的な地味な少女という感じだった。
夕日の沈む海で友人と走るだなんて、なんとありふれた馬鹿馬鹿しい青春ごっこなのだろうか。
 僕の大親友である彼もまたここでそんなことをしたりするのだろうか。
誰と?プッツン女?…よしてくれ。それとも、あの不良共とだろうか?…いや、もっとよしてくれ。お前達は僕の脳内に出てくるんじゃあない。
 頭の中に居座る奴らをかき消していたらいつの間にか彼女達は双眼鏡の中から姿を消し去っていた。
双眼鏡を下ろしてみれば少女らはすぐ傍にある大きな岩の上に身を置いて向かい合っていた。…些かお互いの距離が近すぎるのではないだろうか、友人として。まるで恋人のそれじゃあないか。
その美しい少女はおさげの彼女の頬に手を添え、二人はゆっくりと顔を近づけ、

――――カシャッ


 僕は咄嗟に手元にあったカメラを掴み、シャッターを切った。上手く取れているかわからない。と言うよりも二人が写真に写っているかすらどうか危うい。
急いでデータを確認する。
僕はこれでおそらくここ一ヶ月の幸運というものを使い果たしたのだろう。咄嗟にピントも合わせず、ファインダーも覗くことなくただどうにかしてこの光景を収めねばとカメラをその方向へ向けてシャッターを押しただけだった。それなのにデータには彼女たちの禁断の恋、であろうものがしっかりと記録されていた。
 夕日に照らされて顔を朱く染め上げた少女たちのキスシーン。夕日の明るさとは対照的に闇を作り出す影はより一層彼女らの美しく造りあげる。

 うん、今日はとてもいい日だな。こんな経験滅多にないぞ。同性同士の恋愛、しかも年端も行かぬ少女の。僕の漫画には向かないかもしれないが見ておいて損は無いだろう。あぁ、なんだろうかこの気分の高まりは。
そして僕の勘ではあるが―――勘は勘であってそれ以上でも、それ以下でもないのだが―――とても楽しくなりそうな気がする。
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