御礼&企画小説 | ナノ
*約束をしよう*





「ユーリ」


 ふいに口からすべり落ちてきた言葉に、自分でもびっくりしながら、もう一度その名を呼んでみた。

 返事がないのは分かっている。彼はいま遠い場所で、昔と同じ、誰かのために依頼を受けている。物語みたいにテレパシーで彼に今の出来事が届くわけもないし、彼がスーパーマンみたいに戻ってきてくれることもない。


「ユーリ」


 もう一度読んでみるが、やっぱり返事はない。わたしはくすっと微笑み、机の脇に置いてある小さな鉢植えに目をやった。
 クローバーの中にすっと生える、白い可愛らしい花。ツンツンそれを指先でつつきながら頬杖をついた。

 彼と最後にあったのはいつだっただろうか? よく覚えていないけど、もう数カ月は彼と顔を合わせていない。不満なわけでも、わがままを言いたいわけでもないけど、すこしだけさびしい。
 彼はいまどこで何をしているんだろう? きっと、誰かの笑顔のために日々は依頼を受けているに違いない。だって、口ではなんやかんや言いながら、彼がそういう生き方以外選べないことをわたしは知っている。

 白いシロツメグサをツンツンつつけば、ゆらゆらと花が揺れる。こんなに細い茎で、不釣り合いな大きな花をよく支えてられるものだと感心する。シロツメグサの茎は細いけど、冠や指輪をつくれるくらい、柔軟で強かだ。それはまるで、彼の正義のよう。


「ねえ、ユーリ」


 窓を開けて、もう一度彼に呼び掛ける。
 やっぱり返事はない。彼は人に笑顔を届けるような仕事をしているのだ。今ここでこうやって笑っているわたしのところには来ない。まだ、来なくていい。


「忘れてませんよね、ユーリ」


 あなたがこの鉢植えをくれたときに言った言葉。約束通りちゃんと育てて、ほら見て? こんなにきれいな花が咲きました。
 いってくれましたよね。この花が咲くころにはわたしを迎えに来ると。遠きあの日と同じように、ここからわたしを連れ出してくれると。これは、その約束あかしだと。
 ユーリ、きれいに花が咲きましたよ。空はこんなにきれいですよ。そろそろ、迎えに来てくれませんか?

 物語じゃあるまいし、ロマンティックに彼が今迎えに来てくれるなんて思ってない。だってわたしはもう物語のお姫様じゃない。白馬なんて絶対に合わないけど、大好きな王子様がいる、本物のお姫様。

 窓を開けたまま、椅子に腰かける。あの日読んでいた物語のページが、ぱらぱらとめくられる。


 今日もあたたかい。ぽかぽか日差しの昼過ぎだ。





(貴方が来るのを待っています)





++++++


シロツメグサ
花言葉は『約束』

大変遅くなってしまい申し訳ありません><
しかも、ユリエスなのにユーリが全く出てこないという…。
こんなのでよろしければ、よかったらもらってやってください!

それでは、企画参加ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!

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