御礼&企画小説 | ナノ
*しあわせの日*



「エステル」


 白いタキシードを身に纏い、居心地悪そうにしているユーリがわたしの名前を呼ぶ。わたしも彼の名前を呼べば、彼はゆっくりとわたしの方に歩み寄りそっとほほ笑みを向けた。
 いつもと違い、ながい髪の毛は後ろで一つに結われている。そのかっこよさに惚れぼれしてしまい、わたしはすこし赤くなった頬を隠すようにうつむいた。


「? どうかしたか?」
「……なんでもない、です」
「そうか?」


 見惚れていたなんて恥ずかしくて言えるわけもなく。不思議そうに首を傾げたユーリの顔を、見ることもできない。

 今日は、いよいよわたしとユーリが一つになる日。女の子が一度はあこがれる可愛らしいウェディングドレスを身に纏い、その隣には大好きな人がいる。たくさんの友人に見守られ、式が始まる――。



「エステル」



 名前を呼ばれ、渋々顔をあげると――ユーリの唇が、わたしのこめかみに触れた。


「ゆ、ユーリ!?」
「なんだ、唇がよかったか?」
「そ、そんなんじゃありません!」


 近くには化粧師もいるのに。視線を彼女に投げれば、こんなことは日常茶飯事なのか、大して気にしたそぶりもなく、穏やかな微笑みをたずさえて見守っている。

 ユーリの指先がわたしの唇に伸びる。けれどそれは触れる寸前のところで止まった。


「ここは、あとで……な?」
「もう……」


 耳まで真っ赤になった顔は、うつむいたって隠せないから真っ直ぐ彼を見つめる。きれいな夜空の瞳が、やさしく細められた。
 

「きれいだよ、エステル」
「ユーリも、かっこいいです」
「はは、さんきゅ」


 それじゃあ、またあとで。

 そういったユーリは近くにいた化粧師さんを呼ぶと、二人で外に出ていく。いったいどうしたのだろうかと首をかしげていれば、すぐに化粧師さんは戻ってきた。
 その手に、きれいなコサージュを抱えて。


「それは?」
「新郎からの贈り物です」
「ユーリからの……?」


 桃色のきれいにアレンジされた髪に、そのコサージュが飾られる。真っ白な花に目を輝かせれば、化粧師さんはそっとほほ笑んだ。


「オレンジの花のコサージュですわ」
「オレンジの花?」
「そうです。花言葉は……“花嫁の幸福”」


 素敵な旦那さまですね。
 ……そんなの、こっちのセリフだ。

 泣きそうになるのをぐっとこらえる。今泣いたら、せっかくの化粧が台無しだ。




「それじゃあ、お時間になります」




 わたしは立ち上がる。

 目の前のドア。

 この先にあるのは、二人の幸福な、未来。







(キミと幸せになる未来)



++++++

オレンジ
花言葉は『花嫁の幸福』

大変お待たせしました!
拙い作品ではありますが、お気に召したら幸いです。

それでは花言葉企画参加ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!

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