御礼&企画小説 | ナノ
*君にとどける*




「これからも……、できることなら、生涯ずっと。僕のとなりに、いてくれないかい……?」

「――っ」



 愛されていたのも知っている。
 僕が彼女を愛しているのを、彼女が知っているのも知っている。

 だけど。



「うち、は……っ」



 思いつめたような表情の君が、とっさに僕に背を向けて。自慢のおさげをふりみだしてまで部屋を飛び出して行った、その後ろ姿を見たとき。

 ああ、この言葉は告げるべきではなかったのだと、思い知らされた。









 あの日から一か月。

 あれ以来、パティから何の音沙汰もない。僕は僕で、各地で視察をおこない、帝都にはもどっていない。
 今頃彼女は何をしているのか。何を想い、誰とどこで過ごしているのか。それを知る術はいまの僕には何もない。

 ……いや、本当は凛々の明星の面々にでも依頼すれば、そんなの一発でわかることぐらい気付いている。ただ、プロポーズを受け入れてもらえなかったという事実を、真正面から突き付けられるのが怖いだけだ。



「騎士団長」

「……なんだ?」



 ため息をついたところで、部下に呼ばれ顔をあげる。そこにいたのは、心配そうに眉を寄せているソディアだった。



「どうした?」

「……少しお休みになってください。そんなに根をつめてはお体を壊してしまいます」



 たしかに、この一か月ほとんど体を休めてはいない。自室に戻ることもなく執務室にこもりきりで仕事をし、部下の教育をしたり各地を視察のために飛び回ったりと忙しい日々を送っていた。
 人の何倍もの時間休まずに働いている自覚はある。体に疲れも感じている。

 だけど。




「ありがとう、ソディア」

「団長……」

「それでも……いまは、休んでいたくないんだ」




 暇さえあれば、彼女のことを考えてしまう。それが今は、ひどくつらい。

 どうやら察してくれたらしいソディアは、無念そうに唇をかみしめると僕の身を案じる一言を残して去って行った。
 その姿を見送り、ノール港からの海を眺める。




「……パティ」

 君はいったい、今どこで何を考えてるんだい――?










「なっさけねー面」

「っ! ユーリ!?」



 夜、宿屋の一室で一人休んでいると、窓から現れた親友の姿に驚く。


 
「仮にも騎士団長様がそんな顔してていいもんかねえ?」

「っ君こそ、いい加減ドアから入ってくることを学んだらどうだ?」

「余計なお世話っと」



 そのまま窓から部屋に侵入したユーリは、自分の目のしたをつついて見せる。



「くま、すごいぜ。寝てねーのかよ?」

「……君には関係ない」

「どうせパティのことだろ?」

「っほっといてくれ!」




 無神経に彼女の名前を出したユーリに腹が立ち、僕は声を荒げる。こわいこわい、と大して怖がるそぶりも見せずそういったユーリは、ちょいちょいっと僕の肩をたたいた。



「……今日はいったい何の用だい?」

「んー。手、出せ」

「手?」

「そう、両手をこんなふうに」



 まるで手錠をかけられるみたいに、手首と手首を重ね合わせたユーリは、早くしろ、と僕をせかす。
 いったい何がしたいんだろう。

 そう思いながら彼の言うとおりに、手首を重ね合わせた瞬間。



 カチャ



 僕の両手にはまる鉄の手錠。それに目を見開き、彼を見上げる。



「ユーリ!? いったいなにを……」

「ジュディ、カロル!」

「了解!」

「わかったわ」



 ユーリの掛け声とともにどこからともなくあらわれたのは、カロルとジュディスで。
 二人は僕に目隠しをし、体を縄で縛り、床に転がした。



「どういうことだ、ユーリ!! それに、カロルとジュディスも!!」

「あら、ごめんなさい? でも、私たちもお仕事なの」

「正式な依頼だから、悪く思わないでね」

「そういうこった」



 誰だかわからないが、足音が近づいてきて、そして僕の口にハンカチを当てた。
 それと同時に襲ってくる眠気。

 遠ざかる意識の中、最後にユーリの声が響く。



「悪いようにはしねえから、しばらく眠っとけ」



 君はいったい、どこまで悪役が似合う男になれば気がすむんだ。

 悪態を突こうと思ってもそれは声にならず、僕の意識はそこで途絶えた。










 花の香りがする。やさしい香り。

 それにさそわれるように、ゆっくり目を開く。
 そこにひろがっていたのは――。



「これ、は……」



 赤、白、紫、ピンク……。

 きれいな色をしたシザンサスの花が敷き詰められている。
 ここは確かに僕の部屋だ。だけど、そこにひろがるいつもと違う美しい光景に僕は驚いて声も出なかった。



「目が覚めましたか?」

「! エステリーゼ様!?」



 花の中で上品にほほ笑むエステリーゼ様は、おはようございますと笑みを深めた。



「もうお目覚めか?」

「ユーリも……。これはいったい……?」



 あくびをこぼしながらやってきたユーリの姿。二人は並ぶと、一輪シザンサスの花を摘み、僕に突きだした。



「これ、全部パティがやったんだぜ」

「! パティが……?」



 これだけの花を僕の部屋に敷きつめて。
 そこでようやく、僕をここに連れてくるのがパティから頼まれたユーリ達の仕事だったのだと気づく。





「“あなたと一緒に”」

「!」

「シザンサスの花言葉です」



 あなたと、いっしょに。

 エステルとユーリはほほ笑み、その花に視線を投げた。



「海賊と騎士団長。身分が違うのは分かりきってることだろ。それをパティが気にするってことも」

「だからこそ、この花にありったけの思いを託したんじゃないでしょうか?」




 ぎゅっと胸をわしづかまれる思いがした。

 そうだ、わかっていたはずじゃないか。パティが、そういうのを気にして身を引いてしまうことぐらい、考えればわかったはずじゃないか。
 僕は慌てて立ち上がり、部屋を飛び出ようとする。



「今日はまだ帝都にいるって言ってた」

「! ユーリ……」

「本当は明日、お前を連れてこいって言われてたんだ。自分が旅立ってからって。一日早く連れてきてやったオレたちに感謝しろよ」

「感謝する!」

「フレン、がんばってください!」



 後ろから聞こえたエステリーゼ様の応援に返事を返すことなく、駆けだす。





 なんども転びそうになった。人にぶつかった。

 だけど走り続けた。彼女の姿を見つけるまで、帝都を駆け抜けた。



 そして。



 ようやく、君の後姿を見つけた。
 名前を叫んだ。驚いた顔をした彼女が振り返った。

 もう、告げる言葉は決めてある。







「頼む。これからもずっと、僕の傍で笑っていてくれ」




 彼女は泣いた。泣きながら、きれいに笑った。










(心だけじゃなく、すべてが共にあることを願う)




++++++


シザンサス
花言葉は『あなたと一緒に』

フレパティなのに、パティほとんどしゃべってない…。
こんなんでもお気に召したら幸いです。

それでは花言葉企画参加ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!

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