御礼&企画小説 | ナノ
*幸せだから*










「――ん?」






 ふわり。




 風に漂ってきた、まろやかな甘い香りに首をかしげる。

 これは、花の香り?



 キョロキョロ周りを見渡す。

 けれど、近くに花らしきものはどこにもない。




 すると、近くでまたあの香りがする。

 ふりかえれば、そこにいたのは水を汲んでいたエステルの姿。






「ひゃあ!?」

「――ああ、ここからか」

「ゆ、ユーリ!?」






 エステルの首元に鼻を近づければ、どうやら香りの発信源はここかららしい。

 驚いたのか、飛び上がったエステルが水筒を落とす。

 中の水はぶちまけられ、エステルの服をぬらした。


 その衝撃で、自分がやらかしたことに気付き、あわてて身を引く。






「……あ、わりい」

「もう! 急にどうしたんです?」






 頬を染め、目を潤ませ。

 上目遣いで睨んでくる彼女に、苦笑する。



 相変わらずの反応だけど、本当にかわいい。






「お前、香水付けてんのか?」

「へ?」

「いや、お前から甘い花の香りがしたから」






 ああ、それで。





 オレの行動の意味がわかったらしいエステルはなんどか頷くと、笑顔を浮かべた。






「はい。この間寄った町のお店で買ったんです」

「へえ。なんの香り?」

「リラの花をベースに作ったやつなんです。甘くていい香りでしょう?」

「リラ……?」






 聞き慣れない花の名前に首をかしげる。






「えっと、ライラックって言えばわかります?」

「ああ、それなら聞いたことある」






 たしか、うす紫色の小さな花をたくさんつけるやつだ。

 合点がいったように頷けば、エステルはうれしそうに笑った。






「あの花、こんなにいい香りするのか」

「まろやかな甘い香りがして、お気に入りなんです」






 ふたたび水筒に水をいれた。

 いれ終わった水筒を受け取り、みんなのいるテントまで戻る。



 すこし前を歩くエステル。

 ぴょこぴょこ揺れる桃色の髪。



 先ほど鼻を近づけた、白くて細いうなじが姿をあらわし――赤面する。






「あー……」






 さっきは平気なふりをしていたけど、思い返すとやっぱり恥ずかしい。



 白くて、華奢で、甘い香りがして、オレとは正反対。

 手に入らないとわかっているからこそ、よけいほしくなる。




 それでも。




 オレは、すこし口元を緩ませる。







 彼女はいま、ここにいる。

 世界の命運がかかっている旅だとわかってはいるが、もうすこしこの旅を続けていたい。



 彼女の、そばにいたい。



 それはあまりにも欲張りか、と苦笑する。






「ユーリ、なに笑っているんです?」

「ん? オレ、笑ってるか?」

「え? 笑ってました……よね?」

「そうか? お前の気のせいじゃねえの」

「えー?」
















 いつか、来る別れ。


 それを先延ばしにしたいなどと、もういったりはしない。


 だから、せめて。









 目を閉じる。


 花をくすぐった、リラの花の香り。

 それとともに駆け抜けた、感動。
 







 いつかの別れの日のために。


 この思い出を、胸の中に置かせて。




















(それだけで幸せだから、笑う)







++++++


リラ
花言葉は『初恋の感動』『青春の思い出』


リラの香水っていい香りしますよねー!
ひふみの知り合いがつけていて、すごくいい香りがしたのを覚えています♪

はたしてユリ→(←)エスになっているでしょうか?

それでは、企画参加ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!

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