御礼&企画小説 | ナノ
*あなたに贈る*
冗談混じりに「好き」といえば「オレも好きだぜ」と笑う。
「嫌い」といえば「そっか」と苦笑する。
本気で「好き」といえば彼はなにもいわない。
だからきっと、わたしはこの想いを、あなたには告げられないのだと思う。
「お? なんだこれ」
お茶に呼んだユーリがティーカップをかたむけながら気付いたのは、小さな花をたくさんつけた鉢植。
オレンジ色と白い花をつけたものが並んで置かれている。
わたしはそっとほほ笑み、テーブルに置かれたクッキーに手を伸ばす。
「きれいでしょう? エリカっていう名前の花なんです」
「へえ。可愛い花だな」
「でしょう? お店で見つけて、つい買ってしまったんです」
嘘だ。
わたしはティーカップの中で揺れる琥珀色の紅茶を眺める。
へえ、とユーリは椅子から腰をあげ、その花の前に立った。
「こっちはエステルみたいだな」
「へ?」
「真っ白でふわふわして。なんか飛んでっちまいそうなとことか」
「もう、ユーリ?」
「わりい、わりい」
ちょっと睨めば、ユーリは苦笑し椅子に座った。
わたしは空になっているユーリのティーカップにお茶を足す。
「よかったら、そっちの白い花貰っていってください」
「は? いいのかよ。だってお前、気に入って買ったんだろ?」
「はい。白とオレンジの両方あって、どっちがいいかなって迷って両方買ったんですけど、両方奥には少し大きすぎて。わたしはオレンジのほうが気に入ったんで、もらってください」
ユーリは怪訝そうな顔をする。
それもそうだろう。
普段ならそんな勿体ないお金の使い方はしない。
旅でついた金銭感覚、というヤツだ。
「本当にいいのか?」
「はい。大切に育てれば何年も咲くと思うんで、大事にしてあげてくださいね?」
「ああ、サンキュ」
ユーリは紅茶を飲み干し、時計を見る。
「わりい。このあと依頼が入ってんだ。もう行かねえと」
「そうなんです? 気をつけてくださいね」
「おう」
んじゃ、これもらってくな。
ユーリは鉢を抱きかかえ、バルコニーに出る。
相変わらず、ドアから出てかえるという気はないらしい。
わたしは苦笑しながら、彼を見送る。
「また、お茶を飲みに来てくださいね?」
「ああ」
「そうだ、今度はみんなも呼びましょう! 最近全然あってませんし」
「そうだな」
「それから……」
出かかった言葉を飲み込む。
きっと、これはわたしのエゴだから。
彼が心地よく受け止めてくれる言葉ではない。
困らせてしまうだけ。
わたしはほほ笑み、笑顔で手を振る。
「いってらっしゃい、ユーリ」
「いってきます、エステル」
うまく木を伝って下りていくユーリ。
ふりかえりもせず、依頼人のところに向かっていくだろう彼の姿を想い、目を伏せる。
ねえ、ユーリ。
あなたを困らせるためだけの言葉は、もう告げない。
告げたところで、あなたは上手にかわして逃げていくのでしょう?
だったら、せめてそのお花に想いを託させて。
ありったけの、あなたへの想いを願いに変えるから。
あなたが見つける恋が、幸福なものであるように。
きっとそれはわたしの役目ではないから。
だからわたしはわたしのエゴであなたの孤独に寄り添おう。
あなたが本当の幸福を見つけるその日まで。
ねえ、ユーリ。
わたし、あなたのこと――。
(心の中だけで、紡ぐ言葉)
++++++
エリカ
花言葉は『孤独』『心地の良い言葉』
そして白は『幸福な愛』
悲恋(?)っぽく温かい話を目指しました。
お気に召すといいのですが…(汗)
それでは、企画参加ありがとうございました!
これからもよろしくお願いいたしますっ!
.