御礼&企画小説 | ナノ
*紡ぐ日々*




 


「これはねー、カラスノエンドウ!」




 まだ6歳の息子が指差したのは、紫色の小花がついた花だ。

 よくこんな小さい花を見つけることができるなと感心する。
 これが子供の視線か。




「それで、これは勿忘草! この話には言い伝えがあってねー」




 息子は笑顔でその花を指先でなでた。




「ある恋人同士がいてね、いつもの様に二人は川岸を散歩してると、女の人が川に流れる青い花を見つけて、それを欲しがったんだって。
 それで、騎士は女の人が好きだから、その花を乙女にあげようと川に飛び込んじゃうの。何とか花を手にするんだけど、川の流れが激しくて、急流にのみこまれちゃったんだって。しかも騎士は鎧を着てたから体は沈む一方なの。そこで何とか手にしたその青い花を乙女に投げ渡してこう叫んだって。“私を忘れないで!”って。
 それから、乙女は騎士との約束を守って、その花を髪に飾り生涯騎士だけを愛し続けたの。その時投げられた花が勿忘草なんだって」

「そりゃあ……また」





 悲劇なんだか、喜劇なんだか。


 その言葉は何とか息子の前で飲みこむ。

 隣にいるエステルに睨まれたからだ。



 しかし、それにしても。



 嬉々として花を指差しながら、花の名前をいい当てていく息子。

 今の花の説話といい、ちゃんと覚えているあたり頭の作りはありがたいことにエステル似らしい。



 エステルはほほえましそうにそんな息子の姿を眺めている。
 オレは生まれたばかりの娘を抱き直し、苦笑した。





「あいつ、すげえな」

「はい。もうユーリよりもいろんなこと知ってるかもしれませんよ?」

「うっせ」





 そうじゃない、といいきれないところがあるから恐ろしい。


 本当にオレなんかよりも知識の量は多いのかもしれない。





「これはねー、アカツメグサ」

「ん? それ、シロツメグサだろ?」

「んーん。赤いから、アカツメグサ。シロツメグサは白いやつのこというんだよ」





 そんなこともしらないの?


 なんて息子が無邪気に笑うもんだから。




 後ろの嫁さんは爆笑。
 オレは口元がひきつるひきつる。





「へー? そんじゃ、お前はどの花もわかんのか?」

「うん!」





 自信満々に頷く息子。

 その高く伸びた鼻をへし折ってやろうと、オレはその辺に生えていた青い花を指差す。





「これはなんだ?」

「ちょっと待って!」





 息子はじーっと花を眺める。




 おお、悩んでる悩んでる。

 いい気味だ、なんて思いながら眺めていれば、大人げないとエステルが苦笑した。

 だか、何とでもいいやがれ。




 そして満面の笑みを浮かべ、オレのほうを振り返った。





「これはね、タチイヌノフグリ!」

「は?」





 オオイヌノフグリだろ、とエステルのほうを振り返る。


 エステルはしゃがみ込み、息子と同じようにその花をじーっと眺める。

 そして、ふりかえったエステルがオレに向けたのは、苦笑。





「残念ですけど、ユーリ不正解です」

「はあ?」





 オレはしゃがみ込んでその花をのぞきこむ。

 息子はその花の中心にある雄しべを指差した。





「これ、黄色でしょ? オオイヌノフグリはね、先っぽが紫なんだよ」





 そんなわずかな違いも、この六歳の子供に分かるのか。

 オレはがっくりと肩を落とし、息子の花がまた伸びる。


 エステルは小さく苦笑し、近くに生えていた白い花を指差した。






「この花、知ってます?」

「知ってるよ! スイカズラでしょ? 白い花がだんだん黄色くなるから、金銀花とも言われるんだよね?」

「よく知ってますね!」

「これ、吸うと甘いんだってー! ねえ、やってみてもいい?」

「いいですよ」





 大好きな母親に褒められて嬉しいらしい。

 息子は嬉しそうに笑った。


 そして、花をひとつとり、その蜜を吸う。
 甘い! そう笑うその顔はやっぱり子供らしく、可愛らしい。






「それじゃあ、この花言葉、知ってます?」

「……知らない」






 知らないことがよほど悲しいのか、息子は眉を下げて首を横にふった。

 だけどすぐに教えて、と食いつくあたりがまだ子供だ。


 エステルはやさしく笑うと、息子をそっと抱き上げた。







「愛の絆、ですよ」

「愛の、絆?」

「はい!」







 ぎゅっと息子を抱きしめるエステルの細い腕。

 オレは、そんな二人を片手で抱きしめた。

 苦しいのか、もう一方の腕の中にいる娘がもぞもぞと動く。



 家族四人がぎゅっと身を寄せ合い、そのまだ白くてかわいらしい花を眺める。

 エステルはほほ笑みながら息子の頭をなでた。






「男女の愛、友愛、家族の愛……。その、絆です」






 ほほ笑んだエステルがこちらを見る。

 オレもそれに笑みを返した。


 子供たちの目をおおい隠すのも同時、そっと唇をかさねあったのも同時。





 わめく息子の頭をなでながら、オレたちの額がぶつかる。


 すぐ近くに、大切な人がいる喜び。

 愛しいものを、抱き寄せることができる喜び。



 オレたちは、笑いながらそれを噛みしめる。

 










 ――なあ、いつか話してやろう。オレたちの旅のこと。自分の生まれたルーツを。

 ――いいですね! あの子たちも旅が好きになりますよ、きっと。

 ――憧れて、気付いたら家飛び出してたりしてな。

 ――えー! それは困ります!

 ――いいじゃねえか。だってオレたちの間には、ちゃんと “絆”があるんだろ? だから、その日までにちゃんと、紡ごうな。オレたちの絆を。

 ――……はい!
















(オレとお前の紡ぎ歌)






++++++


スイカズラ
花言葉は『愛の絆』

勝手に子供登場させてごめんなさい(汗)
苦手じゃなければよろしいのですが…。
愛の絆と聞いて最初に浮かんだのが、家族の話だったので、こんな話を書かせていただきました。

それでは、企画参加ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!

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