死んでしまった僕らのマリア | ナノ

死んでしまった僕らのマリア


パリの象徴と言われるエッフェル塔が、月を携え僕を見下ろし続けている。
まるで僕のことはお見通しだと言うように。それでも僕は、右手に握るシャベルを離さなかった。

「ハア、……ッ」

あと一回、あと一回掘れば彼女は現れる。既に手は頑丈に固められた土を掘り起こしたおかげで豆が出来、すり潰れて血が出ていた。僕の細い腕じゃ、数十分で終わるわけがなかったし、彼女の居場所を聞いてから、準備もなしにシャベルだけ持って急いでここへ来たのだから、当然グローブなどしていなかった。

(あ、顔が……)

最後の一回を掘り終えた先に見えた、まだ腐敗していない彼女の顔。
月明かりと僕の影が重なった青白い肌は、死んでもなお陶器のように輝いていた。

(ジゼル……やっと会えたね……僕を捨てて出て行った貴女は、一体今まで何をしていた?父と過ごした日々は死んだほうがマシだと思えるほど悲惨だったのに)

彼女の体を覆う土を手で掻き分けながら、少々雑に抱き起こす。
彼女の体はまだ綺麗だった。余程身内が可愛がっていたのが分かる。丁寧に処理して埋葬したのだろう。
そんな身内の想いも今はどうでもよかった。罪悪感など感じない僕には。
それよりも、一刻も早く彼女を持ち帰らなければならなかった。
焦りじゃない、高揚して彼女と繋がることだけを考えていた。

もうこんな抜け殻は母親ではない。
母親であれば出来ないことを、今ならやれる。
僕は掘り起こした土を戻すことを忘れて、彼女を抱きかかえたまま帰宅した。


「たくさん愛してね、ママ」
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