君を騙した午前2時
深夜の神田町はまだ明るい。
カーテンを閉めているというのに光が漏れ、窓の外はネオンで輝いていた。
僕は仰向けに寝ていたベッドの中から、体を横向きにさせ、静かに起き上がる。
「ん……」
シーツのシュルッという擦れる音に、隣で寝ていたイリーナが身動きした。
そのせいでカーテンのように体を覆う水色の髪がパサリと広がり、何も身につけていない体が露わになる。
(心臓に悪い……)
今だに女性の体には慣れない。
イリーナが初めての恋人だし、僕はそれまで童貞だった。
年上の彼女になぜだか安心して、リードしてくれるイリーナにドキドキしたのはまだ記憶に新しい。
(こうして見ると、彼女は大人びて見える)
起きているイリーナと、寝ているときのイリーナは印象がガラリと変わる。
普段の彼女は、僕を甘やかして身の回りの世話もしてくれる。
お嬢様口調で、品のある……それでいて行動は大胆。
寝ているときはそれが無いから、とても違和感を覚えるというか、普段と違う彼女にドキドキするんだ。
「Merci pour le donner sans se débasrasser de moi.(僕を見捨てないでいてくれてありがとう)」
彼女の顔にかかる髪を指先で攫い、耳元で囁いた。それでも彼女は起きない。
僕はベッドから降りて見につけていた部屋着を脱ぎ、クローゼットからスーツ一式とコートを出し着替えた。
いつもの黒のスーツと黒いシャツに赤いネクタイ、その上から黒のコートを羽織れば、僕は蝙蝠。
「……行って来ます」
夜の空へ羽ばたく蝙蝠。