雪がチラチラと降る神田町はクリスマスムード一色に染まっている。
いつも人が行き交い、眠らない町と言われるここも、今日はそれよりも余計に人が多い。
何を隠そう今日はクリスマス。
恋人たちは寄り添い歩いて、心も浮いているようだ。
神田町ヒルズの55階にいるこの2人も、クリスマスを楽しんでいるのかいないのか…
「ねえ雅」
「…んん、なんや?」
「外行かなくていいの?イルミネーションとかすごいよ」
「いいて、外寒いやんか」
雅は黒革貼りのソファに座って、雪華を抱え込みながら毛布に包まっている。
その姿はとても極道者とは思えない。
「神田町のイルミネーションって、盃さんが指揮取ったんだよね?」
「せや、あいつホンマにああいうことには熱心に取り組みよるわ」
「ふふ…盃さんらしいじゃん」
「後目争いのことも考えてほしいもんやな」
雪華の肩に顎を乗せて、大晦日へ向けてスペシャルばかり流れるテレビをぼーっと眺める。
「…雪華」
「ん?なんだ?」
「ホンマは外行きたいんちゃうか?」
クリスマスを家で過ごそうと考えたのは自分であるのに、こんな質問をするなんて、と雅は自嘲気味に笑った。
「え?どうしたんだ急に」
「いや…退屈しとんちゃうかと思て」
「…何を心配してるか知らないけど、私はイルミネーションも、ケーキも、シャンパンもいらない。雅がいてくれさえすればそれでいい」
「雪華…」
「それに、ケーキは昨日龍仁会のみんなと食べただろ?あとシャンパンも」
雪華の顔は前を向いていて見えないが、髪の間からチラリと見える耳は、林檎のように赤い。
口角が上がるのを雅は抑えられなかった。
「あー…このまんまここで寝るかー」
「何言ってんだ!風邪引くぞ!」
「おやすみ…」
「あ!おいこら!」
彼女の体を後ろからきつく抱きしめて、肩に顔を埋めた雅は3秒もせずに寝息を立て始めた。
外はクリスマス。
だけどデートもケーキもシャンパンもいらない。
2人がそこにいるだけで、周りはゴールドに輝くのだから。
2012/12/25
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