煙草擬人化小説 | ナノ

違う景色の中にも
昔から変わらないものはあると教えてくれたのも
暖かくて、心が切なくなるこの感情を教えてくれたのも
鳥籠の中の私を連れ出してくれたのも

全部、全部貴方でした

違う街に来たこと、貴方は
「ようこそ、俺の街へ」
って少しはにかみながら、でも照れ臭そうに私の手を握ったこと、覚えてる。

それから毎日、貴方と朝も昼も夜も、一緒に過ごしたの。
何もかも初めての私は、都会の色に染まって行くのが少し怖かったけど、貴方が隣で笑ってくれるから、いいかなって。

ある日、私の好奇心が一人で外に出てみようって、足を動かした。
でもそれが間違いだったのに気付いたのは、目の前に泣いている貴方の顔があったから。

事務所からさほど遠くないところだったのに、急に意識が遠のいて、ああ、殴られたんだなって思った。
次に目を覚ましたときに見たのは、白い天井と、貴方の泣いている顔、初めて見たわ。

怒られるって思ったのに、ただ、貴方は私の手を握って泣いて。
「良かった…良かった…!俺はもう君を失ったら生きていけない」
ちょっと大げさですよって言おうと思ったけれど、必死な貴方を見たらそんなこと言えなくて。
私はごめんなさいって言うしかなかった。

そんなこともあったけれど、一番嬉しかったのは、貴方と結婚して子どもに恵まれたこと。
私は元々体が弱かったから、ちゃんと赤ちゃんを健康に産んであげられるか心配だった。
色素は薄くて、アルビノって先生に伝えられたときは、そんなのどうでも良くて、ただ
「産まれてきてくれて、ありがとう」
って抱きしめてあげたの。

でも、この子を産んでから、私の体調は日に日に悪くなっていった。
なんとか、この子が母を忘れなくなる歳になるまでは、と7年頑張ったけれど、その頃にはもう私はベッドから出られなくなっていた。

神様は残酷だった

広い部屋に家族三人で、家族の写真に囲まれながら、私は最後の時間を過ごした。
死ぬのは怖くない、けど心残りは…。
貴方も心配だけど、何より幼いこの子を置いて先に逝くのがとても心配です。
貴方がこの世界にいるから、死ぬっていう事に小さい頃から慣れてきていたこの子は、私の姿を見て悟ったのだと思う。
でも母親という存在はあまりにもこの子には大きい。
泣きじゃくるこの子の頭を、せめて明日からは力強く生きれるようにと、撫でてあげた。

目を閉じる最後は、視界を貴方の顔でいっぱいにしてほしくて、最後の力を振り絞って貴方の顔を引き寄せたの。
あの時と同じ、貴方は顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
愛しい貴方の一部である、顔を走る一文字の傷を撫でる。

「一番愛した貴方、最初で最後の恋でした」

さよならは言わない。
だって、天国でも一緒でしょう?
違う?ううん、きっと一緒よね。
私も貴方なしでは生きていけなかったから。

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