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承認欲求 Feb 27, 2016 屋上でいつものように麻雀をやっていた俺らの後ろで、黒のソファーに座っていた澪が今までに聞いたことがないような覇気のない声で話しかけてきた。 「芹沢……」 「あ?なんだ、しけた顔して」 牌をジャラジャラと鳴らす音と、煙草の煙が上っていく中で、チラっと横目で澪の顔を見やる。 いつもの強気な目が伏し目がちになって、俺たちが囲って座っている4つ四角に並べた机の一角を見つめていてなんだか調子が狂う。 「生理なんじゃねーの」 「おい、鳴海やめとけ」 煙草を蒸していた鳴海がデリカシーのない一言を言う。 もともと俺らにデリカシーもクソもねえんだが、正紀(まさき)がいつもと違う雰囲気を読み取って鳴海を制止する。 正紀は俺らと違って空気も読めるし気も遣える優しい奴だ。 男だらけのここに一人でやってくる澪をいつも心配している。 「なんで、芹沢は俺をここに置いてくれるの」 「別に俺がここに居ろって言ってねえだろ、お前が勝手に来てるだけだ」 「でも、嫌なら追い出してるよね……」 「俺に何を言ってほしいんだ」 2度目の勝負が始まり、真剣になりたいところを分けわかんねえこと言ってくる澪に舌打ちをしたくなりつつも、言葉を返してやる。 こいつの周りは知らねえかもしんねえが、以外と繊細なんだってのをこの前初めて知った。 どこにでもいる女と一緒だった。 「芹沢のグループに入れてほしいんだ」 「ああ、イイぞ」 「やっぱり駄目だよな……え?」 「その代わり、俺たちが毎日やってる麻雀にお前も強制参加だー。負けたら昼飯買ってこいよ」 「え?え?本当に良いの?」 てっきり俺に断られると思っていたらしい澪は、声だけで驚いていることはすぐ分かった。 スプリングがバカになってるソファがギシ、と音を立てたから澪が動いたのだろう。 おおかた、俺が言ったことが信じられず前のめりになったとか、そんなんだろ。 「うるせえな、イイっつってんだろ。俺は女だろうが関係なくお前の力を認めてんだ」 「っ……ありがとう」 「……ほら、こっち来て座れ。昼飯賭けて勝負だ」 「うん……負けない!」 涙声になっている澪を、正紀が優しく見つめていて(こいつ、澪のこと……)と変な邪推しかけたが頭から葬り去る。 鳴海は鳴海で気にしていないのか3本目の煙草を取り出していた。 だけど口元は分かりずらかったが確かに笑っていた。 後から来る後輩たちが、澪が俺たちの仲間になったと知ったら大喜びで騒ぎ出すだろうと、俺と鳴海と正紀は同じことを思っていた。 at 16:20 |