※Vassalord.パロ。世界観とか雰囲気とか。
※notクロスオーバー。元を知らなくても問題ないです。
※ヴァンパイア黒子。黒子の隷属な相棒組。ヴェドゴニャ火神。
※年齢操作。黒子たちは年齢不詳。火神は18。





死が灰に溺れるまで





ばさり、と窓から飛び込んできた鷹が一度室内を旋回して、ソファに座っていた水色の髪をした少年の肩にとまった。
それを見て火神は嫌そうに眉を顰める。
床に落ちた数枚の羽を無言で拾ってゴミ箱に捨てていると、「あ、ごっめーん!」と軽い謝罪が投げかけられた。


「はいテッちゃん!今日の分のご飯だよ!」
「ありがとうございます」


たぷんと揺れる赤い液体の入った袋を嘴で銜えていた鷹は、その袋をテッちゃんと呼んだ少年の手の平に落としてそう言った。
当たり前の顔をしてそれを受け取った少年は鷹の頭を撫でるように手を滑らせる。それに嬉しそうに擦り寄った鷹は、次の瞬間にはその少年と同い年くらいの男の姿になっていた。
楽しそうな表情で黒子の肩に懐くようにソファ越しに背後から擦り寄る。


「新鮮な取りたてだからね!さ、飲んで飲んで!」
「いただきます」


鷹が持ってきた袋―――輸血用の血液パックに刺されたストローを吸い上げ、誰のものかもしれない血液を無表情に摂取しているのは黒子という名のヴァンパイアだ。
ちゅーちゅーと少しずつ中身を消費していく黒子に、鷹だった少年…高尾は笑顔のまま黒子の隣に腰を下ろした。


「おいしい?」
「はい」


こくりと頷いた黒子に、高尾は嬉しそうに笑みを濃くした。
火神はここ最近で見慣れてしまったその光景を前に溜息を付く。


「どうかしたかい、タイガ?」


それに気付いて、彼らを微笑ましげに眺めていた氷室が火神に視線を流す。
昔からまったく姿が変わらない美丈夫に、火神は「別に」と苦々しげに返した。


「つーかお前らいつまで居んだよ」
「なんや、わしらが居ると都合悪いんか?」


にやにやと性質の悪い笑みを浮かべているのは、今吉と名乗った25歳くらいの眼鏡をかけた糸目の青年だ。その隣では笠松という今吉と同い年くらいの青年が呆れたような、どこか苦笑にも似た表情で「悪いな」と呟いた。


「俺たちもさっさと出ていってやれりゃあいいんだが、今はちょっと動きにくくてな」
「ヴァンパイアハンターが近くをうろついてるって情報が入ってるからね。今動くのは自殺行為だよ」
「ま、そういうわけや」


まったく申し訳ないとは思っていないだろう楽しげな表情でそう言った三人は、黒子を主として慕うヴァンパイアである。


「…俺を巻き込むなよ」
「すみません、火神くん」


唯一申し訳なさそうな顔をしたのは黒子だった。高尾が持ってきた血液パックは飲みきったらしく、先ほどよりも顔色がよくなっている。
最初に出逢った時も随分顔色が悪かったし、知り合ってから数ヶ月しか経っていないが、どうやら黒子は直接人間の肌に牙を刺して行う吸血行為を好んでいないようだった。言われなければ血を飲もうとしないし、あまりの顔色の悪さに一度血を提供しようとした事があるが、その時は丁重にお断りされた。その直後に飛んで来た高尾によって輸血パックが届けられなければあのままぶっ倒れていただろうに。

―――今まで見てきたヴァンパイアと比べても、黒子は特殊だと思う。

一度それを氷室に話した事があるが、射抜くような視線で微笑まれただけで答えは返ってこなかった。まぁそのお陰で色々と確信したわけだが。


「いや、別にお前が悪いって言ってるわけじゃねーよ」
「でも、」
「もういいって!気にすんな」


頼られて嫌なわけではないのだ。
ただちょっと黒子以外の存在が邪魔だと感じて苛立ってしまっただけで。
勿論それを本人に言う気はないが、その黒子以外の四人には完全にバレてしまっているようで先ほどからずっとニヤニヤ笑われている。数百年単位で生きている彼らからしてみれば、認めるのは腹立たしいが、18年生きた程度の俺の虚勢など一目瞭然なのだろう。
それに、例えヴァンパイアであっても兄貴分である氷室の願いを無化には出来ない。
むにっと滅多に働かない表情筋を動かすように黒子の頬を摘むと「やめてください」と若干舌足らずな抗議が返ってきた。思わぬ柔らかさに引き際を見失ってむにむにと揉んでいると、隣に居た高尾の目が鋭く光る。
その獰猛類らしい鋭い眼力は鷹の姿の時と変わらない。
一見軽そうに見える言動も、その実、計算し尽くされたものだというのは誰に言われなくとも本能で感じ取っていた。…つまり今はやばいって事だ。


「でも、まさかタイガとテツヤが知り合いだとは思わなかったよ」


火神が黒子の頬から手を離して両手を上げて固まっていると、いつの間に移動したのか、氷室が黒子の背後から首筋に指を這わして怪しげに微笑んでいた。
黒子がくすぐったそうに身を捩るのを楽しげに眺める四人に、火神は盛大に溜息を付きたくなったのを耐え、小さく肩を竦めて見せる。
相変わらずと言うか、こいつらは自分達以外が黒子に触れる事を露骨に嫌がる。そもそも人間が黒子に近づく事さえ嫌悪している節があり、俺がただの人間だったのなら例え近くにハンターが居るとしても頼っては来ないだろうと思うほど、彼らは人間を警戒していた。
まぁその気持ちは分からなくもない。
人間にとってヴァンパイアは化け物であり、共存なんて思い浮かばないほどにその存在を駆逐しようと躍起になっているのだから。現に彼らは人を襲っていなくともヴァンパイアという存在であるだけでハンターに命を狙われる日々を送っている。
俺とて彼らが人を襲うような連中だったのならこうやって呑気に同じ部屋で話してなんていられないだろう。
ちなみに高尾はヴァンパイアではないそうだが、その辺りは詳しくは知らない。


「僕も火神くんと氷室さんと知り合いだとは思いませんでした」


―――あれはとても寒い雪の日だった。
この家の庭で、真っ青な顔をして木々の隙間で眠る黒子を見つけたのは。


正直あの時は死体かと思ってかなりビビった。黒いシャツとスラックスは一見すれば普通であったものの、周りの雪が赤く染まっていた事からその出血量は見て取れた。人間ならばとうに息絶えているだろう状況に恐る恐る声を掛けると、想像に反して青白い瞼が小さく震え、ゆっくりと開かれたその瞳が殊のほか強い光を湛えて火神を射抜く。ゆらりと淡く赤が映りこんだ瞳の、その蒼さに息を呑んだ。
無意識に伸ばした腕が黒子の頬に触れ、そのあまりの冷たさに我に返った俺はこのままだとそのまま本当に死体になりそうな黒子を抱き上げ、自動でお湯の沸いていた風呂に服のまま投げ込んだのだ。あの直後、驚いた黒子に鳩尾に掌底を食らって意識が飛んだのは忘れたい記憶である。
しかし今思い出しても、例え相手が人間でないと気付いていたとはいえ怪我人に対する処置ではなかったなと苦笑した。
ちなみに目が覚めた時、俺のぶかぶかのシャツ一枚を羽織って申し訳なさそうに寝転んでいた俺を見下ろす黒子に膝枕されていた事はこいつらには絶対に言えない。言ったが最後、笑顔で武器を手に襲い掛かってくることは想像に難くないからな。


「氷室は火神が小さい頃に知り合ったんだろ?」
「そうだよ。まだこんな小さくて凄くおろおろしてたからつい声を掛けちゃったんだよね」


それは小さすぎだろ。胎児か。氷室が人差し指と親指でワンコインサイズを示すのに対して内心ツッコミを入れつつ、俺は当時を思い出して「うっ」と喉の奥で唸った。


「確か迷子になってた火神くんを助けたんですよね。最初は迷子になってた子虎を助けたって聞いてたので、てっきりインドにでも行ってたのかと思ってましたよ」
「ぶっは!迷子って!っていうか子虎って!」
「誰が子虎だ!うるせぇな、笑うな高尾!つーかガキだったんだし、迷ったモンはしゃーねぇだろ!」
「でもその助けた子供がヴェドゴニャだったとか、すげー確率だよな」
「ホンマやで。わしも長く生きとるけどヴェドゴニャとか初めて見たわ」


ただの人間にしか見えねーよなーと火神をまじまじと見て呟く高尾に、敵に回らなくて良かったわと苦笑する笠松。それに同意するように頷く氷室と今吉の瞳には読めない色が浮かぶ。黒子も似たように微笑みながら、「君が死後が楽しみですね」と喜んで良いのか悪いのか、何とも言えないコメントを寄越した。
ヴェドゴニャとは、聞いた話によるとヴァンパイアを倒すための能力を非常に高く持って生まれてくるらしい。そして何故かその死後はヴァンパイアになるという、何とも微妙な存在だ。
なぜヴァンパイアを殺すための強い力を持って生まれてくるくせに死んだらそのヴァンパイアになるんだか。何やら小難しい説明を何度かバチカンからヴァンパイアハンターにならないかとスカウトが来た連中が繰り返していた気がするが、ややこしくて覚えていない。それに、その頃には氷室というヴァンパイアの存在を知っていたために誘いは全て断っていたので余計にだろう。とりあえず先祖にヴァンパイアが居た可能性がどうたら言ってたのは頭に残っているので、遺伝だとかそんなもんだろうと勝手に想像しておいた。まぁ間違ってはいないだろう、多分。


「俺自身、ヴェドゴニャとか言われても実感ねぇしな」
「そういうもんか?」
「実感がなくとも、火神くんなら僕を簡単に殺せますからね。本当に、敵じゃなくて良かったです」


ふふ、と緩く微笑む黒子から、俺はヴァンパイアの力を無効化することが出来るのだと聞いた。それをお前が教えて良いのかと呆れたが、いずれは知ることですよと何でも無い顔をしていたのが妙に印象に残っている。
最初、ヴェドゴニャに関して氷室から知らされた時は盛大に混乱したし、かなりショックだった。両親は普通の人間だったために相談することもできず、一時期は荒れに荒れたし、正直黒子に会った時もまだ自分自身が死後ヴァンパイアになる事を受け入れられてはいなかったが、今こうして穏やかな心持ちで自身がヴェドゴニャであると納得出来ているのはこいつらのお陰だ。ヴァンパイアがただ人の血を食らうだけの化け物ではないと、そこで確かに意思を持って、時には人間よりも高潔な精神で生きているのだと知ることが出来たのは、俺にとって幸せなことだろう。


「あ、そうや。質のええアールグレイが手に入ったんやったわ。自分ら飲むやろ?」


奥のバーカウンターに座って此方を眺めていた今吉が立ち上がって、茶葉が入っているらしいブランドのロゴが描かれた紙袋を手に問いかける。


「いいですね。丁度おやつ時ですし、火神くんが焼いてくれたクッキーをお茶請けにしましょう」
「テッちゃん、ホントそれ好きだよなー」
「テツヤは甘い物に関しては妥協しないよね」
「こないだまでマジバのバニラシェイクしか飲まなかった事を考えると進歩だろ」
「……それ進歩か?」


確かにバニラシェイクに拘りすぎて血液を摂取しなくなったために四人が慌てていたのは知っている。というかずっと傍で見ていた。何とか食事をさせようとした彼らの試行錯誤が完全に裏目に出て、バニラシェイクに血液を投入すると言う手段を取ったあの日のことは若干トラウマである。一言でいうならお前ヴァンパイアじゃなくて鬼か悪魔だろという状況だった。しかもその後一ヶ月姿をくらますという性質の悪い拗ね方をしてくれたため、残された四人のせいで家の壁にはいくつもの拳サイズの穴が開いた。あと羽毛がすごく溜まった。


「火神くんのクッキーは絶品ですね」
「紅茶とも合うしな」
「俺はこないだのナッツ入ったやつが好きだった!」
「ああ、あれはわしも好きやな」
「ジンジャーのやつも美味しかったよ、タイガ」
「そりゃどーも」


好き勝手言いながらテーブルに広げられたお菓子と紅茶を手に笑い合う。こうしているとヴァンパイアも人間も、生きていく上で摂取しなければいけないものや生きられる環境が違うだけで、個人には大した差はないように思える。
ふと、目が合った黒子は慈愛さえ感じるほど柔らかく目元を緩めた。





この15分後、盛大に窓ガラスや扉を蹴破って銃声と共に色鮮やかなハンター達が乱入してくる事になるのだが、今の俺たちはそんなことなど露知らず、つかの間の平穏をのんびりと堪能していたのだった。





***
この後ヴァンパイアハンターキセキが乱入してきて流血沙汰になったり赤司くんがセクハラしてきたりキセキvs相棒組みたいな殺伐バトルがあったそうです(伝聞)
真祖ヴァンパイアな黒子。本当は笠松さんをライカンにしたかったけどVassalord.にはライカンが出てないので却下しました。しかしよく考えたら高尾を鷹として出してる時点であれなので笠松さんがライカンでも問題ない気がしてます。狼姿の笠松さんモッフーしたい。

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