緑間の場合
※閲覧・深読み注意。





「緑間くん」


都内にある公園のベンチに腰掛けて、買ったばかりのおしるこに口を付けた時、近くから落ち着いた声が俺を呼んだ。
振り向いた先には、存在感の薄い一人の男。


「黒子か」
「珍しいですね。こんなところで何をしているんですか?」
「別に、意味はないのだよ。少し息抜きにきただけだ」
「そうですか…あまり無理をしてはいけませんよ」
「お前じゃあるまいに」
「…そうですね」


よく部活中に倒れていたのを思い出したのだろう、黒子が少し表情を緩めた。
体力がないくせに限界まで頑張る黒子を、毎回回収していたのは青峰だったか。
黄瀬が入ってきた辺りからはアイツも一緒になって黒子の傍に付いていたな。
まるで昨日の事のように思い出せるその光景に、誠凛に行った今もあまり変わらないのだろうなと予想する。


「あ、」


黒子が何かに気付いたようで、俺の座るベンチの後ろに視線をやった。
俺も同じように顔を向けると、そこには鳥の死骸が落ちていた。
掌に収まるくらいのサイズの小さな鳥はボロボロで、一目で生きていないと分かるほどだ。
そっと黒子がそれに近づき、手を伸ばす。
俺は考えるよりも先にその腕を掴んだ。


「駄目だ」
「緑間くん…?」
「汚れるだろう」
「でもこのままじゃ可哀想です」
「……」


目を細めて黒子を見る。本当に些細な変化だが、少し表情が陰っていた。
無言でカバンから若草色のタオルを取り出し、それを黒子に押し付ける。


「使え」
「…え?でも、」
「いいから、使え」
「…ありがとうございます」


俺が渡したタオルを胸の前で抱きしめて小さく微笑んだ黒子は、そのタオルで鳥の死骸を包んで抱き上げた。


「可哀想に…一体何があったんでしょうか…」
「猫にでも襲われたのではないか?…それで、それはどうするつもりなのだよ?」
「埋めます。幸い、広い公園ですし」
「お前は…まったく、お人好しなのだよ」


そのまま黒子は木々の多い場所に向かう。
荒らされないようにと少し奥まった場所に、落ちていた木の棒で少し深めに穴を掘った。
そこに鳥の死骸を置いて土を被せる。黒子は黙々とその作業を終わらせた。
手伝うでもなくただ眺めていた俺に、黒子は「タオル、買って返しますね」と言った。
それに必要ないと答えて歩き出す。


「……あ、そういえば」
「なんなのだよ」
「このあいだ高尾くんに、君が怪我した鳥を助けたって聞いたんですけど」
「…そんな話は知らないのだよ」
「『あの真ちゃんが病院に連れてってやって、家に連れて帰ったんだよ!俺は目を疑ったね!』って楽しそうに話してくれました」
「高尾おおおおお!!!」
「別に恥ずかしがらなくてもいいんですよ?」
「べ、別に恥ずかしがってなど居ないのだよ!!」


一体いつ会ったんだ、高尾!俺は聞いてないのだよ!
明日会ったら問い詰めてやると決意して、どこか楽しそうに俺を見上げる黒子に視線を落とす。


「それで、その子はどうしたんですか?」
「ああ、今朝起きたら居なかった。窓を開けておいたからな、出て行ったんだろう」
「怪我治ったんですね。それは良かったです。でも緑間くん、寂しいんじゃないですか?」
「ふん…野生は野生に返す方がいいのだよ」
「それもそうですが…どんな子だったんです?」
「種類か?…そういえば、さっき埋めた鳥に良く似ていたな」


種類が一緒だったのだろうな。翼の形や色はそっくりだった。


「そうですか。…その子じゃないといいですね」
「……ああ、そうだな」


頷いて、しかし内心では別の事を考える。
本当にそっくりだったのだよ―――折れた翼の、内側の傷だとかな。


「どうかしました?」
「いや、なんでもない。…そろそろ俺は帰るのだよ」
「あ、そうですね。じゃあ僕も失礼します」


ぺこりと礼儀正しくお辞儀して、黒子はゆっくりとした足取りで俺とは逆方向に歩いて行った。
その背中を静かに見送って、踵を返す。
公園の端に設置されていたゴミ場に近づいて、カバンの中から目的の物を取り出した。
ビニール袋に入った、一枚の白いタオル。


「これも捨てておかなければな」


放り投げるように捨てられたそれは、よく見るとところどころが赤黒く汚れている。
その袋にくっ付いていたのだろう、一枚の鳥の羽が風に吹かれてひらりと舞った。





お前が見ている美しい世界を俺にも見せてくれ。





***
ごめんね。でもそれも歯車の一つなんだよ。
定期的に確かめます。選択肢ミスらない限りは平和。

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