セントエルモの火


※FF15長編夢主。ノクトの双子の妹です。
※時間軸→王都を出る前。幼少期の捏造話あり。





きっと私達は
世界中の誰よりも強く結ばれている。





吐息は真白に曇り、澄み切った空気に溶けていく。
小さな鼻を赤くさせた双子達――彼らは聖なる祈りによって守られた標にて、雲一つない夜空を見上げている。双子達は大層庇護されているのか、マフラーやらダウンコートやらで着膨れていた。
双子の片割れ・ノクティスは、警護隊を捕まえて夜空を指さしながら意気揚々とお喋りをしている。
彼は近頃熱心に星座や宇宙に関する本を読んでおり、王都外での天体観測に憧れていた。
今宵は待ちに待った機会。
数ヶ月前から、国王陛下――つまり父親に何度も頼み込んで、ようやく得た貴重な時間だ。夜通し観測をするつもりなのだろう。日中に十分に昼寝をし、腹八分目の食事を摂り、専門家が利用する望遠鏡まで備えている。
――なお、今回は日頃蓄えた知識のお披露目会も兼ねている。警護にあたる大人達は、いつになくはしゃいでいる王子の姿に頬を緩ませていた。

『…、』

一方で、ネームはマフラーで口元を覆いながら、無言で標の模様をなぞっている。
――ここ最近、来る日も来る日も読書に明け暮れていた兄。
幼い頃から常に行動を共にしていたというのに、ノクティスが突然嵌った趣味によって、しばらく一緒に釣りにも行けていない。
試しに自分も星について調べてみたものの、天体の運行や変化については興味がわかなかった。どちらかというと、星座にまつわる「神話」の方に興味がそそられる。

『…ふん』

興奮した様子の兄を横目に、白い息がふわりと舞う。
正直なところ、今回の外出については乗り気ではなかった。しかしながら王都で兄の帰りを待つのも不本意であった。
拗ねている自分に構ってくれそうなイグニスは、昨日から風邪気味のため同行していない。他の従者や警護隊に気を遣われるのは、子ども心ながらに申し訳なく感じるため素直に甘えることも出来ない。
幼さ故に気持ちの切り替えもうまくできず、「せっかく王都の外に行くのなら、ガーディナやレスタルムに行きたかった」と心の内で毒づくばかり。
――様々な理由を並べ立てたが。
結局のところ、兄に構ってもらえなくて不貞腐れていたのだ。

『ねえ、ネーム』

ようやく話しかけてきたノクティスによってネームの顔が一瞬明るくなるが、すぐさま拗ねた表情に戻る。

『……なに』
『あれ見て』

"あれ"って何?星なんて幾億も、腐るほどあるというのに。
それなのに何故だろう、双子の勘だろうか。ノクティスが指し示す光がどの星なのか、ネームには自然と理解出来てしまう。
満天の星空を見上げ、隣に佇む少年が得意げに囁く。
冬の空、東から昇る左右対象の星を「ふたご座」と呼ぶのだと。
ネームと同じ顔をした少年は、無邪気に笑う。


『まるで僕達みたいだね』





「ふふ、」

思い出し笑いと共に――ネームはホットココアを啜り、王都の空に微かに瞬く星々を見上げた。
ああ、いつからだろう。
彼に身長を追い越されたのは。
重ねた手に男性らしさが表れ始めたのは。
彼が自分のことを「俺」と言うようになったのは。

「ネーム」

ベランダの窓を開けて現れたのは、少年時の透明感を残したまま成長した兄だった。
なんと素晴らしい美男子になったことか、と感動しながらネームは一人満足げに頷く。

「何ニヤニヤしてんだ」
「ん、今日はナントカ流星群が見えるらしいよ。名前忘れたけど」
「へえ」
「反応薄っ。お兄ちゃん、一時期天体観測ハマってたくせに」
「あー、ガキの頃な」
「そうそう。あの時教えてくれた『ふたご座』って、片方は人間で、片方は不死身なんだって。確か神様だったのかな?」
「おお…よく覚えてんなあ」

取り留めの無い会話はいつまででも続く。彼らの話には終わりがなく、飽きることもなかった。
――いつからだったか。
互いに恋の話をするようになったのは。
互いの違いを認め合うことができるようになったのは。
つれない態度をされても、心が離れたわけではないと思えるようになったのは。

「もしお兄ちゃんが冥界に行ったとしても、私は神に背いてでも蘇らせてみせるから」
「はあ?」
「私は共に生きることを選ぶよ」
「なんか訳わかんねーけど、ありがとな」

ネームの不可解な発言にノクティスは苦笑しつつ、妹の頭を軽く撫でる。
――天の星々は、星の行く末を知るもの達は、祈らずにいられない。
双子達の未来にいかなる苦難が立ちはだかろうと、互いを信じ続けられるようにと。
在りし日の思い出を忘れることなかれ、と。



セントエルモの火



>>>>>

匿名様からのリクエスト「ノクティス/FF15長編主人公とのほのぼのとした日常話」でした。
日常とのことだったので、王都出発前のお話にしてみました。

ふたご座の神話は色々あるそうです〜。
あとふたご座は「船の守り神」ともいわれていたらしく、釣り好きな2人にぴったり。
お気に召していただければ幸いです。
それではリクエストありがとうございました!
- ナノ -