「セ、セフィロス!?」

驚愕の声を上げ、階段を下る者がやってくる。ルカがそちらの方に視線を向ければ、今回の首謀者とも言えるであろう科学者がいた。

「ホランダー、やはりここにいたか」
「…ジェネシスとアンジールの劣化は誰が止めるんだ?」

ソルジャー三人、うち一人は世界で最も恐ろしい英雄なのだ。彼らに囲まれた状況に身を置きながらも男はいやらしく、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
表情の理由は程なく判明した。数枚黒い羽が落ちて来たかと思えば、ホランダーの前に黒い翼を持つ緋色の天使が舞い降りてきたのだ。

「ジェネシス、」
「ホランダーは渡さない」

ジェネシスは怜悧な笑みを浮かべてセフィロスに剣先を突きつける。粗暴な行動の割に、彼の纏う空気は実に優美で殺気が感じられなかった。強力な味方を得ているホランダーは後ずさりし、施設内から逃亡を図る。

「ザックス!ホランダーを追え!」

セフィロスの指示を受けたザックスに向け、ジェネシスが再び足を引っ掛けるのかと思いきや、今度は躊躇いもなく身を引いて通路を開けた。
一番驚いたのはホランダーだろう、予測と食い違った事態に慌てて駆けだした。
足音が遠ざかると、ジェネシスは剣を下げる。

「"惜しみない祝福と共に、君は女神に愛された。世界を癒す英雄として"」

LOVELESSを綴りながら彼は静かに歩み寄ってくる。ジェネシスとセフィロスが顔を合わせるのは久しぶりだが、生憎「感動の再会」とは言い難い。
セフィロスはルカの前に腕を伸ばし、庇うようにジェネシスの様子をうかがっている。

「『LOVELESS』か。相変わらずだな」
「――3人の友は戦場へ。ひとりは捕虜となり、ひとりは飛び去り、残ったひとりは英雄となった」
「よくある話だ」
「俺達が演じるとすれば英雄の役は俺か?お前か?」
「お前がやればいい」

ジェネシスはセフィロスの傍を摺れ違いながら淡々と話を続けるばかりだ。

「あぁ、あんたの名声は本当なら俺のものだった」
「くだらん」
「…今となっては、な」

互いの声音は穏やかだが、徐々に張り詰めていく空気にルカは拳を握る。羽根音をたてればまた黒い羽がふわりと宙を舞い、背を向けていた彼がこちらへと向き直った。

「俺が最も手に入れたいのは女神の贈り物だ」
「女神の贈り物?プロジェクト・Gに関係のあることなの?」
「さあ、どうだかな」

ふと、ルカの脳裏に教会に佇んでいた少女の姿が浮かび上がる。エアリスもそうなのだろうか。プロジェクト・Gに類似した実験により生まれた「古代種」なのだとしたら?
そしてもうひとつ、懸念がある。見て見ぬふりをしていた「疑惑」が、彼女の心にゆっくりと針を刺していく。

「ねえジェネシス…母は古代種の事をよく知っていたわ。あたしが小さい頃、古代種の話をたくさん聞かせてくれて…いつか必要になる知識だからって教えてくれたわ」
「ルカ、」
「それはプロジェクト・Gに関わっていたから?ホランダーが母の事を知っていたのは、母も同じく研究者だったからなの?」

セフィロスが諌めるのも構わず、ルカは食い下がるように問いかける。惑うルカに向けてジェネシスは楽しそうに喉を鳴らしながら笑いを零した。その瞳に狂気の炎が揺らめかせ、男は勿体ぶりながら口を開く。

「バノーラ村に居た者達は皆神羅の関係者だ。プロジェクトととも因縁が深かった…とだけ言っておこう」
「そんな、」
「焦るなよ、ルカ。もう少しで機は熟すんだ、お前の為に最高の舞台を用意してやる」

迷い子を宥める優しい声がルカの脳を揺らす。ジェネシスは形のいい唇に人差し指を添えて、魔に魅入られた微笑みを浮かべた。



「モンスターにふさわしい、惨劇をな」








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