調査日当日。ザックスとルカ、同行者であるタークスのツォンを乗せたヘリの中で、バノーラ村についての説明を受ける。
ツォン曰く――バノーラ村には神羅関係者が多く住んでいること、また、村の主要産業はリンゴ生産と加工で、神羅の補助金でなりたっていることを告げられる。
リンゴの生産については言われずとも理解していたが、村人達が神羅関係者であったことは初耳だった。彼らが神羅の技術――魔晄に関する知識が豊富であったのだとしたら、ライフストリームに落ちて体質が変化したルカに対する態度についても頷ける。ソルジャーなんて見慣れたものだったのだろう。

「…ところでルカ、シスネが寂しがっていたぞ」
「あたしもです。せっかく一緒にご飯食べようって約束してたのに」
「レノなら暇そうだが」
「嫌ですよ。奢りでも行きたくない」

相変わらずだなと苦笑するツォンと、肩をすくませたルカを見つめてザックスは不思議そうに首を傾げた。

「ルカってタークスと交流があったわけ?」
「少し前に依頼があってね」
「…ルカって何者――」
「そろそろ着くぞ」

質問はツォンの言葉に遮られ、ザックスは少々不満そうに視線を送る。
着地したヘリから降りると、ルカにとって見慣れた故郷の姿が目に飛び込んできた。
普段なら鳥の囀りや風の音が耳をくすぐるはずなのに、今は気味が悪い程静寂に包まれている。そのくせ何処からか注がれる無機質な視線達。ぞっと背を這う悪寒にルカは拳を固く握りしめた。
村へと繋がる一本道には太く白い幹がアーチ状に曲がり、天然のトンネルを造り上げている。これらの木々がどのような進化を遂げて今の形状に辿り着いたのか、全く想像がつかない。思わず「変な木」と呟いたザックスにルカが静かに答えた。

「これがバノーラホワイトの木なの」
「じゃあこの紫の実が…」
「ええ、バカリンゴよ」

『知っておいて損はない』――…皮肉な言葉だと、ルカは今になって思う。
ツォンは彼らのやりとりを無言で見つめていたが、やがて村の方へと歩み出す。案の定というべきか、ウータイでも出現したジェネシス・コピーがルカ達に襲いかかってくる。それに加えて、神羅から強奪された自立型兵器も容赦なくルカ達へ向けて弾丸を放ってきた。然程手強くはないが、ルカはうんざりしたように敵を切り伏せていく。

「どうしてこう何でもかんでも盗まれちゃうのかしらね」
「ん、言えてる」
「――盗まれるのは、情報だけではないさ」

軽口に入り込んできたのは、銃を撃ち放つツォンの一言だった。
村の入り口で対峙していたガードスパイダーが、激しい火花と爆発音を立てて崩れ落ちる。各々武器を収めつつ、ザックスとルカがツォンの方向に振り返った。

「それって、ジェネシス・コピーのことか?」
「ああ」
「神羅の科学部門から盗まれたのは、ジェネシスの能力と特徴をコピーすることができる技術だったわよね」
「その通りだ。だが誰しもが『オリジナル』であるジェネシスの能力を引き継げるわけじゃない。普通の人間に彼の細胞を埋め込んでも、圧倒的な戦闘能力を得られるわけではないんだ」
「……どういう意味?」
「オリジナルの能力を得られるのは――…ソルジャーとモンスターだけだ」

愕然とする二人に刺さる視線は憂いと憐憫に満ちている。その柔らかい同情は二人を慰めてはくれない。


「ソルジャーとモンスターは同じかよ――…」


沸き起こる感情の波を宥めながら、ザックスはぽつりと呟いた。






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