アーテル達は「目的地」の最寄りである土産物バーブストまでレガリアで向かう。
――各々観光や買い物が終わった昼過ぎ。
タルコットが意気揚々と話してくれたのは、街で聞いたという「伝説の洞窟」だった。
それは「滝の洞窟」と呼ばれ、巨大な滝の裏にあるようだが、場所が分かっていない墓所の一つではないかと推測される。
バーブストにてレガリアを注射した後、地図を頼りに川辺へと降り、ミドガルズオルムやパワーシザーが生息する一帯を慎重に進む。
岩石ばかりが連なる道なき道を辿っていくと、「カルタイン大滝」とかかれた古びた看板を発見した。

「滝の裏にあるって話だけど」
「ともかく行ってみよう」

まさしく滝の裏、滝壺のすぐそばに入り口と思しき場所に辿り着く。
中へ入ると、寒さによって凍った岩肌がライトによって青白く反射する。足元も凍っている箇所があり、進むには注意が必要だ。
プロンプトは鳥肌が立った腕をさすった。湿っぽく底冷えした空気が漂い、同時に嫌な予感も察したのだろう。
アーテルは仄暗い洞窟の奥へと視線を向け、眉を顰める。

「シガイ、」

怨嗟が混じる呟きが漏れ、彼女の瞳は金色を帯びた。
寒さによって吐き出した息が白く流れ、アーテルの目元を一瞬覆う。イグニスがアーテルへ僅かに視線を向ける頃には、いつもの青色へと戻っていた。

「こんな寒いんだし――シガイもいなかったりして」
「シガイに寒いも暑いもねえだろ」

グラディオラスは、プロンプトの縋るような願いを斬り捨てた。落胆する彼を面白がっているらしい。

「だよね…ああでも凍ってたりとか」
「冷凍保存か。で、そいつらが目覚めて――」
「襲ってくる?」

かびと腐臭が混じる澱みと共に、噂のシガイ達は現れる。以前見かけたようなゴブリンやプリン達だった。
強敵ではないが、範囲の割にシガイの数が多い。かつ物理攻撃が通りにくいプリン相手に魔法を使いたかったが、洞窟内では危険だった。ノクティスとアーテルは率先して空中へシフトし、空間を器用に利用しながら攻撃を仕掛けていく。
最後の1匹に一閃を食らわせ、2人が息を揃えて着地した足元の岩――と認識していたものは、氷の塊だった。
滑らないように剣を突き刺して着地したのが仇となったらしい。氷塊に亀裂が入り、足場が瞬時に崩れる。

「うわぁ!」
「アーテル!」

ノクティスはバランスを崩したアーテルを引き寄せようとするが、足元の氷に足を取られて踏ん張ることも出来ず、勢いのまま2人共宙に放り投げだされる。

「「えっ」」

彼らの真下は――奈落へと繋がる氷の斜面。双子達は間抜けな悲鳴と共に滑落していった。










「くしゅん!」
「へっぷち!」

5人の中でも薄着だったアーテルとプロンプトはくしゃみを連発していた。ずびずびと鼻を啜りながら、光が差す方向へと進んでいく。
――双子達が滑落した先では、案の定シガイ達が待ち受けており、洞窟内は戦闘続きだった。
氷に何度か足を取られながらも、洞窟の最奥にはやはり墓所があり、獅子王の双剣も得ることができた。
「これで何もなかったら最悪だろうな」と心の内で呟きながら、アーテルはイグニスから渡されたティッシュで鼻をかむ。

「ああ、やっと外だ〜」
「お日様の力は偉大だね、…っ!」

眩い日差しを浴び、身体中の血管が温まっていくのを感じる。
その刹那、アーテルは頭に走った痛みから反射的に目を瞑った。


『――アーテル』


青年の形をした蒼い光。
光が発する峻厳な声色。
聞き覚えなど無いはずなのに懐かしい。
何故だろう、とアーテルが疑問に思う間もなく、再び不可解な映像――リウエイホテルに到着した時にも見た光景が双子達の脳裏によぎった。
互いにまともに立っていられず、呻き声と共に背を丸める。

「お兄ちゃん…なんか変な映像が…」
「ああ、穴の中でなんか燃えてた――あれ、メテオか?」
「カーテスの大皿が見えたのか」

イグニスの問いにノクティスが小さく頷く。
確かにアーテルもカーテスの大皿の映像を見たが、彼女が指したのは青年の光のことだった。

(気のせい…だったのかな)

脈打つ痛みが収まった後、レガリアを停めた土産物バーブストまで戻ってレスタルムへと向かう。ホテルで待つ皆への報告と休息をとるためだった。
レガリアに乗り込むと、戦闘続きの疲労も相まって、ノクティスとアーテルは互いに凭れかかりながら目を瞑った。


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