※一応原作沿い長編の夢主イメージですが、ご存じなくてもご覧いただけます。





チョコボファームに程近い森の中、仄かな日の光を浴びた湖に口づける者がいる。それは仔馬によく似た容姿であったけれどその体は白磁のように透き通り、銀色に輝くたてがみが柔らかな風に靡いていた。額には肌と同じ色の角、瞳はペールグリーンに輝いており、愛しい人を彷彿させる。
思わず一歩近づくと草の擦れる音が辺りに響いてしまった。弾かれるようにして顔を上げたそれは、不注意で音を立ててしまった自分をじっと見つめる。
──…噂には聞いていたけれど、なんて美しい生き物なのだろう。
所謂「一角獣」と呼ばれるそれは人に懐くことなど無く、滅多に姿も見せないという。見せたとしても襲いかかってくるか逃げてしまうかのどちらか。しかしそれは自分から視線をそらすことなくただ見つめているだけで、威嚇してくることもなく殺気もない。
視線を絡ませ合いながら、もう一歩踏み出してみる。
すると今度は一角獣の方から近づいてきた。戸惑っているうちに彼は距離を縮め、ついには自分の手の届く範囲にまで来てしまったのだ。

「触っても、いいの?」

そう問うと彼は甘えた素振りで顔を傾ける。手を差し伸べてその肌に触れれば一層すりよってきた。一見冷えているようで、けれど温かい体温はやはりあの人とどこか似ている。
溢れる愛しさ故に、堅い角にそっと唇を押しあててみれば彼は嬉しそうに目を細めた。やがてどちらとなく地面に座り込み、自分の膝に頭を預ける彼のたてがみを優しく撫でる。
不意に一角獣が視線を上げ、森の奥にいるであろう何かに警戒するような素振りを見せた。モンスターだろうか――緊張が走った刹那奥から姿を現したのは紛れもない人間だった。

「ジェネシス、」

驚いたように自分達を見つめる彼が近づくと、一角獣は立ち上がって威嚇しはじめる。まだまだ子どもとはいえ元来気の荒い生き物だ、きっとジェネシスに襲いかかってしまう。彼が負けることはないだろうが、一角獣が傷つくのは見たくなかった。

「やめて、お願い」

引きとめた自分を見やり、一角獣は少し落ち着きをみせた瞳を自分に向ける。諌めるように肌を撫で、光る双眸から目を逸らすことなく黙って訴えているうちに彼は手から離れてしまった。やがてたてがみを揺らして何処かへ駆けて行ってしまう。

「お前は触れるんだな」

夢うつつの感覚はゆっくりと体の中から消えていき、現実の世界へと引き戻されていく。草を払って立ち上がり、森を後にすることにした。

「ジェネシスは威嚇されてたわね…男の人は触れないの?」
「さぁ、どうかな」

小さく笑った彼に首を傾げると、肩に手を置かれてまるで内緒話のように耳元で囁かれる。


「一角獣は処女にしか触れない生き物だ」


ほとんど反射的に振り返れば、彼は見たことのないような色香を放っており、自分の知らぬ世界を知る目をしていた。真っ赤になった自分を見下ろしてくすくす笑うので、思わず腕を叩く。
…いつか、触れられなく日が来るのだろうか。あの美しい生き物に威嚇されてしまうのかと思うと少し残念だ。

「せっかく懐いてくれたのに」
「お前はもっと貴重な生き物を飼っているだろう」

その生き物はあまりにも気高く、そして一生自分にしか懐かないのだろう。その身を預けてくれる、幻のように美しいひとは白銀の獣なのだ。
──…あぁ、確かにあたしは一角獣を飼っている。





乙女と幻獣
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前サイトにて掲載していた話です。引っ張り出してみました。
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