平行を描くメビウス



※シンアヤ前提なので夢主さんが報われません。




「しんたろ、」

いつもの調子で声を掛けようとした私は、思わずそこで足を止めてしまった。
メカクシ団のアジト内、カノお気に入りのソファに寝転ぶシンタローは姿だけなら普段と同じふてぶてしさ。
なのに、携帯の画面を見ながら何をするでもなく動作を止めるシンタローは、なんだかこう、

近づく事もできないような深い悲しみを纏っているようだった。

「あ、悪いナマエ……。なに?」
「う、うん。さっきモモちゃんから、間違えてシンタローの家鍵持ったまま出掛けちゃったからここに迎えに来るまで待ってて、ってメール来たよ」
「あぁ…解った」

多分、笑ってくれようとしたんだと思う。でもそれはただ口の端を微かに歪めただけのぎこちない表情に変わっただけだった。

シンタローに返した私の笑顔もきっと…似たような微弱過ぎる筋肉運動をしたに過ぎないんだろうな、そう思いつつモモちゃんに伝達した旨をメールする。
それから改めてシンタローを見てみると、やっぱりソファに寝転がって、今度は携帯を脇に置いたまま目を閉じていた。

「………」

あ、なんか解っちゃったかも。シンタローの表情の理由。

昔話してくれた事がある。親友の女の子が、自殺してしまったと。理由は今でも解らなくて、彼女のいない現実を信じきれない自分がいると。

その子の事、思い出してるのかもしれない。

「………ナマエ?」
「…シンタロー」

だったら、私にできる事なんて何もない。当時のシンタローにも、ましてその女の子にも何の関わりを持たない私になんて、かける言葉すらない。

でも。

「…また考えがループしたの?」
「……ああ、ごめん…気づいてたのか。……情けないって解ってるけど、俺にはどうも…」
「現実が一番現実離れしてる気がする…まだ?」

それはシンタローが、アヤノさんの話をしてくれた時に言ってた言葉。
なんとも不思議な響きだ。だって現実は現実でしょ。今そこにある事は間違いなく現実なのに、それがそれから離れてるってどういう意味?

でもそんな事訊けなくて、あの日の私はただ解ったフリをして頭を抱えるシンタローに寄り添ってみたりして、多分今もそれは変わらなくて、だってそれは全部

シンタローの事が好きだからなのであって。

「―――覚えてたのか」
「なんか深かったから」
「…ほんと、俺の問題なのにお前まで引き入れてごめん」

いいよ。だって私、シンタローの事好きだから。

「いいよ。だって私、シンタローの相談役だから」

本音は深く胸にしまって、冗談めかした笑顔を今度は巧く作ってみせる。今だけなら私、カノにも負けないかも。

「ふ…どこの組織だよ。………なんか都合良い時だけ利用してるみたいで、あんまり後味良くないんだけど」
「大丈夫。私は別に利用されてるつもりないし」

それに、利用されるだけでも良いんだ。その役に抜擢されただけでも喜ばしい事じゃん。最初は解ったフリをするな…って利用すらされない立場だったのに、今じゃ傷口を開いてみせてくれる程に信頼してもらえてる。

全部、歪んだ誠意のお陰。

「……ありがとな」

私はどうしたって、相談役から昇進はできない。友人の立場を超える事はできない。
アヤノさんが、シンタローの心を今でも独り占めしてるから。

ずるいよ、って顔も知らない女の子に向けて黙ったまま呟いてみる。それと、ちょっとだけ目の前で照れ隠しのような微笑みを浮かべてるシンタローにも。

だって、私は今ここにこうしているのに。私は離れてない現実にいるのに。
どう頑張ったって、記憶の中だけの離れた現実にいるらしい子に勝てないなんて悔しいよ。
ここにいないくせにシンタローを独り占めできるなんて、ずるいよ。

シンタローだって、本当は私の事友人だとも思ってないくせに。
空虚な毎日の中の風景の一部としか思ってないくせに、たまにそんな生きた顔を見せてくるんだから、ずるいよ。

でも私は何も言わない。
アヤノさんにはなれなくても、シンタローがふと顔を上げた時には一番に私の事を見て欲しいから。
そんな機会がない事はとっくに解ってても、自分がアヤノさんより大きな存在になれるような瞬間を、どこかで狙ってるから。

「ね、シンタロー」
「ん?」
「アヤノさんの事、忘れないであげてね」

もしかしたら私自身がシンタローを終わらないループの中に陥れてるのだとしても、
この行く場所を失った恋情を保つ為に、私はそんな言葉ばかり掛け続ける。

――――あぁ、一番ずるいのは、私なのかもしれないね。




(でも、きっとあなたは騙されてくれる?)









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