世界創造計画



※狂気入りのヤンデレ
※命を失う人約1名
※血に濡れてます





雨が降っていた。
学校から帰る間にびしょぬれになりそうだと考えると、少しだけ憂鬱になる。

傘を持たなかった朝の自分を呪いながら下駄箱へ向かう途中、名前も覚えていないようなクラスの男子に呼び止められた。

「名前、傘持ってないのか?」

馴れ馴れしく呼ばれた下の名前。
僅かな嫌悪は胸に隠し、小さく頷いて去ろうとする。
しかしまたもそれは阻まれた。

「良かったら俺の貸すよ。2本あるし」
「……ありがとう。でも良いから」

仕方なく口を開いて断り、彼の横をすり抜ける。
するとその時、視界の先でフードを被った少年の姿が見えた。もう彼の事なんて頭からすっ飛んで、私の世界はあのフードの下の猫一色に染まる。

ほらね、傘なんていらないでしょ。
彼を見ただけで一気に私の心は晴れやかになったんだもの。

思わず駆け足になりながら雨の中を彼の元へ。
校門で立っていた彼は私に気づくと、いつも通りの底の見えない笑顔を見せてくれた。

「カノ、迎えに来てくれたの?」
「うん。今朝ナマエ、傘持ってってなかったから」

そう言って朝に掴まなかった桜色の傘を差し出してくる。
カノと一緒に帰れるなんてとむしろ雨天に感謝しながら、私はそれを受け取った。

「――――ところでナマエ、あいつ誰?」

傘を受け取る時に出した手首をそのまま掴まれ、カノの方へぐいと引き寄せられる。
鋭い猫の目と低い声が私を射殺した。
僅かに視線をずらすと、その先にはこちらを見つめるさっきの男子。

「……名前も忘れるくらいどうでも良い人」
「じゃあなんでさっき喋ってたの?」
「早くカノの所に行きたかったから」

淀みない答えに嘘はない。
カノもそれは解ったようで、不満げな顔を残したまま私を解放した。

「僕がいるのになんで他の男がナマエの周りに存在してるんだろう」

酷く純粋な疑問。
それがある種の狂った考えだというのは重々承知していた。
でも、私はそれに恐れを抱く事はない。―――それどころか、どこかに喜びの感情が生まれてすらいる。

「……ほんと、この世界が私とカノだけの世界だったら良かったのに」

小さく呟くと、隣でカノが同意するような気配が見えた。

「みんな死ねば良いのにね」

そうしたら私だけを愛してくれるし、私もカノだけを愛せる。
別に信用していない訳じゃないけど、誰もいなくなっちゃえばこの愛はもっと深まるような気がしてた。
あぁ、私も大概…狂ってる。





その夜、眠っていた私の部屋の窓に何かがぶつかる音がした。
明らかに風ではない、そんな人為的な音に目は覚め、不審に思いながらカーテンの外を見てみる。

そこにいたのは―――
「…カノ?」
カノが、笑って立っていた。

急いでロックを外し中に入れてやる。
こんな時間になんだろうと思いながら電気をつけてみると、なんとカノの体は赤い液体にまみれていて。

どことなく嫌な臭いがするのも、その赤が原因のようだった。

「カノ、それ」

流石に恐怖を孕んだ脳が声を震わせる。両手にべったりついた赤いものを指差すと、カノはなんて事ないかのように笑ってみせた。

「これ? 血だよ」

…予想はしていたけど。

「今日、ナマエと喋ってた奴の」
「……殺したの?」
「解んない」

カノの表情は酷く無邪気だ。
――だからこそ簡単に狂気が支配したのかもしれない、なんて呑気に思う。最初のショックさえ超えれば案外すぐに慣れるものだ。

「今日の帰り、ナマエは世界の構成が僕らだけなら良かったって言ったでしょ? 凄く良い案だと思って実行する事にしたんだけど、どこから消せば良いのか解んないから、とりあえずナマエに関わる人間から始めてみたんだ」

頬を紅潮させながら言うカノに、それが犯罪だという意識はない。

だってそれは全部、私達の為だから。

「お手洗い借りて良い? 汚い血をつけたままナマエの隣にいたくなくてね」

それを聞いた私は部屋の扉を開け、カノを洗面所まで連れて行ってやった。

「…かわいそうに」

私達の為に殺されてしまった名前も解らない男の子。あの時私に話し掛けさえしなければ、あと1日くらいは生きられたかもしれないのにね。

「……同情するの?」

かわいそうの呟きがその男子に向けてだと敏感に悟ったカノは、洗って綺麗になった手を拭きつつそう尋ねてきた。

「同情はしないよ」
「そうだよね。今すっごい乾いてたし」

そう言う彼の顔はひどく満足そう。

私の口からは思わず溜息が漏れてしまうが、それは決して呆れたからなどではなかった。
だってこれはカノのやった事だ。カノの行動は全て正しいんだから、これだってきっと、私の正義。

だからただただ愛おしいと、そう思う。

あんな呟きだけでこんな思い切った事をしでかすカノ。

私の為なら人の命を奪うのも厭わないなんて。
ただこの小さな目に自分だけを映し、小さな手に自分だけが触れ、耳は自分の声だけを、口は自分の名前だけを、
この体全てを自分で満たす為の、行動。

カノが世界から他人を排除する事でそれを叶えるなら、私はそんなカノの姿を見て愛を実感する。
…なんだ、素晴らしい需供関係ではないか。

「待っててね、すぐに完成させるから。僕らだけの世界を」

そんな私の考えを知ってか知らずか、血を落とし、まるでそれがなかったかのように…最初からあの男子なんて存在していなかったとでも言うように、カノは笑って私を抱きしめた。
ひんやりした手を背中に感じながら、私はゆっくりと抱きしめ返す。精一杯の愛を込めて。

そんな世界ができたなら、本当にカノだけを愛せるね。どんどん底なし沼のように、愛を深めていけるんだね。

「2人きりになれたらまず何しよっか? 毎日ナマエの顔だけ見て、ナマエの声だけ聞いて生きていくんだよね。楽しみだな」
「…カノ、大好き」

狂ってるけど、
歪んでるけど、

…気分がいいからなんでも良いや。


「……僕も大好き、ナマエ」




(登場人物は僕と君だけ。なんて美しいんだろうね、そんな世界は)









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