Game Start.



放課後、特に行き先も決めずに廊下をフラフラ歩いていると、階段裏の人目につきにくいところから鼻を啜る音が聞こえてきた。
誰かが泣いているのだろうか。珍しいこともあったものだと思いつつ、素通りしようとあえて物音を避けるように階段の反対側へ回り込んだところで、バキッという何かが折れる音と共に、膨大な魔力の爆発する気配が感じ取れた。

それはほんの一瞬のことだった。それにも関わらず俺が足を止めてしまったのは、放出された一瞬の魔力量が、この学園の弱者には到底発揮できないほどの勢いを持っていたから。というより、並の魔術士であれば魔力放出に伴う体への負荷を恐れて躊躇するような放出の仕方だったから。

こんな魔力の使い方をするのは、余程高度な魔術使いか、あるいは魔力行使への代償を考えない余程の馬鹿だ。
些細な好奇心につられて階段裏を覗き込むと、暗闇に蹲るようにして身を潜めていたオンボロ寮の監督生の姿が目に入る。

「…何してんだ、お前」

そいつは本来、この世界にいるには少しばかり異質な存在だった。
前提として、魔力を有していない。筋肉もなければ、頭脳の素となる知識も備わっていない。普通ならあっという間に淘汰されて然るべきであるこいつは、なぜか数ヶ月経っても平然とした顔で毎日校舎内を堂々と闊歩していた。
当然、周りの奴らにはそれを良く思わない連中もいる。遠目に見ていた限りでも陰口を叩かれたり、言いがかりをつけられて絡まれたりしているところは何度も目にしてきた。
それでも顔を上げ、この実力主義の社会で生き残ってきたその胆力には素直に感心させられた、と言う外ないだろう。取り立てて目をかける義理もなかったのでわざわざ関わりに行こうと思った試しこそなかったものの、だからといって俺の手で排除しようと思ったことがないこともまた事実だった。そこまでするほどの脅威ではないと感じていたのもそうなのだが、単純な話、たとえ弱かろうとも自分の力で力強く生きる術を模索する生き物は嫌いじゃなかったからだ。

そういう思考が根底にあったせいか、その時の異常な魔力暴発の源がコイツだったと知った時、俺は呆れるより先に好奇心を覚えた。何をしているのか問うと、そいつはのっそりと顔を上げ、驚いた様子も見せずに淡々と答える。

「復讐の準備です」

守られるだけが能とでも言わんばかりの細い体に宿っていたのは、静かな怒りだった。似つかわしくない「復讐」という言葉に、本能のまま耳がぴくりと揺れる。

「復讐…?」

一体何をするつもりなのかと視線を手元に遣ると、それに気づいた彼女はけろりとした顔で涼しい雰囲気のままそっと両手を広げてみせた。
そこにあったのは、一片の石。微かではあるが、確かにそこには魔力行使の痕跡が残っていた。

「今の魔力の暴発はお前か?」
「そうです。この魔法石に"後付け魔力"を衝突させるとちょっとした爆弾になると聞いたので」

"後付け魔力"と呼ばれるそれは、元は魔力素養のない者でも簡単な魔法が扱えるようにと開発された、魔法士固有の魔力源を必要としないその名の通り魔力が後付けされた魔道具だ。NRCに入ってくる生徒にはまずいないが、幼い子供や魔法の使い方をろくに知らずに育った貧民層の中には一定数、自身の魔力を巧く扱えない者が存在する。後付け魔力はいわば、そういった弱者が自衛や生活の利便性を向上させるために使う都合の良い使い捨て道具といったところだ。

ただ、当然のことながら、自らの責任が伴わない後付け魔力の持つ力など微々たるものだ。それに賢者の島のような無法地帯は例外だが、多くの地域では他者を害するような使い方をすれば法律で厳しく罰せられるようにもなっている。それを思うと、復讐のためと称してこいつがこの道具を持っている状況はどう見ても不審と言わざるを得なかった。

「…お前、それの使い方をどこで覚えた」

まずもって教師陣がこいつにそれを与えた線はないだろう。制約が多い上に、日常生活の中でわざわざこんな微弱な魔力に頼る場面は訪れない。
かといって、他の生徒が悪戯目的で渡すとも思えない。あいつらはこの草食動物が"魔法を使えない弱者"であることに喜んで付け込んでいる。後付けとはいえ、こいつが魔力を行使する事態を面白く思うはずがない。

「図書館の古い蔵書にありました。後付け魔力自体はこの間エース達と買い出しに行った時ちょこっと離脱して露店で買ったんです。すごいですよね、ガラクタ同然の子供の玩具でも、既定の薬剤と魔法石と融合させればちょっとした核みたいなものになるんですから」
「ま、その結果手元で爆発させる事故を起こしてちゃわけねえな。それで失敗してベソかいてたのか?」
「まさかあ。爆発の影響で出た粉塵を吸い込んでくしゃみしただけです」

そう言う彼女の目尻には、涙の一つも浮かんでいなかった。けろりとした顔で笑いながら、おそらくまだぐずっているのであろう鼻をもう一度品もなく啜る。

「そもそも最初から成功するなんて思ってませんよ。まずは人気のないところで実験してみて、使い物になるようになったらあの人達の通り道に満を持して仕掛けるのみですから」

両手をぐっと力強く握り締めて、キラキラと目を輝かせながら仄暗い計画を口にする彼女。その手には先程の爆発によるものであろう火傷の痕がついていたが、痛みも熱さも感じていないようだった。

「…怪我までしてわざわざ復讐の計画を立てるとは、健気じゃねえか」
「まあ確かに放置しても良いんですけど、それじゃ"オンボロ寮の監督生は虐め放題"って嫌なレッテル貼られるだけですからね」
「弱者らしく、やっかまれないように大人しくしてるって選択肢はねえのか」

侮蔑的な口調を隠そうともせずにそう言うと、初めて彼女は不満げな表情を覗かせた。

「私にだって、学生生活を楽しむ権利くらいはあります。まずもってこの学校に通ってることこそが不本意なんですから、そこでどう過ごすかくらいは自由に決めるんです」
「それで虐げられてたらそれこそ本末転倒だろ…」
「今はしょうがないです。私の前に敷かれたデコボコの道を整備してるところなので」

まるでそれは、自らあえて周囲の悪意を受け止めに行っているような発言だった。清々しささえ覚えるその口調に、弱者に対する苛立ちも愚者に対する軽蔑感も、いつしかすっかり消えていた。

「真っ向から勝負して勝てるわけなんてないので、その場では一旦気が済むまで好きにやらせておいて、後から報復するんですよ。めちゃめちゃ卑怯な手使って嫌な思いさせて、いずれ"オンボロ寮の監督生に手を出すと後が面倒くさい"って思ってもらえるように仕向けます」

まさかその意識が浸透すれば、彼女の言う"楽しい学生生活"を享受できるとでも思っているのだろうか。卒業する前に道が整備される確証などないと言うのに────それでも、茨の道を突き進み続けるつもりなのだろうか。

「んなもん、クルーウェルかクロウリー辺りに泣きつけば加護魔法なり相手への罰則なり、それなりの対策を施してもらえんだろ」
「まあ…流石にゼロ魔力はリスクが高すぎるので、最低限の安全だけは確保できるようにお願いしてますけど…。元々、なんでもかんでも誰かを頼るのは好きじゃないんです。それって結局強者の威を借りてふんぞり返る噛ませのテンプレみたいに思えちゃって」
「一人前にそれらしいこと言うじゃねえか」
「生意気なのは承知ですよ。でも、事実でもあるじゃないですか。私が使えるのは自分の力で得た"人脈"だけ。先輩方の力は私の努力で得たものじゃないので、できるだけそれには頼らないようにしてるんです」

数ヶ月前、タコ野郎の企みを暴くために俺のことを散々利用した奴がどの口で言うか。そう思いつつ答えを渋っていると、彼女は俺の表情から言いたいことを察したようだった。

「誰かのために一念発起するなら手段は選びませんけど、自分の生活を守るためにいちいち人の手を借りなきゃやってられないようなやり方は取りたくないってことです」

そう言う彼女の目は、確かに狩られるだけの弱者とは一線を画す強さを持っていた。
今までこうして彼女の思想を立ち止まって聞いたことなどなかったからか、すぐに去るつもりでいた足が完全にその場に根を張っている感覚に陥る。

面白い、と素直に思った。
自分の弱さを弁えていながら、誰かに依存する気はない。かといってそのまま潰えるつもりもさらさらなく、生き残る術をしぶとく模索している。
狡猾で、図太い────生憎と、そういう奴は嫌いじゃなかった。確かに他者を黙らせるだけの実力はないかもしれないが、それを補うだけの頭の回し方を心得ている。

なるほど、こいつはこいつなりに、自分の居場所を確立させようとしているのか。

「────…」

そう思ったら、少しだけ興が乗った。俺は言葉を発さないまま軽く右手を挙げ、彼女の怪我を負った両腕の上にかざした。
一瞬、白い光が辺りを包み込む。それが消えた時、彼女の薄い皮膚を焦がしていた痕は綺麗に失せていた。

「…なんですか、私に貸しを作ってもろくなもの返せませんよ」
「お前みたいな素寒貧から何か巻き上げようなんて思ってねえよ。威勢の良い草食動物に百獣の王からの餞別だ」

彼女はまだ怪訝そうに、完治した両腕を眺めていた。施しを受けても素直に受け取らないその猜疑心に、いよいよ自分の中の捻くれた評価基準が満たされていくのを感じる。

「────それで、その爆薬が完成したら誰に仕掛けるつもりだったんだよ」
「言いたくないです」
「サバナクローの奴か?」
「…って言ったらどうするんですか?」
「どうもしねえよ。寮生の小競り合いだろ、俺には関係ねえ」

この魔力を持たない小娘にしてやられる程度の雑魚なのであれば、俺がそいつを擁護する義理だってない。むしろそんなどんでん返しを演出してくれると言うのなら、むしろこいつの肩を持ちたいくらいだと思った。

「引っかかった奴はどうなる?」
「ご覧の通り…って言ってももう治療していただいちゃいましたけど、しばらくはペンも持てないくらいの火傷を負います」
「ふうん、魔法が使えないことを虐待の理由にするならお前からも魔力行使の術を取り上げるぞってか」
「まあ、そんなところですね。単純に手が使えないってなったらめちゃくちゃ不便になるじゃないですか。別に命に関わるほどの大怪我をさせたいわけじゃないんですよ、むしろ他の部分は元気なのに生活に支障をきたしまくる程度の面倒くささを味わってもらえれば、見事私の欲しい"面倒くさい奴"認定も早めにもらえるかなと」
「足りない頭でよくもまあそこまで考えたな」
「私の初期評価いくらなんでも低すぎません?」

物怖じしない奴だということは、最初の頃からわかっていた。それでも、実力差や身分差を鑑みずにまるで対等の立場であるかのように振舞うその言動が、自分でも単純だと思いつつも新鮮に感じられてしまう。

こんなに愉快な奴がいるんなら、もう少し早めに観察しておけば良かった。
おそらくNRC内で最弱のこの異世界人がどう世界をひっくり返すのか────その行く末を、見てみたい。どんな時代のどんな世であっても、最も面白いショーとは"下剋上物語"と相場が決まっているのだから。

────今にして思えば俺は、その時微かにでも彼女の背に自分を重ねていた節があったのだろうか、と思う。
自分の意思や努力ではどうしたって覆せない不条理を、それでも踏み越えていく。そんな痛快な逆転劇を、最後まで見ていたい。普通なら絶望して逃げ出すか怯え隠れながら生きていくであろう場面で、自分の弱点すら武器に変えて戦う者の覇道を、見届けてみたい。

「────"他人に頼って力を借りる"んじゃなくて、"他人が勝手に力を貸してくる"んなら、お前の矜持は守られるのか?」
「は?」
「後付け魔力、俺も提供してやるよ。俺の魔法が基になれば、お前に絡んできた相手を直接砂にすることはできなくとも…そうだな、持ち物や服くらいなら砂塵に帰せるだろうな」

半ば冗談のつもりで言ったことだったが、彼女はあからさまに嫌そうな顔をして眉を顰めた。

「治らないほどの実害を出したら少なからず私の責任問題が発生するじゃないですか。あくまで"報復"の範囲内で穏便に収めたいんです」
「随分と優しいことを言うなあ、お前の受けた心の傷を思えばそのくらいしてやったって罰は当たらねえだろ?」
「心の傷は心の傷で返しますよ。もし力を貸してくださるって言うんなら純粋に"私が助けを呼んだ時に一瞬で来てくれる"くらいの感じでお願いします」
「思いっきり人頼みの策じゃねえか。それに面倒臭いことはパスだ」
「あっはは、てことなのでこの話はナシですね」

最初から俺の手を借りる気なんてなかったと言わんばかりに、晴れやかな顔で彼女は踵を返した。彼女の実験を咎めるつもりが俺にないことは理解しているだろうが、それでも人目を憚らずにやるようなことじゃないとでも思っているのだろう。

────ところが、お生憎様だ。
こちとらNRCに入学して5年目、初めてこの退屈な箱庭の中でそれを打破する"面白いモノ"を見つけたところなのだ。

そうそう簡単に、逃がしてやるなんて思うなよ。

「おい────」

短く声をかけ、彼女の細い肩を指先で捕まえようとしたその瞬間────。

バチッ……!

触れた、と思ったその皮膚の境界線から、鈍い痛みを伴う電流が流れ出した。反射で跳ね返った自分の指先を見ると、目に見える怪我こそ負っていなかったものの、気軽な気持ちで再度触れるには確実に躊躇されるような痺れがそこに残っている。

「────お前、何をした?」

言わずもがな、俺は何もしていない。それにも関わらず、彼女に触れようとしたその瞬間、まるで電気ショックを与えられたかのような衝撃が走った。
ということは、今の現象は彼女によってもたらされたものだ。今更ここに来て彼女が防衛魔法を使ったとは言わせない。何より、この流れで彼女が俺に攻撃的な手段を用いる理由がない。

柄にもなく狼狽えながら問うと、相変わらず涼しい顔で笑う彼女がそっと自分の肩に手を乗せた。

「言ったじゃないですか、最低限の安全だけは確保できるようにお願いしてます…って」
「は?」
「ここに通うことが決まった時点で、クルーウェル先生にお願いしていたんです。私のような魔力を持たない者がカモにされる未来なんて簡単に想像がついたので、"許可のない者は何人たりとも私に触れられないようにしてください"って」

少し面倒くさそうな顔をしつつ、教え子のために加護魔法を施すクルーウェルの顔が容易に想像できた。確かにそのくらいのハンデなら、こいつが抱えているディスアドバンテージを思えば当然与えられて然るべきなのだろう。何よりもまず、そのことについて誰よりも先に自分で思い至り、自ら対策を申し出ていたという事実に悔しいことながら俺はまた白旗を挙げざるを得ないようだった。

「都度都度誰かに助けを求めるのは何度も言う通り私のポリシーに反しますけど、持っている武器が圧倒的に弱い…というよりもはや大砲を持ってる皆さんの前に丸腰で躍り出るような素の状態を考えれば、そこにちょっとしたコーティングをかけるくらい、初期装備として許されるどころか対等に戦う上では必須だと思いまして」
「────ちょっと待て、それよりお前今、"許可のない者は"って言ったか」
「あ、流石耳聡い。私に絶対危害を加えないって判断したら、"許可"を与えることにしてるんです。だってエースやデュースやグリムが挨拶代わりに肩を叩いてくれた時にまで電流を流すのは私だって本意じゃないので」

肩をすくめながら言う彼女の表情がやけに挑戦的に見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。

「……なるほどな」

つまり、俺は彼女に許可を与えられていない者────"未だ彼女に危害を加える可能性がある者"だと思われている、ということだ。
まあこれまでの関わり方を思えばそれは当然なのだろう。俺だって別に、理由もなく気を許されるような振舞いをしてきたなんて思っていない。実際つい先程までは彼女のことを脅威でこそないにせよ、友好的に接することのできる相手だなんて微塵も思ったことがなかったのだから。

今だって、別に"友好的に接することのできる相手"とは思っていない。

ただ────"先程まで"と"今"の間で、彼女に対する印象がガラリと差し替えられたのもまた、事実だ。

「レオナさん程の方であれば、警戒するくらいでちょうど良い…って仰ってもらえると思うんですけど」
「ああ、全くその通りだよ。俺みたいなのに簡単に触れさせてるようじゃ、そんな加護魔法は無いと同じだ」

拒絶されたことに対する不快感は、驚くほどになかった。
この女の生き様を認め、この女の行く末を見届けようと思った直後なのだから、もう少し落胆したって良い場面だったのかもしれないが────。

捻くれた心は、そんな現実に対して仄暗い高揚感を覚えるのみだったのだ。

面白い。
"その他大勢"と同じように俺を見ているこいつの目を、溶けるほどに揺らしてみたい。顔を緩ませ、気を許させ、そうして触れることが叶った瞬間に────。

────────この牙でその柔肌を噛み切って、一呑みで食っちまいてえ。

生まれたのは、この上ない嗜虐心。それも一種の執着だと言うのならば、確かにこの瞬間、俺はこの何よりも弱い女に憑りつかれてしまったのだろう。

「…特にこれ以上用がないのであれば、そろそろお暇して良いですか? 今日中にこの爆弾完成させたいので」
「ちょうど良い、お前、これから俺の部屋に来い」
「────はあ?」
「爆弾だろうが呪いだろうが、なんでも気の済むまで錬成しろよ。防音、防火、防魔、セキュリティと安全性ならそこらの空き教室や廊下でやるよりずっと確保されてるぜ」
「…それで、レオナさんには何のメリットが?」
「誰もが見下す哀れで無力な子羊が愚鈍な狩人どもを蹴散らす様を見るのは痛快だろ」

真っ新な嘘というわけでもないが、本当にそれだけの理由であったならわざわざ自らの領域に彼女を踏み入らせようとはまず思わなかっただろう。彼女もそれは敏感に悟ったのか、しばらく怪訝そうな目で俺を見ていた。

さあ、お前は何と答える? それでもなお俺の申し出を固辞するか? それとも────。

「まあ、そういうことならありがたくお借りしますね。それで? ついでにレオナさんを煩わせてる面倒な下級生…まあ私にとっては上級生もいるかもしれないですけど、そういう人達も陥れれば良いんですか?」

────ああ、そうだよ。そういう答えを待っていたんだよ。
自然と口角が上がり、隠していた牙が覗く。

「お前なんかに頼らざるを得ないほど煩わされてねえよ。言っただろ、俺は脳味噌も筋力もない弱者がどこまで生き永らえるかに興味があるだけだ。せいぜい背後から刺されないように気をつけるんだな」
「とか言って、知ってますよ。私がレオナさんに攻撃しようとしない限り…っていうかきっと攻撃しようとしたところで、レオナさんの身に危険なんて及ばないですし、そうである以上レオナさんがわざわざ私なんかのために手を上げる場面なんて来ませんって」
「随分と信頼されてるじゃねえか、一人前に電気は流すくせに」
「レオナさんから加害意思を感じないのは、あくまで私が弱者だからでしょう。身を預けられるほどの信頼感があるとでも思ってるんですか?」
「おーおー、これまた嫌われたもんだな、悲しいこった」
「楽しそうに笑いながらよく言いますね」

鏡の間を抜けて、サバナクローの乾燥した廊下を進み、俺の部屋まで並んで歩く彼女の横顔をそっと見下ろす。
争いも飢えも絶望も知らないような平和ボケしたその顔に潜む明確な殺意を、一体ここにいるどれだけの者が正しく見抜いているのだろう。

真に賢い者とは、決して自らの武器を晒すことなく、陰に隠れて獲物を捕らえられる好機が訪れるまで虎視眈々とその気配を消し続ける。
だからこそ、こいつの刃が夜闇に煌めくその瞬間を見るのが楽しみでならなかった。

いつになったって構わない。いつか必ず、その獣性が剥き出しになると言うのなら────。

────俺がその瞬間を狙って、狩る側に回ったお前のことをその瞬間に狩ってやる。










「やい子分!!!! いつまで経っても戻って来ないから随分探し回ったんだゾ!!!! なんでサバナクローなんかにいるんだ!!! 帰るんだゾーーー!!!!」
「うるせえ毛玉だな…おい、もうこいつも連れて来て良いからお前、明日からここに寝泊まりしろよ」
「え、それは普通に嫌です」





「おい草食動物、授業なんて受けてんじゃねえよ、こっち来い」
「ほんと無茶言わないでレオナさん」
「え、待って監督生…最近あの人になんか狙われまくってね?」
「やっぱエースもそう思う? そろそろ遺書書いた方が良いかな」
「安心しろ監督生、骨は拾ってやる」
「デュースはもう少し粘ってほしい」






ってな感じで始まるレオ監でした(気分は長編の導入)。
ツイステ長編は書く予定ないので本当に気分だけですね。

最後の2フレーズは後日談のちょっとした会話です。どちらも別の日です。
今回は「監督生にやたら構うレオナ様」を書きたいっていう思いから書き始めました。でも何の理由もなく興味を持たれるのもそれはそれで面白くなかったので、ちょっと監督生に悪属性を付与してレオナ様の琴線に一生懸命触れに行ってもらっています。
この…このくらいのエピソードがあれば…「おもしれー女」路線も…成り立つかなと…思ったのですが…まだ甘いでしょうか…。

この後は言わずもがな、もうめちゃくちゃなほど監督生を傍に置きたがるレオナ様の日常が始まります。長編は書きませんが、あまりにも導入感が強すぎるのでもしご好評いただけるようであれば続編くらいは付け足すかもしれないです。本来のコンセプトは"とにかく一緒に居すぎて距離感バグッたレオ監"なので。









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