へのへのもへじ



正直言って、第一印象はあまり良くなかった。
きっかけは、いつも通りグリムとエースが喧嘩をしたせいで本気の追いかけっこが始まり、3年生が授業を受けている教室棟にまで乱入してしまったこと。
怖い先輩に目をつけられたらどうしようと怯えつつ、グリムの監督役として放っておくわけにもいかなかった私は、物陰から物陰へと素早く移動しながらこっそりと後をつけていた。

そんな折。

「貴様ら! 3年生の教室の前で何をしている!」

────ほら〜、だから追いかけっこはやめようよって言ったのに。
どの先輩がお説教してるんだろう。知ってる人だったら、なんとか許してもらえるかなあ。

そう思いながら、どこかで聞いた覚えのあるようなその声の持ち主をそうっと覗くと────。

「若様のご学業に支障が出たらどうするつもりだ!」

あ…あれ…? あの人、うちの学年の人じゃない?

そう、そこにいたのは────あまり交流こそなかったものの、よく合同授業で一緒になっていた────"1年生"の、セベク君だった。

え、なんでセベク君がここにいるの? そしてなぜ彼は我が物顔で3年生の教室棟にいるの…?
更に言えば、どうして彼は「廊下で静かにしろ」とまともなことを言ってるはずなだけなのに、この場の誰よりも騒がしいんだろう…。

「はあ? うわ、お前セベクじゃん! なんでお前がこんなとこまでいんだよ、てかお前が一番ウルセーわ!」

絶賛喧嘩中のせいで、エースの声もなかなか荒かった。しかしセベク君は「よくぞ聞いてくれた」とばかりに、誇らしげに胸を逸らしてみせたのだ。あ…あれ…今さっき怒ってたばっかりだったよね…? 感情の忙しい人だな…。

「僕は今、若様の警護をしているところだ! もうそろそろ教室から出てこられる頃だろうから、このフレーバーティーで少しでもお疲れを癒していただき、この後のスケジュールをお伝えし、そしてまた若様が行かれるところにお供してお守りするつもりなのだ!」
「…いや、この後のスケジュールって普通に授業じゃん。そしてお前も同じ時間帯に授業じゃん」

エースのツッコミはあまりにも的確だった。…きっと彼も、あまりのセベク君の"若様愛"にすっかり毒気を抜かれてしまったのだろう。

「とにかく人間、お前達はさっさと1年の教室棟に帰れ。ここはお前達のような野蛮な人間の来るところじゃない」

────セベク君が言う「人間」には、はっきりと侮蔑の気持ちが込められていた。事情はよくわからないけど、せっかく同じ学校の生徒だというのに、こんな風に見下される様を見ているのはあまり気分が良くない。
若様の護衛とやらがどれだけ誉れ高い任務なのかは知らないけど────私はその時、「彼ってなんだか嫌味で高慢ちきな人だな」なんて思ってしまった。

「それから、そこに隠れている人間、お前もだ。一体さっきからコソコソと…何を嗅ぎ回っている?」

物言いはともかく、確かに私達1年生がここに長居しているのは良くない。見つかる前に早々に退散しようと思っていたのに────彼は、遠く離れて隠れているはずの私にまで、その攻撃的な声を向けてきた。

「…グリム…そこの小さな子を追いかけてきただけだよ」

観念して、私は廊下の角から姿を現した。それを見て、セベク君は一瞬────例えば、記憶の中で名前と顔を一致させようとしているような────間を取った。

「お前、オンボロ寮の監督生か」
「そうです」
「あの廃墟は元々若様が気に入ってらっしゃった建造物だ。そんなところにのうのうと暮らしていて────申し訳ないと思わないのか!」

さっきまでは彼らが騒がしくしていたから一喝していたようだったけど、今度は私の住処をあそこに据えたことを怒っているらしい。何度も思うようだけど、感情の動きが激しいな。

…とはいっても、あの場所は身寄りも属すべき寮もない私が生きて行くために必要なものだ。若様とやらがオンボロ寮をどう思っているのかは知らないけど、寮という立派な"居場所"のある人────の側近に、そんなことを言われたくなかった。

「思わないよ」

だから私は、毅然とこの人間じゃない…なら何? とにかくこの不思議な生徒に、反感しか覚えなかった。

「若様がどれだけ大事な人なのか知らないけど、だからといってちょっと廊下を騒がしくした同級生に『人間』だなんて言い方で怒るのは、ちょっと失礼だと思う。それにオンボロ寮は、学園長がきちんと公式的に与えてくれた私の家だよ。趣味の範囲内で私の家にズカズカ入り込もうとするんなら、そっちの方が非常識だと思うんだけど」
「言わせておけば、人間────!」

────その日から、私とセベク君の対立する日々が始まってしまった。










「おい、人間!」
「だからその"人間"って言うのやめてよ」
「昨日お前、若様が廊下を通りがかったところを挨拶もせずにスルーしただろう!」
「いや、挨拶も何も、私若様のこと知らないし。知らない人とどう挨拶しろと?」

衝突するだいたいの理由は、こんな感じ。
私は、セベクが命を賭してまで守ろうとしている"若様"のことを知らない。昨日だって何人もの上級生とすれちがってきているわけだし、その上で誰か特定の他人に最高度に礼儀正しい態度を取れと言われたって…そんなの、ただのセベクの自己満足じゃないか。

「若様のことを知らないだと!? おのれ、異世界から来たからってなんでもそれで通用すると思うなよ…!」

第一印象は確かに良くなかった。でも、こんな風に真面目に喧嘩をしている間でもちょっと気の抜けてしまうようなことを言い出す辺り、私は彼のことを心底嫌うことはできなかった。

「ねえ、それよりセベクさあ、いい加減私のこと名前で呼んでよ。いつまでその"人間"ってやつ続けるつもり?」
「お前の名など知らん!」

あ、だめだ、またちょっと笑ってしまった。勢いが良すぎる。完全に馬鹿にされているのはわかるんだけど、大真面目な顔でもう何ヶ月も一緒に授業を受けている生徒の名前を知らないって…却ってなんだかポンコツ感が出ちゃうんだよなあ…。

「セベクって本当に"若様"以外に興味ないよね」
「当たり前だ! 若様以外の生き物など…いや、リリア様もだな、そのお二方以外の生き物など、所詮は有象無象、へのへのもへじの凡夫に過ぎない!」

今度こそ私は思い切り噴き出してしまった。
…だめだ、次はへのへのもへじときた。この人のワードチョイス、本当にいちいち独特すぎる。

喧嘩が続いていたせいで、次の錬金術の授業になし崩し的に一緒に向かう私達。
好きではないけど、一緒にいて退屈しない、面白い人だとは思っている。

だからこそ、彼にはちゃんと"ユウ"として認知してほしいんだけど…まだまだ道のりは遠そうだ。

と、思っていた矢先だった。

錬金術の授業は基本的にペアで実験を行う。大抵私はエースかデュースのどちらかと組んで練炭みたいな鉱石を作っているわけなんだけど…。
この日はたまたま、セベクとの口論が激化しすぎてしまったせいで、教室に着く頃には先にその2人が1つの大鍋を囲って、今日の題材について話し込んでいた。

「あ、ユウー、おっせえぞ。もうペア割りも決まって、各々材料を持ってこいって言われてるとこだから」

なんとか授業開始の数秒前に滑り込んだからクルーウェル先生のお叱りを受けることこそなかったものの、私に気づいたエースがそう言って進捗を教えてくれ、そして私の隣にいるセベクを見ると実に面白そうにニヤリと笑った。

「なんだかんだで仲いーよね、お前ら」
「何にも良くないよ。セベクってば私のことをいつまでも人間扱いするし」
「いや、実際人間じゃん」

エースの最も過ぎる指摘を無視しつつ、私とセベクは仕方なく彼らの隣の大鍋の前に立った。

「えーと、今回は…うへえ、またややこしそうだなあ…。セベク、戸棚から"人魚の涙"と"有毒薔薇の棘"、持ってきてくれる?」
「僕に指図するな!」

元気良く悪態をつきながら、セベクは2つとも材料を持って来てくれた。
それからも私達は、なんやかんやで言い争いをしながら、"毒性を持った銀の髪飾り"を作っていく。途中、「人間! 水銀の配合量は黒鉛の1%と書いてあるだろう! 10gで足りるはずだ!」「それは教科書の話でしょ! さっきあなた黒鉛の量を倍にして入れてたんだから、水銀も倍入れるのは当たり前! あと人間って呼ぶな!」なんてやり取りをしていたら、いい加減うるさいと先生に怒られた。

そうして、私達の大喧嘩の末に、なんとか髪飾り…らしきものが出来上がる。

「はあ〜…セベクと組むとこれだから嫌なんだよ…体力が10倍削られる…」
「なんだと!!!! 僕だってお前など願い下げだ!! リリア様なら"まあ適当で良いじゃろう"と言って、お前のようにみみっちいことなどせず、それはもう豪快に材料をぶち込んだ後完璧なものを錬成されるぞ!!!」
「リリア先輩と比べないでいただけます?」

授業が終わった後もやいやいと騒ぎながら鏡の間まで歩いていると、ちょうど向こう側から今しがた話題に出していたリリア先輩が歩いてくるところが見えた。

「おお、セベクにユウ。今日も仲良しじゃのう」
「はっ! リリア様もお元気そうで何よりです!」
「こんにちは、リリア先輩」

リリア先輩は私とセベクを見比べると、先程エースが見せたものとよく似たにんまりを顔に広げた。

「授業終わりか? その手にあるのは…銀の髪飾りか。懐かしいのう、よく出来ておる」
「ありがたきお言葉!!!!!!!!!」

鼓膜がわんと限界を訴えるような大声。よく窓が割れないものだと耳を塞ぎながら感心している私に対し、リリア先輩はセベクの大声になどすっかり慣れているといった風に悠然と微笑んだままでいた。さすがだ、ディアソムニアの副寮長…。

「セベクも良い友人を持てて良かったのう」
「リリア様、この不遜な人間は友人などではありません!!! この者は日頃から若様やリリア様への敬意が全く足りておらず────」
「だーから、私は"先輩"としてリリア先輩のことなら慕ってはいるけど、若様のことは知らないんだってば。誰も彼もがセベクみたいに茨の谷オタクじゃないんだか…あ、先輩、すみません」

ついいつもの癖で言い返してしまったけど、今目の前にいるのがまさにその茨の谷のそこそこ偉い人(セベクの言葉からの推測)だったことを忘れてしまっていた。ちょっと失礼にもなりかねない言葉を謝罪すると、リリア先輩は愉快そうにくつくつと笑って「良い、良い。気にするな」と快く許してくれた。

「セベクよ、実直なお主の性格は買っておるが、友人は大切にするんじゃよ」
「はっ……。……?」

条件反射で威勢の良い返事をした後、セベクは首を傾げてリリア先輩の言葉を一生懸命反芻している(ように見えた)。「だから友人ではないのですが」とでも思っていそうなその顔に、私は気を悪くするどころか、余計に笑ってしまうだけだった。

「ユウも、こやつのことをどうかよろしく頼む。声はデカいが悪い奴ではないのじゃ」
「あ、はい。こちらこそ」

リリア先輩は私の答えに満足そうな笑顔を浮かべると、またふわふわと浮いているかのような足取りで去って行った。

「さ、行こうか、セベク。この後は寮に帰るんでしょ? どうせ私も鏡の間の前を通んなきゃいけないし、しょうがないから一緒に行こ」

そう言ってリリア先輩のために跪きかねない態度を取っていたセベクを促すと、意外なことに、彼はその場に突っ立ったまま私のことを思い切り睨みつけていた。

「────……か、監督生」

…そして、彼は初めて私のことを"人間"という大きな枠から外した。

「……え、な、何」

突然のことに、私もつい戸惑いを隠せなくなってしまう。散々「人間呼ばわりするな」と言っておきながら、本名ですらないというのに、いきなり"個"のわかる呼び方をされるとそれはそれでどうしようもない違和感を拭えなくなってしまう。

「か、勘違いするな! リリア様がお前のことをお目に掛けていらっしゃるようだから僕もそれに倣っただけだ! お前に言われたから呼び方を変えたわけではない!」
「わ、わかったよ…わかったから…」
「とにかく、リリア様のお気持ちを汲んで、僕はこれからお前のことを"監督生"と呼ぶ! わかったら返事をしろ、監督生!」
「いや、呼び方を変えるだけでそこまでしっかりした宣言する人とか初めてなんだけど」

────その日、私は初めて"人間"から"監督生"になった。










それから、数ヶ月が経つ。
私とセベクは、相変わらずなんやかんやと喧嘩を続けながら仲の良い関係(傍目にはそう見えるらしい)を続けていた。皆は私達を「良い友達」だって言うけど、こっちはそんな風に思っていなかった。何かと噛みついて来る狂犬を飼いならそうとしているブリーダーにでもなったかのような気持ちだ。呼び方云々の問題が片付いたのでこっちから仕掛けることはほとんどなくなっていたものの、喧嘩癖というものはお互いなかなか治らないらしい。セベクは私の一挙手一投足に文句をつけてくるし、それで黙っている私じゃない。

「監督生! 昨日僕のクラスにお前の猫が乱入してきたぞ! 監督不行き届きが過ぎやしないか!」
「グリムは猫じゃないから! 乱入したのは普通にごめんだけど、聞いたよ、薬草学の授業で必要以上にマタタビ使ったのはセベクだって!! 規定量を超えた材料をぶち込む癖、そろそろ直してよね!」
「マタタビに反応するならやはり猫ではないか!」

その日は飛行術の授業を受けていたから、セベクの声も私の声もいつも以上に大きかった。遮蔽物のない屋外では、"声を抑える"という概念が頭からすっぽ抜けるようだ。他のクラスメイト達は「まーたやってるよ」と呆れるような顔をするばかりだし、バルガス先生も「腹から声を出せ!」と筋違いなことを言ってきているので、誰も私達を止めてくれやしない。

前までは"人間"と一括りにしないで、と思っていたけど、"監督生"と個別認識されるのもそれはそれで面倒くさかった。私の顔を見るなり「監督生!!!!」とまるで音が形になったような重さで襲い掛かってくるあれは本当にやめてほしい。まあ、ごくたまにそれが喧嘩の火種になるようなものじゃなく、「見ろ! 筆記視点で満点を取って来たぞ! この間98点で僕に自慢しに来たようだったが、残念だったな!」というなんとも微笑ましい話題であることもあるので、一概に無視するというわけにもいかないんだけど。

飛行術の授業中、魔力がない私は木陰から見学しているのが常だった。グリムに参加資格がある以上、2人1組の私も授業自体には出席せざるを得ないんだけど、こういった実技系の授業に自ら私が手を出すことはできない。だから今日も、授業前にひとしきりセベクと喧嘩した後、私は既にヘトヘトに疲れていつもの大きな木の根元に座り込んで箒に乗るクラスメイト達をぼんやりと眺めていた。

グリム、今日は調子良さそうだな。
あ、あのD組の人、いつも飛ぶのすっごくうまいんだよなあ。
うわ、エースとデュースが正面衝突してる。痛そう…。

生徒達の様子をまんべんなく観察していると、不意にセベクがこちらを向いて何やら得意げな顔で笑った。どうやら今、誰よりも高いところまで上がれたことを自慢したいようだ。はいはい、すごいすごい。

すると、それまで生意気な5歳児のような顔をしていたセベクの顔色が途端にさっと青ざめた。どうしたんだろう、お腹でも痛くなったんだろうか。

その瞬間だった。

「────危ない、ユウ!!!!!!!!」

セベクの150dBの声が、私の鼓膜を直撃した。

それと同時に、頭に何かとてつもなく硬い物がゴチンと当たって────。

音と衝撃の痛みで頭が割れたんじゃないだろうか。
そんな小さな恐怖と共に、気を失った。










目を覚ましたそこは、医務室のベッドだった。
気を失う直前、何が起きたのかさっぱりわからなかった。ひとまず状況だけでも確認しようと首を動かすと、横の小さな丸椅子に座っているセベクが不安そのものの顔で私のことを覗き込んでいるのが見えた。

「…セベク?」
「めっ!!!!!!! ……目が覚めたか」

いつもの大声を出そうとしたのだろうが、同時にここが医務室であることを考える頭はあったらしい。珍しく声を落としたセベクが、「痛みは残っていないか? 僕が誰だかわかるか?」とそれでも錯乱したことを訊いてくる。誰だかわかるかって、私さっきあなたの名前を呼んだばかりなんだけど。

「別のグラウンドでマジフトをしていた生徒のディスクがお前の頭に当たったんだ。僕が気づいた時にはもうお前のすぐ後ろまで迫っていて────…」
「ああ、なるほど…」

聞けば、私の頭にディスクがぶつかったのは完全にその生徒のミスで、私が目を覚ます直前まで付き添いながら何度も意識のない私に「本当にごめん」と謝ってくれていたんだそうだ。ハーツラビュルの2年生で、法律による時間縛りがあったせいで泣く泣く先程寮へと帰って行ったらしい。

「それで、何の関係もないセベクが最後まで看ててくれたの?」
「そっ…それは…」
「面倒かけてごめんね、ありがと」

────と、そこで、私は気を失う少し前の出来事を思い出した。
直前とはいえ、私に迫る危機を真っ先に知らせようとしてくれていたセベク。危うく箒から落ちそうになっていたところまでなんとなく見えていたような気がするのだが、彼の体のどこにもそれらしい傷がないところを見るに、なんとか落ちずに済んだか、彼の体が異常に頑丈だったかのどちらかだったのだろう(どっちもありえる)。余計な二次災害まで起きなくて本当に良かった。

それに────。

「セベク、私のこと初めて名前で呼んでくれたでしょ」

危ない、ユウ────。

最後の記憶として残っていたのは、やはり"声"だった。

「あっ…あれは、"お前"の気を引かなければ危ないと思ったからだ、他意はない」

そういうところで冷静な判断が下せるのは、さすが要人警護の任を負っているだけあると思う。"人間"なんて論外、"監督生"でも、まだその肩書きを背負ってから1年と経っていない私が咄嗟に反応できるかどうかわからない。でも、ユウという、16年使ってきた"私"を呼ぶ言葉だったら、もしかしたらこの事故を防げたかもしれないと────そう、思ってくれたんだろう。まあ、結果はこれなんだけど。

「理由が理由だったとしても、"お前の名など知らん"の頃に比べたらだいぶ仲良くなれたよね、私達。へのへのもへじからは脱却できたのかな」

思わず照れくさくなって、笑いながらそう言うと、つられてセベクの耳も少しだけ赤くなった。

「ま…まあ…友人の名くらいは、覚えていて当然だろう」
「へえ、私のこと、友達だって思ってくれてるんだ」
「リリア様が仲良くしろと仰ったからだ!!! 図に乗るな!!!」

とうとう堪えられなくなってセベクの大声が爆発した途端、彼は校医の先生に怒られて医務室を追い出されてしまった。

人のいなくなった丸椅子を眺めて、私は再びひとりシーツの陰で小さく笑みを漏らす。
呼び方がひとつ変わっていく度、まるで私達の間にそびえていた何枚もの壁が崩れていくみたいだ。第一印象はあまり良くなかったし、それからもしばらくそのイメージは続いていたけど────。

言いたいことを言い合って、大声でストレス発散して、それでもなんだかんだ隣にいる。
セベク、私も今はあなたのこと、大事な友達だって思えてるよ。
だからこれからも、どうぞよろしく。









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