焼け跡に残した言葉



――――某日、某本丸にて。

「【通達】
政府決定により、以下の通りの処分を申し渡す。
本丸番号 一〇三五五〇八ぬ
本丸責任者 なまえ
事由詳細 本丸解体
事由発生理由 本丸責任者の死亡
処分日時 長月二〇日 日没」

この本丸は、主人を失った。
人の死因はあまりに多すぎるからなかなか理解が追いつかなかったけれど、混乱する頭でなんとか主は誰かに傷つけられてその命を終えるわけではないということ、むしろ人としての寿命を全うし眠るように自然な死を迎えるのだということだけを拾い上げた。

主は、最後まで笑っていた。
代わる代わる枕元に来ては泣きじゃくる刀達に、何度も何度も掠れる声で「大丈夫」と囁いていた。もうほとんど見えないと言っていた目で俺達と視線を合わせて、もう力が入らないと言っていた手で頭を撫でてくれた。

「私は世界で一番幸せな審神者だった、本当だよ」

そうして本当に、眠るように死んだ。

「…主さんは、死んだらどこ行くんだろうな。家族とか、故郷とか…あんのかな」
「いつだったか、審神者は審神者になる時に過去も家も全て捨てるのだと聞いたことがあるよ。歴史に干渉する者として、時間軸から切り離された存在でなければいけないのだと」
「じゃあ、主はどこにも帰れず、見送りもなく、ひとりぼっちで天国へ行かなきゃいけないんですか?」
「…帰る場所ならここで良い。主も昔、そう言ってた」
「見送りだって俺達がすりゃあ良いじゃねーか。主には一度だって寂しい思いはさせねえよ。生きてる間も、死んだ後だってな」

そうして、俺達は見よう見まねで葬式というものを行うことにした。主の時代では、人は死ぬと炎に焼かれるのだという。そうして焼き跡から骨を集めて、それを土に還すのだという。

「炎に焼かれるとは…もう命無き後とはいえ、いささか背筋の寒くなる思いですな」
「でも俺、それが一番綺麗な方法だっていうのはなんかわかる気がします」

三名槍が拵えてくれた大きな棺に、主をそっと横たえる。短刀達が摘んできた花を、たくさんたくさん敷き詰める。刀鍛冶の妖精達は、六文銭と小刀を作ってくれた。蜂須賀や宗三は手先が器用だったから、主のための白装束を縫った。光忠と歌仙が主の好きだったお菓子を焼いて、乱と次郎は化粧を施した。みんながみんなにできることを協力してやって、主の旅支度を整えていく。

必要な準備に関われなかった者は、折り紙を折った。手紙を書いた。宝物を入れた。

「まだ、大将に挨拶してない奴はいないか」

最後にその問いかけに返事がないことを確認してから、岩融、巴形、静形が棺の蓋を閉めた。薪を積み上げ周りに石を並べて作った簡素な焼き場に、江雪が火をつける。

誰かの、啜り泣く声が聞こえた。それが聞こえたせいだろうか、次は誰かの嗚咽が聞こえた。そしてそれを皮切りに、誰かが声を上げて泣き出した。あるじ、と彼女を呼ぶ声もあった。

「まだ戦争は終わってねーってのによ…ったく…早すぎんだろ…」
「大将、俺達もすぐにそっち行くからね。さみしくないよ」
「僕、主様の元で使ってもらえて幸せでした」

彼女との別れを惜しむ者、出会いを喜ぶ者、様々な声に見送られ、体の大きな刀達が運ぶ棺は炎の中に置かれた。

主が焼かれる。俺達は炎の中から産まれるけど、人は炎に包まれると一瞬で死んでしまうと聞いた。主がもう既に死んでいるなんてそんなことはとっくにわかっていた、でもさっきまでここにあった主の体がなくなってしまうということが、主の生きた証さえ消えてなくなってしまうのだと言っている気がして、主は本当に死んでしまうのだと思い知らされているような気がして、それが殊更に悲しかった。

「現代の技術なら1、2時間程度で終わるそうなんだが…急拵えの粗末な焼き場だからね、綺麗に骨だけを残すには半日くらいはかかるとみた方が良いかもしれない」
「これが本当の最後の時間だとわかっているなら、長い方が良い」
「僕も、全てが終わるまでずっとお傍にいます」

轟々と燃える火を取り囲むようにして、俺達は全員がその場に座り込んだ。誰も、その場を離れようとはしなかった。

ぱちぱちと、火の爆ぜる音がする。薪が燃えて減っていく度に、山伏や同田貫が木を継ぎ足す。会話なんてない。ただ黙って、俺達の一番大切な人が消えていく様を見つめていた。

どのくらい時間が経っただろうか。昼過ぎに始めたこの儀式は、日が暮れた後も続いた。今日は綺麗な満月の日。辺りが闇に包まれても、炎と月明かりで昼と同じくらいに明るかった。

「……あるじさんに、会いたい」

沈黙で舌がとっくに乾き、声の出し方すら忘れてしまったんじゃないかと思う頃、ふとそんな言葉を漏らしたのは乱だった。

「ねえ、ダメかな」
「何が」

言いながら、嫌な予感が背筋を駆け抜ける。

「干渉はしないよ、ただ物陰から見るだけで良い。だから――――少しだけ、時間を戻して」
「ダメだ」

最後まで言わせることなく言葉を遮る。乱は口を噤んだが、納得している様子はまるでなかった。

「何もしないってば。…だってこのまま何もせずに消えていくあるじさんを見送って、そのまま僕達も刀解されるなんて寂しすぎる。最後の思い出に、楽しかった頃の…幸せだった頃の記憶を、もう一度蘇らせたいんだ」
「ダメだって言ってるだろ。もう俺達が過去に戻る理由はない。理由のない時間遡行は犯罪だ。最後に主の顔に泥を塗る気?」
「っ………」

今度は少しだけ乱の表情が変わった。死んだ後でまで迷惑をかけかねないと気づいて、思いとどまったんだろう。
そりゃあ俺だって戻れるなら戻りたい。でも本当は、主の顔に泥を塗るとかそんなことより、もし生きている彼女を見てしまったら駆け寄らずにはいられなさそうだから…それが、怖かった。

「…良いんじゃないか、少しだけなら」

気まずい沈黙を破って降って来たのは、長谷部の声だった。その声が掠れていたのは、主が死ぬ少し前からずっと泣いていたから。今際の際、笑顔で主に感謝を伝えて挨拶をした後、ずっと長谷部は部屋にこもっていた。一言も発さず、一歩も外に出ず、誰の呼び掛けにも応じず、ずっと静かに泣いていた。

それが、今ここにいる。泣きはらした真っ赤な目で、俺達を見下ろしている。

「遡行軍の出現している時代に飛べば良い。主の指示した最後の任務だったというように書類を改竄しておく」
「長谷部…」

普段だったら一番反対しそうなものなのに、どういうわけか長谷部は乱に賛成していた。

「どうせ刀解される身だ、多少の無茶なら無茶のうちには入らん。…主に会いたいんだろう」

乱の目から涙が零れ落ちた。うん、と頷く彼の頭を、いつになく優しい手つきで長谷部は撫でる。
その様子を見ながら、もしかしたら長谷部はずっとこうして他の子達を甘やかしたかったのかな…なんて、ありえないことを考えた。もしかしたら普段は自分の責任とか立場とかを色々勝手に考えて、勝手に厳しくしていただけで――――なんて、まさか、ありえないけど。でもそう思ってしまうくらいには、彼の提案は常識から外れていて、でもとても優しさに溢れていた。

「ただ、遡行は六振しかできない。機会はみんなに平等に与えられるべきだ。わかるな?」
「…わかるよ。籤でもじゃんけんでも、実戦でも…いや、それはあるじさんが喜ばないね。うん、平和ならどんな方法でも良い、早く行く刀を選ぼう」

早口でまくしたてる乱に長谷部はひとつ頷き、それから大きな声を…やっぱり泣きすぎてガラガラな声だったけど、とにかく大きな声を出した。

「みんな、聞いてくれ。これから最後の任務を行おうと思う。時間遡行軍を倒し、そして…向かった先にいる人の無事と幸せを確認してくる任務だ。志願者は挙手をしろ、隊員は籤で決める」

俯きながら炎を眺めていた刀達は、聞き取りにくいその号令に一斉に顔を上げた。妙なタイミングでの任務と妙なその内容から瞬時に真意を悟ったのか、突然のことにも関わらずいくつもの手が上がる。

とはいえ、手を挙げたのはすべての刀ではなかった。挙げたのは7割くらい、つまり残りの3割は静止を貫いていた。乱とは反対側の隣に座っていた長曾根さんもその1人だ。俺と目が合うと、少しだけばつの悪そうな顔をして微笑む。

「…会ったら余計辛くなりそうでな。挨拶は既に済ませた、なら俺は身を引いて本当に行きたい奴に行かせてやりたい」

そうか、そういう気持ちの刀もいるんだ。改めて見回すと手を挙げていない刀達はみんな俯きながらも涙を浮かべていたり、唇を血が出るほどに噛み締めていた。

主に会いたいのはみんな一緒だ。ただ、会うことと会わないことの、どちらの方が辛いかということに、差があるだけで。

「よし、籤を引け。俺は参加しないから平等性は保証する、安心しろ」

長谷部が小さな籤箱を持って回り始めた。俺のところまで来たところで、「…長谷部も会うと辛くなる派?」と小声で聞いてみる。

「……いっそ完全な道具のままだったらもっと楽だったのにな。人間の死自体には何度も立ち会ってきたが、人の心にとってお慕いしていた方との死別がこんなにも辛いものだとは…知らなかった。二度目の別れは、きっと俺には耐えられない」

ドラマの中で幾度となく見た、想いを告げきれずに別れてしまった純情な青年の顔。例えるならそんな顔をして、長谷部はそれからまた淡々と籤を持って回り出した。

合図をして、志願した刀が一斉に紙を開く。六振の刀が引いた紙にだけ、小さい丸が書いてあった。俺のも、乱のも。

他に選ばれたのは三日月、獅子王、蛍丸、御手杵。そもそも手を挙げていなかった刀はもとより、志願したけど選ばれなかった刀達も笑って俺達を見送ってくれた。

「飛んだ時代の主君の様子、帰ったら聞かせてくださいね」
「ちょっとくらい声をかけてもバチは当たらないぜ、楽しんでこい」
「鶴丸さん!」
「はは、冗談さ」

各々支度をすると、時間遡行のための部屋で落ち合う。長谷部が調べてくれたところによると、主が生きている時代で遡行軍が発生しているのは40年前だと言われた。

「40年前って、主いくつ?」
「28歳」
「人間の姿が変わるのは早かったからなー、俺達にとっちゃ40年なんてあっという間だけど、これは懐かしい主の顔が見れそうだな」

光に包まれ、時間を遡行する。辿り着いたのは、40年前の尾張の山奥だった。

「先に遡行軍を倒してから、今の時代に帰る直前で少しだけ座標を弄ってこの時代の本丸に入り込む。…って段取りでOK?」
「OK」

本丸は、基本的に現実世界の空間とは断絶したところ(主は仮称として亜空間と呼んでた)にある。その方が時間遡行をしやすく、また敵からも狙いをつけられにくいという理由らしい。
だから今回の本丸への侵入は、あくまで帰還時の空間座標設定のミスという体で行わなければならなかった。

「んじゃ、さっさと片付けて主の顔見に行こーぜ」

禍々しい気配は、すぐそこに迫っている。俺達は同時に飛び出し、人のいない山道を駆けていく。

――――こうやって敵を狩ってきて、実に50年近くが経過した。刀としての歴史全体の中では50年なんてあっという間だけど、戦に関わるという俺達の性質上50年もひとりの主に仕え続けたのは初めてだった。
主はよく笑い、そしてよく怒る子だった。俺達は人の身を得ても所詮は道具。戦いの中に生き、そしていつ壊れるとも知れないもの。言葉を発し感情を持ったところでそれは主という絶対的君主の前には何の意味も、必要性もない。

だというのに、彼女はそれを嫌った。俺達が道具であること、彼女が主たる存在であることというこの戦いにおける前提条件の全てを拒んだ。

「こんなにたくさんの人達に主って呼ばれるなんてむず痒いよ〜」と畳をごろごろ転がっていたかと思いきや、次の瞬間には「ねえ見て! 庭の桜が綺麗に咲いてる!」ところころ笑いだすのが、なまえという人の娘の常だった。まるで駄々をこねれば俺達が融通を利かせるとでも思っているように。まるで俺達に草花を愛でる機微があるのは当たり前だと言うように。

「君達は確かにこの世にたくさん散っている分霊のうちの一つかもしれない。君達の元になる本体や伝承が無事である限り、戦いで折れても再び顕現させることは可能かもしれない。それでも、今ここにいる君は君ひとりだ。この本丸で生まれ、この本丸での記憶を蓄積し、感情を育んだ君はここにしかいない。私が君に折れるなと言うのは、君が君であるから言っているんだ。この意味、わかるね?」
わかりやしないのに、主は出陣の前によくそんな話をしてきた。俺達は自分を替えのきく存在としか思えないと何度も言ったのに、彼女は聞かずに何度もその話をした。

まるで、俺達も同じ人間だと言いたそうにして。

「――――さて、敵はこれで全てかな」
「もう気配はないね」
「えっと、長谷部から報告されてたのは10体だろ? 数も合うよな」
「じゃ、本来の目的を…おっと違うね、じゃあ帰ろうか、本丸に!」

遡行軍は全て倒した。これから俺達は、主の姿を見に行く。

――――この本丸にいた俺達の、最後の歴史を刻みに行く。

時間座標はずらさずに、空間座標だけを本丸の位置に設定する。そのまま遡行を決行すると、すぐに俺達は見慣れた本丸の前まで来ていた。

見慣れた本丸――――でも、これは確かに40年前の本丸。審神者の力で作られた景観は、春の季節の夜を映していた。ぽっかりと浮かぶ満月、真っ黒な空を覆う無数の星、美しく茂る木々、池にはぽちゃぽちゃと音を立てながら鯉が泳いでいる。

「なぁ、鯉の大五郎がまだ生きてるぞ!」
「しっ、見つかったらまずいんだから静かに!」
「主はどこかな?」
「今何時だろう、夜ならお仕事部屋にいるかも」

とりあえず、六振揃って回廊を移動する。途中、驚くほどに他の刀と出会わなかった。

「なんかこんなに静かなのって変な感じ…みんなもう寝たのかな」
「ひょっとして連帯戦の時期なんじゃないか? ほら、俺らその時20振くらい一斉に戦地に出てたろ」
「しっ、待って…何か聞こえる」

蛍丸の制止に皆が従い、耳をすませる。廊下の突き当たりから、小さな声が聞こえて来た。

「……歌?」
「女の人の声…あるじさんだ」

呟くような歌声は、確かに主のものだった。子守唄だろうか。ゆっくり流れるメロディは心地良く、安心感がある。

「あっちの部屋、小さな明かりがついてる」
「あそこ、主の仕事部屋じゃん」
「そういえば秋田が、怖い夢を見た時はよくあるじさんのところへ行ってたって」

ぐ、と涙が出そうになった。優しい歌声。主は、確かにそこにいるんだ。生きて、そこにいるんだ。

「あの木の陰にとりあえず行こうか。あそこなら、部屋の中からは死角になるはず」

そう言って一歩踏み出した時、唐突に声が止んだ。俺達はその場で再び立ち止まり、音を立てないようにして中の様子を窺う。

「――――秋田なら寝ているよ、こっちにおいで」

主の声だ。息を殺して、様子を窺う。

「私が君達の気配を察せないわけないでしょ。…大丈夫、君達がその姿を見せてはいけないのは、未来に影響を及ぼす相手にだけだから。私はそもそも過去からも未来からも切り離された存在、遡行のルールは関係ないよ」

俺達に気づいて…いや、
俺達が、未来から来たことを知っている…?

顔を見合わせ、判断を迷っていると、意外にも最初に踏み出したのは三日月だった。
彼はつかつかと部屋に歩み寄り、躊躇なく襖を開ける。するとちょうど反対側からも開けようとしていた格好の主が三日月とばったり対峙し、俺達の大好きな笑顔で………笑ってくれた。

「っ………」

乱が一瞬、顔を歪める。獅子王は少しだけ空を仰いだ。蛍丸はぎゅっと拳を握り、御手杵は「あぁ…」と小さく声を漏らした。元気な主の顔を見た瞬間、俺達全員の張り詰めていた気が抜けたのがすぐにわかった。

「この時代のみんなは寝てるよ。…とはいえここで話していたら起きかねないから、少し場所を変えようか」

主は俺達がいつから来たのかも、どうしてここに来たのかも全く聞かず、離れの小さな一室へと俺達を誘った。普段は物置に使っている畳張りのその部屋は、しまわれたばかりと思われる冬物の毛布やストーブなんかが並べられている。座布団を奥から7枚引っ張り出して、座ってと促された。

「何分くらい、ここにいられるの?」
「決まってない。でも多分留まりすぎたら――――」
「検非違使に見つかる、か。じゃあお茶を淹れてる時間も惜しいな……鶯丸がこの間遠征先ですごく高級な茶葉を貰って来たんだって言ってたんだけどね、残念」

それを限りに、その場に重い沈黙が降りた。俺達に時間はない、それがわかっているからなおさら、何を言うべきで何をするべきなのか全員が迷っている。この限られた奇跡の時間を、どう使えば後悔が残らないだろう。どうしたら、主にこの思いを全て伝えられるだろう。

「あるじ…あのね、」
「うん?」
「……ぎゅってしても、良い?」

最初に口を開いたのは蛍丸。いつもは子供らしいことなんて全然言わず、自分の願望もあまり口にしない彼が消えそうな声でねだったのは、甘えたがりの赤子のような行動だった。
でも主は、そんな珍しい、そして何より唐突な蛍丸の言葉に何も言わなかった。むしろそう言われるのを待っていたかのように、ただ黙って微笑んで、両腕を広げた。

「主………ずっと言いたかったんだけど」
「うん」
「俺、主にいつかこうしてほしかったんだ」
「うん」
「でも、変な見栄張っちゃって言えなくて…」
「蛍丸、私がいつも手を広げてもそんなの良い、ってどっか行っちゃってたもんね」
「うん…でもほんとは、ほんとは嬉しかったんだよ。…ありがと」

涙声でお礼を言う蛍丸の頭をぽんぽんと撫でると、主は片腕だけ離して俺達の方を見た。

「みんなもおいで」

真っ先に行ったのは乱。それから次いで、獅子王も控えめに主のところへ行った。
体の大きい、あるいは大人の姿をしている俺と三日月と御手杵は、緩く首を振ってその場に留まる。「どう見ても定員オーバーだろ」と御手杵が笑うと、つられたように主も吹き出した。

「俺はあんたが元気そうに笑ってくれてるのを見れればそれで十分だ。だから…なあ主、何か困っていることがあれば教えてくれ。この時代の俺達に言えなくて辛いこととか、ないか?」

主は驚いたように俺達を見た。危険や禁忌を犯してまで会いに来たのに、ただ主が元気かどうかを尋ねただけというのが意外だったんだと思う。
だって、主がいつも元気だったことなんて、言ってしまえば俺達はずっと見てきて知ってるんだから。俺達に隠れて辛い思いをしている、とそんな考えに至るなんて、思いもしなかったんだろう。

でも多分、御手杵はずっとそれが気がかりだったんだと思う。機会があれば聞こうとずっと思っていたのに、機会が来ないまま彼女は世を去ってしまったから。だから今回はこうして志願して、彼女の内に隠された想いを聞きに来たんだろう。

「――――見ての通り、元気だよ。ありがとう」
「でもなぁ…俺らデカいのは特に聞き分けが良くなかったから…今にして思えば色々と苦労をかけたと思うんだ。ごめんな」

抱きしめてもらうためじゃなく、逆に主の頭を撫でるために御手杵はしゃがみこんだ。

「でも俺らみんな、主のところに来られて幸せだって思ってるんだ、これは本当だぞ。――――だから、自信持ってくれな」

現代で炎を囲む、全ての刀達。この世からいなくなっても、自分達もあとは消えるだけとわかっていても、最後のその瞬間まで、俺達は共にあり続けることを約束した。

それは、みんな主のことが大好きだったから。
主と一緒にいることが、みんなの幸せだったから。

「――――ああ、それは良かった……」

御手杵の言葉に、主はほっとした顔で誰にともなくそう呟いた。聞いたこともないような、気の抜けた声だった。自分でもそう思ったんだろう、口元をはっと押さえ、少しだけ恥ずかしそうに目をきょろきょろとさせると、秘密を打ち明ける子供みたいな小声で
「…未来から来た君達にだから少しだけ打ち明けるけど…私、ずっと不安だったんだ」
と言った。

肩をすくめる主は、主ごと小さな刀達を包み込む御手杵の腕の中で、これまた見たことのないような情けない顔でへにゃっと笑ってみせる。

「――――私はずっと、神としてここに現れた君達に意味を見出そうとしてたんだ。心があるならそれを大切にしてほしい、意思があるならそれを尊重したいって。だから道具であろうとする君達とは何度も衝突して、その度に私のこの願いはただのエゴであって、君達をむしろ不幸にしてるんじゃないかって…そう思ってた」

それでも感情を露わにする俺達を見ていたら、やはり道具扱いすることはどうしてもできなくて、と主は言う。

「だからむしろ苦労をかけたのは私の方だと思うんだ。なのに――――幸せだと言ってくれてありがとう。未来からはるばる私のためなんかに来てくれて、ありがとう――――」

情けない笑みを浮かべていた目には、みるみる涙が溜まっていく。慌てたように御手杵が腕をわたわたと振っているのを、なぜだか俺は奇妙なほどに冷静な気持ちで見つめていた。

どうやら俺は最後まで、人の心を理解しきれなかったみたいだ。だって今主がなんでこんなに泣きそうな顔してるのかよくわかんない。なんで主がそんなに不安になっているのか、わかってあげられない。

俺はこんなに主に会いたいって思ってるのに。
こんなに主と別れたくないって思ってるのに。
こんなに…こんなにこの子のことが、大好きなのに。

理解できないどころかむしろ、俺達の想いが全然伝わっていなかったことに俺はちょっとしたショックを受けていた。

ひょっとして、俺達が主の言うことをきかずに無茶ばかりしてきたからかな。
それとも俺達がちゃんと自分達の気持ちを伝えてこなかったからなのかな。

どちらにしろ全部全部、過去の自分達が招いたことなんだとは思う。
優しい主に甘えて、俺達は好き勝手言ってきた。わがままばかりしてきたのは俺達の方だ。人間の心なんてわからないって言い訳して、主の涙になんかこれっぽっちも気づかないで、気丈な笑顔に安心感をもらうばかりだった。

――――ああ、そう考えてみれば彼女が不安になるのも、もしかしたら当然なのかもしれない。
だってここにいるのはまだ審神者になってから10年も経ってない若い女の子。突然世界も過去も捨てて、どこでもない場所につれてこられて、神様と一緒に戦うことを強いられるなんて、本当に酷なことだっただろう。神を従え世界を守れなんて、到底無理な要請だっただろう。

そんな中で、誰も自分を理解してくれない中で過ごす10年は、どれだけ心細かっただろう。
確かにみんなが彼女を慕っていた。笑いながら毎日暮らしていた。でもきっと、彼女はいつもこんな不安を抱えていたんだ。俺達は彼女と違う存在だという、根源的な不安を。

「ごめんね、あるじさん。僕ら、あるじさんときちんとお話できてなかったね。でも僕ら、顕現したその瞬間からあるじさんのことが大好きだったよ」
「俺、主との思い出は楽しいものしかなかったよ、ほんとだよ」
「――――なあ、主はこんな俺達のこと……もしかして、嫌い…だったか?」

主はぽろぽろと涙をこぼし出した。堪えきれなかったんだろう、蛍丸と乱と獅子王を抱きしめながら、拭われることのない涙を落としていく。

「嫌いなわけないじゃん……。大好きだよ……私の神様たち……たとえ考え方が違っていても、私はいつだって君達を支えにしてた…」

蛍丸が、主の頬をそっと撫でる。

「俺達を対等に扱ってくれてありがとう、主。道具扱いで良いって反発した奴も最初はいたかもしれないけど…それでも俺達が今こうして主に会いたいって意思を持って、禁忌まで犯して来たのは、主が育ててくれた心のお陰なんだよ」

だってみんな、泣いてた。
だってみんな、主にもう一度会いたいと願っていた。

別れの悲しみも、出会えた喜びも、そしてもう一度だけ会いたいと思ったこの名前のつけられない衝動も、全部主の教えてくれた感情だ。主がいたから、この本丸に顕現したから、今の俺達は存在している。そして俺達はそんな自分のことを、きっと誰もが誇らしく思っている。

「安心してくれよ、主。俺達がこれから、主を世界で一番幸せな審神者にするから。…俺、これを言うために今日主に会いに来たんだ!」

獅子王がそう言うと、主はやっと顔を上げてくれた。

そうだ、俺達にはそれを実現する義務がある。主に、俺達を想ってこんなに涙を流してくれる優しい女の子に、恩を返す義務がある。

「…もうその言葉だけで私は幸せだよ。これから何があってもやっていけると思う」

主は泣きながら、また笑ってくれた。いつもの2倍優しくて、いつもの2倍切ない笑顔だった。







それから少しだけ感情の昂りが落ち着くと、彼女は俺達に現代のことを聞き始めた。

「――――何十年後の未来から来たの、君達は」
「40年後だぜ」
「そっか…40年かぁ。…私、綺麗なおばちゃんになってた?」
「………世界一きれいだよ」
「んっふふ、上手だねぇ蛍丸は」
「ほんとのことだから」
「どうやって私が君達と過ごしてたか教えて。春は何を見て、夏はどこへ行って、秋は何を食べて、冬は誰と過ごすのか」
「ああもちろんだ! あのな――――」

俺達が来た時点で、彼女はきっと悟っていたんだと思う。俺達が、彼女の死んだ日から来たことを。彼女が死ぬまで結局この戦争は終わらなかったことを。
それでも彼女は静かに笑っていた。俺達の伝えた幸せを、喜んでくれた。

「――――そろそろ、戻ろうか」

いつまでもここにいたら、いよいよ帰れなくなってしまう。そう思うとちょうど同じ時に、三日月から帰還の提案が発せられた。みんなも頃合いとは思っていたのだろう、乱と蛍丸は最後にぎゅっと主を抱きしめて、そこから離れた。御手杵と獅子王はそれぞれ主の肩を叩き、頭を撫でてからこちらへ戻ってきた。

「三日月」

腕が空くと主は、ついぞ彼女に触れることのなかった三日月を呼んだ。三日月が僅かに反応すると、彼女は自分から彼を抱きしめた。

「…みんなに、大好きと伝えてね」
「……ああ」

それから、主はこちらを向いた。

「……おいで、清光」

――――ああ、主に名を呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がする――――

抑えていた想いが、堰を切ったように溢れ出すのを感じた。口を開いたら涙が一気に流れ出そうだったから、近くで見守っていてもずっと話しかけられなかったのに、その我慢の糸が今ぶつりと音を立てて切れた。

主、あるじ、俺の大好きなあるじ。

「主…、俺……っ」

ふわりとよく知る香りが俺を包んだ。主の優しい香り。主の優しい腕。よく知ってる、だって主は俺が傷ついて帰ってくるたびこうしてくれていたから。

「清光のことだから、会った瞬間色々と喋ってくれるかなって思ってたのに、ずっと黙ってるんだもん」
「ごめん、喋ったら……泣いちゃいそうで」
「泣いても清光は可愛いよ」
「主、あのね……俺、主のこと、大好きだから………ずっとずっと、いちばん大好きだから……」

つっかえながら、それでも何度も大好きと伝える。
取り返せない時間を埋めるように、少しでもこの子が不安を感じなくなるように。

「俺、いつも主の隣にいるから。絶対、主のこと守るから…っ!」
「ありがとう、私も大好きだよ。いちばん頼りにしてる」

もう会えない。この腕を話したら、二度と会えない。
――――二度目の別れは、きっと俺には耐えきれない。
不意に長谷部の言葉が蘇る。ああ本当にその通りだ、と思った。

もうこの笑顔も、腕の感触も二度と現れることはない。それならしっかり目に焼き付けておかなきゃと思うのに、涙に霞んでよく見えない。しっかり抱きしめておかなきゃと思うのに、腕が震えてうまくできない。昨日主とお別れの挨拶をした時も辛かったけど、こんなに受け入れがたいほど胸が痛くなるなんて思わなかった。

最後だ、最後だと思う度に悲しみがせりあがる。どうして、どうして人の命にはこんなに早く終わりが来てしまうんだろう。まだ何も伝えられてない。まだ何も、恩返しができてない。こんなのってあんまりだ、寂しすぎるよ、主――――

「……一生かかっても返しきれないほどの恩を与えてもらった気分だな」

時間も言葉も足りないと思う俺の気持ちになど気づく様子もない主は、そう言って腕を放してしまった。

「私、これからみんなともっとうまくやっていけそう」
「不安にばっかりさせてごめん…主」
「ううん、ずっとずっと…それこそ最後の瞬間まで私のことを大切に想っていてくれたから、こうして逢いに来てくれたんだよね。もうそれを伝えてくれただけで、私は大丈夫。だってこんなに幸せなこと、他にはないもん」

私はこの時点で既に、世界の他の誰よりも幸せ者だよ。

そう言われた俺達のうち誰かひとりでも、上手に笑顔を返せていただろうか。

「もし来世があるのなら、私はきっとまた審神者になって君達を喚ぶから…それまで、少しだけ待っていて」
「主――――」

時間遡行の実行をしたのは、三日月だった。たぶん三日月以外、誰もできなかっただろう。俺達はみんな下手くそに笑いながら、主に手を振った。名残惜しい、別れたくない、そんな悲しい気持ちの中にも確かに感謝と幸せの気持ちを残しながら、俺達は現代へと帰った。







時間遡行の部屋から出ると、ちょうど炎は小さくなっていっているところだった。最初に長谷部が俺達に気づき、それからみんなが一瞬こちらを見る。

「…どうだった、加州」
「……主、若い頃からやっぱ抜群に可愛かったよ」

冗談めかしてそう言うと、傍に座っていた安定と鯰尾が声に出して笑った。

「――――こっちはもうすぐ主が天に行くよ」
「そっか」
「…俺達、主に一つでも恩を返せたかな」
「主、死ぬ前に言ってたでしょ」

――――私は世界で一番幸せな審神者だった

「あれ、どうにも本音だったっぽいよ」

主がいなくなった後は、俺達の番だ。刀解されて、この本丸はなくなる。

「主と最後の瞬間まで一緒だなんて、俺達こそ本当に幸せ者だよね」

もし来世があるのなら――――か。
その時はまた、俺を最初に選んでほしいと思う。

「加州」

消えかけの炎を見つめる俺に話しかけて来たのは、三日月だった。

「大丈夫か」

どう考えても一番取り乱していたのは俺だ。それを恥ずかしいとは思わないけど、同じくらい辛いはずなのにこんな時まで気を遣わせていることが少しだけ申し訳なかった。

いや、同じくらい辛い、というのは語弊があるか。

「……三日月こそ、大丈夫?」
「ああ、俺なら問題ないぞ。最後に主の顔が見られて満足した」
「嘘でしょ」

小さな声で、しかしはっきりとそう言うと、三日月の笑顔が僅かに凍った。

「俺、なんで三日月が来たのかってずっと不思議だったんだ」

たった50年とはいえ、一緒にいた仲なのだ。三日月はああいう場では手を挙げない性格だというのは、よくわかっている。
それでも三日月は来た。優雅に片手を挙げて、その後長谷部の籤を引き、丸印に安堵の表情を見せ、過去へと遡行した。

「来たからには何か心残りがあるのかなって思ってたけど、主と自由に話せるあの場に行っても、あんたは一言も発さないし行動もしなかった」

三日月が自分から行動を起こしたのはただ一度、主のいる部屋の襖を開けた時だけだった。

「最初は俺達に遠慮してるのかと思った。でも遠慮するくらいならそれこそ隊に志願する必要がないよね」

蛍丸は、主に抱きしめてもらうために手を挙げた。獅子王は主を世界一幸せにすると言うために、御手杵は主の苦しみを聞くために過去へ飛んだ。この三振、禁止されてたのに最初から主に干渉する気満々だったんじゃん。思い出したらちょっとだけ笑えてきた。
かくいう俺もあわよくばとは思っていた。多分、乱も。俺達はどちらも主の顔を見たかっただけとは言っていたけど、奥底ではやっぱり若い主に感謝を伝えたいと思ってたんだと思う。

でも、三日月だけはその目的がわからなかった。様子を見たかっただけならああも率先して主の声に応え、襖を開ける理由なんてない。逆に話したり触れたりしたかったのなら、帰還の瞬間に呼ばれるまで黙っているのはおかしい。

「俺と同じように主に触れたら取り乱しそうだったからかな、とも思った。でも………うん、それも違った」

気づいたのは、別れ際だった。最初の違和感を通り過ぎた後はずっと、俺と同じ理由で黙っているのだと思っていたけど。

三日月は、主に抱きしめられた時でさえ穏やかだった。何も言わず、何もせず、ただ主の声に頷いただけだった。

怖いくらいにいつもと同じように見えた、三日月の様子。目の前に立っているのが死んだ主の過去の姿だなんて思っていないんじゃないか、ってくらいに冷静で。
でも、違うところがひとつだけ。

目が、これ以上ないくらいに優しかったのだ。

主と一緒によく見ていた恋愛ドラマの主人公みたいだ、と思った。俺には結局その気持ちが理解しきれなかったし、本丸で暮らしていた時に別の刀がそういう顔をしているのも見たことがなかったけど、人はとある特別な感情を抱いた時、そういう顔になるのだと主から聞いたことだけはある。

相手のことを自分の力で幸せにしてあげたい。優しい気持ちなのに胸がぎゅっと掴まれるように痛い。相手には楽しく過ごしてほしいのに、そこに自分がいないのは辛い。自由にさせたいけど、独占したい。

そんな相反してばかりの面倒な感情があるのだと教えられた時は、人間の勝手に作った理論上の感情なんじゃないか、なんて思ったりもしたけど。

三日月の目は、思えばまさにその感情をたたえていた。

もしそれが本当ならたぶん、口を開けば余計なことを言いそうだと思ったんだろう。
たぶん、手を伸ばせば離せなくなりそうだと思ったんだろう。

そしてきっとそれを感じたのは、襖を開けたあの時。
主に会いたくて行動したその衝動の強さに、自分でもびっくりしたのかもしれない。このまま本能に任せたら、きっと自分は超えてはならない一線を超えてしまうと、思ったのかもしれない。

「…ねえ三日月」
「………」
「今まで一回もそんな素振り見せたことなかったけど、あんたずっと主のこと――――」
「――――心さえなければ、と思ったことはあるか? 加州」
「え…」
「いっそ道具のままでいられたなら、こんなに苦労をすることはなかっただろうにな」

三日月はそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。どこへ行くのか、と聞くことすら憚られ、俺はただその悲しそうな背中を見ていることしかできなかった。

ふと、背後が暗くなる。反射的に振り返ると、

「火が、消えた――――」

俺達の短い一生が終わった。
俺達の全てが終わった。

火が消えても、誰もその場から動こうとはしなかった。

「この後、どうするんだっけ」
「ええと、土に還す…んだよね」
「でも主、来世でも俺達を喚ぶから待っていてって言ってた。埋めちまったら、主が出て来れない」
「じゃあ、僕らが少しずつ持って行こうよ。刀解された僕らがどこに行くのかはわからないけど…いつかの時まで一緒にいれば、また一緒に顕現できるんじゃないかな…。どう?」
「うん、そうしよう」

そう言って、まだ熱い骨をみんなで少しずつ分け合う。さっきまで一つだった主は、小さな破片になってみんなの手の中に収まってしまった。

「………あるじ」

心がなければ、こんなに悲しくなることはなかった。三日月の言葉が、脳内で何度も反響する。心がなければ、道具のままでいられたら――――

「…心があって、良かったね」

いつの間にか隣に来ていた蛍丸が、手にした小さな骨を見ながら呟いた。

「道具でしかなかったら、あんな風に主に大好きって伝えられなかった。また会いたいって願うこともできなかった。こうやってみんなで主の面影を抱けるのも、来世を信じられるのも、全部主にこの身と心を与えてもらったから。…って考えたら、なんか俺、ほんとにまた主に会える気が――――清光、泣いてるの?」

喋りながらこちらを向いて、ぎょっとした顔をされてしまった。あまりにもその目がまん丸だったものだから、俺は泣きながら笑ってしまう。

「……大丈夫?」
「……蛍丸の言う通りかもね」

ああもう、なんだか頭がぐちゃぐちゃしてよく考えられない。

でも、もし本当に――――主の言う通りに来世があるのなら。来世でもまた、喚んでもらえるのなら。

その時はもう少し、この面倒な心とかいうもののことを教えてほしいと思う。三日月や…まぁついでに長谷部とかももう少し身軽になれるように、頼んでみても良いかもしれない。

そんな風に思いながら、俺は手のひらに乗る骨に小さく口づけをした。









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