私の進路指導の時間は、水曜日────つまり明日の13時からとなっていた。
明日の午後一発目の授業は呪文学。好きな科目に出られないことを少し残念に思いはしたものの、相変わらず私の頭はそれ以外のことでいっぱいだったので、それ以上の感情は動かなかった。

「不死鳥の騎士団に入りたいって言ったら怒られた」

夕食時、スラグ・クラブに呼ばれていたリリーと別れて談話室に戻った私はたまたま1人でいたリーマスと鉢合わせた。まだ2人とも進路指導を翌日以降に控えていたので、その話題をきっかけに同じソファに腰掛けたところ、ジェームズが談話室の入口から入ってきて、開口一番私達にそう言った。

"不死鳥の騎士団"という聞き慣れない職業に私が戸惑っている横で、リーマスは「そりゃあマクゴナガル先生の立場から考えたら簡単には勧められないさ」と当然のように言った。

「不死鳥の騎士団?」

私だけが話題についていけていないようだったので、素直にその謎の単語をジェームズに問い返す。

「あれ、フォクシーは知らない?」
「うん。どんな職業なの?」
「職業っていうか、ダンブルドアが結成した対ヴォルデモートの組織だよ」

ダンブルドアがけっせいしたたいヴォルデモートのそしき。

「…なに、それ」

聞いてもわけがわからない。するとまるで私がタイムスリップしてきた人間だとでもいうかのような目で2人に見られてしまった。

「あんまり有名じゃないのかな?」
「まあ、表立った組織じゃないからね。むしろマクゴナガル先生は君がどうしてその存在を名称まで正確に知ってたか、不思議に思ってなかった?」
「最初はしらばっくれてたな。そんな職業はありませんとかなんとか言って。でも僕が引かないもんだから最後には諦めて、"卒業したばかりの未成熟な魔法使いを危険な戦争に巻き込むわけにはいきません"ときた」
「そりゃ、先生が正しいよ」

────そういえば、そんな"噂"もあったっけ。
私達がホグワーツに入学する少し前のこと。ヴォルデモート卿と名乗るひとりの悪のカリスマが、"力による支配"を掲げ、マグルやマグル生まれの魔法使い、そして彼らを支持する対抗勢力を粛清し始めた。

その頃の私はまだ魔法界とは無縁で、自分が魔女だと知ってからもホグワーツという安全地帯にいられたから意識していなかったけど────世間は、随分と大変なことになっていたらしい。
理由のない殺人。魔法生物の暴走。誰を信じたら良いかわからず、隣人が"本物"かどうかもわからない。まさに魔法界における大戦争と呼ぶに相応しい状況が、外の世界では起きていたんだそうだ。

そんな中、ヴォルデモートが唯一恐れた魔法使いが立ち上がった。
それが、ホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドア。
ダンブルドア先生はヴォルデモートが頭角を現した瞬間、即座に彼に対抗しうる新たな秘密組織を結成し、密かにヴォルデモートやその配下の魔法使いと熾烈な争いを繰り広げている────今も、なお。

「────じゃあ、外の世界で起きてる戦争って…本当なの? ヴォルデモートとダンブルドア先生が戦ってるって…」
「フォクシー、君はここに来て何年目だい? そろそろこっちの世界の現実をもっとちゃんと見なよ」

ジェームズが茶化すように言ったが、今の私に"現実"という言葉はあまりに重かった。ただでさえ自分の思想はただの理想論じゃないかと迷っているのに、更に世間知らずと言われてしまった私は、落ち込んだ顔を見せないよう振る舞うので精一杯だった。

「ヴォルデモートとダンブルドアは今も戦ってるよ。で、ほら、ヴォルデモートの配下は死喰い人って呼ばれてるだろ? それは知ってる?」
「うん」
「それに対抗してるのが、ダンブルドア率いる"不死鳥の騎士団"。とはいっても、圧倒的な力を持ってるヴォルデモートにわざわざ命を懸けて対抗しようと思ってる実力も気概もある魔法使いなんてそんなにいないから、メンバーは相当少ないらしいんだけどね。しかもかなり危険な戦いだから存在自体がそもそもほぼ隠匿されてるんだってさ」

だから私は今までその話を聞いてこなかったのか。
でも、それならどうしてジェームズはその存在を知ったのだろう?

「なんでジェームズはそんな話を知ってるの?」
「メンバーの1人がうちの両親と親しいんだ。キャラドック・ディアボーンって言うんだけど、その人が父さんに不死鳥の騎士団ってワードを使ってるのを偶然聞いちゃってね」
「じゃ、じゃあ…ジェームズのご両親も、騎士団に?」
「いや、うちの親はそこまで魔力がズバ抜けて高いわけじゃないし、僕が卒業するまでは命を危険に晒せないって正規メンバーには入らなかったらしいんだ。でも協力者として色々…なんかその辺は機密事項とかあるらしくて全然聞けなかったんだけど、とにかく色々してたらしい」

ジェームズの説明は全く要領を得なかった。表立って出てこないというだけのことはある。今のところ、その組織が"ヴォルデモートと戦っている"ということ以外の情報は何もわからず終いだった。

「どうしてそんな…あー…謎の組織に入りたいの?」

なんとか"不審な"という言葉を呑み込んで、まだ不満げな顔をしているジェームズに尋ねる。

「なんとなく」

ジェームズの答えは思わず声を失うほどあっさりとしていて、そして中身のないものだった。そりゃあ、マクゴナガル先生も反対するわけだ。

「まあ一応、僕だって何も考えてないわけじゃないよ。邪悪な魔法は嫌いだし、ヴォルデモートみたいな悪の塊が支配する世の中でなんて生きていたくないからね。幸い、うちは父さんの直毛薬が爆売れしたお陰でお金には困らないから、それならつまらない小銭稼ぎなんてしてないで、僕が良いと思う世界を取り返すために戦った方が格好良いだろうなって思ったんだ」
「プロングズらしいだろ」

リーマスがクスクスと笑っていた。どうやらジェームズの"進路希望"の話は前から聞いていたらしい。

「世界を…取り返す…」

規模が大きすぎてあまり実感が湧かなかった。ジェームズの言葉をうつろに繰り返した私を見て、彼は更に熱が入ってしまったようだった。

「ここにいると麻痺しがちだけど、魔法界は今本当に危ない状況なんだ。死喰い人の数はどんどん増えてるし、なんなら人狼や巨人族まで配下に加えようとしてるくらいだからね。噂じゃ、ホグワーツの生徒からも死喰い人をスカウトしようとしてる動きがあるとかないとか…」
「その情報源は?」
「最後のはただの噂。でも他種族を従えて、大量虐殺を繰り返してるってのは本当だよ。ディアボーンおじさんはどうやら、僕の"耳の良さ"を侮ってたらしいね」

いい加減なことを言っているようだけど、私がよそで聞いた噂も含めジェームズの語る話が全て本当だとしたら、大変なことだ。このままヴォルデモートの勢力が拡大していけば、いずれこの世界に安全な場所など、どこにもなくなってしまう。それこそ、一部のスリザリン生が不意打ちでかけてくる呪いでさえ、可愛い赤ん坊のやっていることに見えてしまうほどに。

「だから僕らは卒業したらダンブルドアに直談判して、騎士団のメンバーに入ろうって話してるんだ」
「まあ僕は在学中にマクゴナガル先生に"騎士団に入りたいです"とは言わないけどね」
「君もどう? フォクシー。不死鳥の騎士団」

お茶でもどう? みたいなノリで誘われても困る。

ただ、彼の話を信じる限りにおいて────不死鳥の騎士団という組織が、今の世になくてはならないものであることだけは間違いない。それこそ、私のラインを越える全てを結集し肥大化させたような世界になんて、私だって生きていたくはない。

「イリスは何か、卒業後にしたいことはあるの? 魔法省に務めるって話は家出をするために作ったただのシナリオって聞いたけど…本当に国際魔法協力部に?」
「いや、あれは本当にただのでっち上げ。本当にしたいことは────」

本当にしたいことは、なんだろう?

改めて考えると、私は"卒業後"のことを何も考えていなかった。
もちろんリリーと一緒に一通りの職業紹介パンフレットには目を通した。別に魔法省務めが嫌だと思っているわけじゃないし、他にも病院で癒者になって人々を助ける仕事なんかもやりがいがありそうだ、と思っていた。

ただ────結局私は、これといった決定打を見つけられずにいた。
やりたいこと。人の役に立ちたい。それは嘘じゃない。
でも人の役に立たない仕事なんて、それを探す方が難しかった。

じゃあ、私は何がしたいんだろう。
これまではずっと、"自由"が欲しかった。自由を手に入れた後は、"自我"が欲しくなった。
今はまだどちらも中途半端だけど、もし本当に自由になった私が確かな自我を手に入れたとしたら────私はその先に、何を求めるんだろう。

「向いてると思うんだけどなあ、フォクシーに不死鳥の騎士団」

ジェームズはまだそんなことを言っていた。

「でも、ジェームズも不死鳥の騎士団がどんなところかわかってないんでしょ?」
「どんなところかはわかんないけど、何をするかはわかってるじゃないか。悪の根絶だよ。だって君もそうだろ? 不当な差別をする人間を憎み、邪悪な魔法で遊ぶ人間を憎み、大事な人が傷つけられる世界を憎んでるんだろ? 不死鳥の騎士団は、君の嫌いなものに真っ向から反対する、最も誇り高き組織だよ」

私が嫌いなものに真っ向から反対する組織────。

ホグワーツに来るまで、私は何かに"反対する"ということを知らずに生きてきた。
むしろそれまでは、自分が何のために生きているのかすらわからなかった。
お母様やお父様を喜ばせることが、私の幸せだと思っていた。
テストで良い成績を残し、大人に褒められることが生きがいだと思っていた。

でも、ここに来て、そんな私はどこかへと消えて行った。
今ここにいるのは、自分のために生きている私だ。
中途半端でも、迷いながらでも、私は私だけの幸せを見つけて、私だけの生きがいを探しているところなのだ。

私の幸せ。
私の生きがい。
私の、未来────。










翌日、13時。
私はマクゴナガル先生の部屋の扉をノックした。

「リヴィアです。進路指導のお願いに伺いました」
「どうぞ」

返事を確認し、中へと入る。
マクゴナガル先生の机の上にはたくさんの案内書が置いてあった。中には談話室でただ眺めただけのパンフレットもたくさん置いてある。

「お掛けなさい」
「失礼します」
「さて────それでは、今回は改めてあなたの進路について話し合うことになりますが────。ミス・リヴィア、あなたは3年次にも一度、同じ話をここでしていますね」

先生の手には、既に魔法省の入省案内の書類があった。ちらりと見やりながら「はい、先生」と答える。

「今日はより本格的に、卒業後の進路についての指導を行います。身の置き方によっては、継続すべき科目をここで取捨選択する必要があるためです。そこでですが、あなたは3年次において魔法省の国際魔法協力部への就職を検討していると言っていましたね。その後、志に変化はありましたか?」
「…いいえ」

少し迷った末に、私はマクゴナガル先生の言葉に首を振ることにした。
"模範的"なルートを辿るのであれば、それこそお母様に告げたように、「魔法省というエリートのみに許された門をくぐり、国境を越えた魔法使いの団結を目指し、ひいては非魔法界とのバランスの良い存続を求める」という人生はお誂え向きのものだと思っていた。

これといってやりたいものがないのであれば、ひとまずはその模範的な人生を辿っておくのが無難だろう。そう思って、まだ心に空白を残したまま、私は同じ希望を口にした。

「────そうですか」

僅かな間の後、マクゴナガル先生は魔法省のパンフレットを私に差し出してくれた。

「そうであれば、今現在あなたが履修している科目については、10科目全てのOWL試験で"E"以上を取ることが推奨されています。2年前に既にメモを渡していますが、中でも"変身術"、"呪文学"、"魔法薬学"、"闇の魔術に対する防衛術"については少なくとも"E"以上が必須、"O"を取っていればなお良い…といったところです。来年度以降の科目についても、全て継続した方が良いでしょう」
「はい、先生」
「志が変わっていないのであれば、私からの説明は2年前のものと全く同じになりますが────改めて確認したいことや、質問などはありますか?」
「いいえ、ありません」

正直、そこまでの熱意はなかった。求められているものがあるなら応える、それだけだ。
マクゴナガル先生は眉をぴくりと動かしたものの、「そうですか」と短く答えた。

進路ってて、そんなものなんだろうか。
ホグワーツに入学した時はもっとワクワクしていて────未知の世界に期待を膨らませていたはずなんだけどな。
卒業した後はみんなこうしてどこかへ就職して、無難に生きていくだけなんだろうか。

"やりたいこと"が明確に決まっている人が羨ましい、と思う。
目標のために頑張って、そのエネルギーだけで生きていけるのだから。
夢を叶えることがもちろん一番望ましいとはいえ、たとえ途中で挫折してしまっても、頑張ったという結果は残る。誰が何と言おうとも、それはその人にとってかけがえのない財産だ。

でも、私のように────何もやりたいことが定まっていない人は、ただ毎日を"こなしていく"だけになってしまう。
おかしいな、私、何のためにここへ来たんだっけ。
知らないものを学んで、自由を手に入れて、生きたいように生きて────そんな希望を抱いて、ここへ来たんじゃなかったっけ。

私は一体、これからどうしたいんだろう────。

「あなたには、本当はもっと何かしたいことがあるのではないですか?」

マクゴナガル先生と久々に進路の話をしたからだろうか、自分の"希望"が本当に正しいのか自問した時、2年前の先生の言葉を思い出した。
お母様を一緒に説得してくれた後、玄関先でお見送りをした私に一言そう尋ねた先生。

先生はあの時────私が求めていたものを、知っていたのだろうか。

自由が欲しい、信念が欲しい、そう願っていた私の本心を、見抜いていたのだろうか。
本当は魔法省に興味があるのではなく、自由な世界をひとりで生きたいと願った、私のそんな"本当の望み"を、知っていたのだろうか────。

望みといえば、そういえば…昔誰かにも言われたな。
私は聡明で、協調性もあって、慎重だけど…どこかであっと驚くような冒険を望んでるって。

「決められた通りにばかり動くのはつまらないと思わんかね?」

そう言って、怯えていたあの頃の私の背を、"それ"は力強く押してくれたんだっけ。

「今まで知らなかった世界へひとりで来て、それでもまだ竦んでいる君に相応しいのは…そうだね――――…グリフィンドール!!!

そうだ。

私は冒険を望んでいる。
決められた通りに生きていくだけじゃつまらない。

私は自由が欲しい。信念が欲しい。
そしてそれらを手に入れて、"私の好きな私でいられる世界"で生きていきたい。

「不死鳥の騎士団は、君の嫌いなものに真っ向から反対する、最も誇り高き組織だよ」

その時、ジェームズの言葉がふと蘇った。
私もあんな風に、「自分の良いと思った世界を取り返す」と言えたなら、また5年前と同じようにワクワクするような未来を描きながら毎日を過ごせるだろうか。

命懸けの日々を"ワクワクする"と表現するなんて、今現実に命を懸けている人たちにとんでもなく失礼なことを言っている自覚はある。
わかってる、そんなに優しい世界じゃないことは。
わかってる、そんなに甘い未来じゃないことは。

でも、もし何か一つ────たとえ叶わないとしても、"自分の定めた目標に向かって頑張れた"と心から誇れるような何かが私にあるとしたら。
誰かに決められた人生じゃなくて、自分だけの人生を歩めるとしたら。

"自分で創り上げた信念に基づき、自由に生きる"という生き方こそが、私の本当に求めているものではないのだろうか。

「それでは、進路指導は以上となります。あなたの成績でいえばこれまでにお伝えしてきた基準は難なくクリアできると思いますので────」
「────あの、マクゴナガル先生」

つい、先生の言葉を遮ってしまった。先生は一瞬動きを止めたものの、特に何も咎めることなく「なんでしょう」と応じてくれた。

…どうしよう。
言ってみてしまって、良いだろうか。

私が、本当にしたいことを。

「…その、不死鳥の騎士団には、どうしたら入れますか?」

────マクゴナガル先生の手から、書類がバサーッ! と一気に滑り落ちた。
心なしか、先生の顔から血の気が引いたようにすら思える。

あ、やっぱり今の質問ってマズかったかな。
どこか冷静な気持ちで、そんなことを考える。

思えば、今までずっと"優等生"として、求められている発言だけをしてきた私が突然"闇の勢力に対抗する秘密結社"の名前を持ち出すなんて、ありえないことだったのかもしれない。

「…どこで、その名を聞いたんですか」

そう尋ねられたけど、きっとマクゴナガル先生はその答えをわかっているんだろう。

「ジェームズからです」

だから私も、素直に本当のことを答えた。

「…リヴィア、不死鳥の騎士団の存在をポッターから聞いたのであれば、私も嘘はつけません。その組織は秘密裏にではありますが、確かに存在しています。しかし前提として、非常に危険な任務を負うことになるため、騎士団は未成年や学生の入団を許してはいません。そしてこれが仮に卒業後の話であったとしても────そこは決して軽率な気持ちで加わることができない組織です」
「先生、私は軽率な気持ちで口にしたのではありません」

先生に口答えするなんて、これが人生で初めてのことだった。
でも、不思議と気持ちは落ち着いている。相手がマクゴナガル先生という、私のことをよく理解してくれている平等な先生だからだろうか。それとも、今まで完璧な優等生を演じてきた私の言葉でなら、この先生のことも納得させられるだろうと驕っているからなのだろうか。

それとも────これが、私の"心から出た本音"だからなのだろうか。

「もちろん今すぐに入れてくださいというつもりはありません。騎士団はそもそも存在そのものが秘密に守られているため、確かに詳細は存じ上げませんが…その任務が常に命懸けであることと、闇の勢力に対抗する組織であるというその大義だけは理解しています。その上で、私に考える余地を与えてほしいのです。私が、本当に私の望む生き方をするために」

マクゴナガル先生は無言のままだった。先程一瞬冷静さを欠いていたのが嘘のように、落ち着き払って取り落とした書類を拾い上げている。

「無理な話です、リヴィア。今のあなたに話せることは何もありません。まだあなたは未成年で、学生なのです。騎士団に入団する第一のステージにすら立てていないあなたに、騎士団の秘密を打ち明けることは何一つ許されません。心の中でどのような大志を抱こうともそれは自由ですが、その他に現実的な希望がないのであれば、引き続き国際魔法協力部への入省を目標に、2ヶ月後のOWL試験に臨みなさい」

そして、言外に退出を促されてしまった。
やっぱりダメか。ジェームズと同じ、私もただ怒られただけで終わってしまった。

「────はい、申し訳ありませんでした」

とりあえず思った通りに伝えてはみたものの、マクゴナガル先生がそこまで言うのなら、本当に私には荷が重すぎる仕事なのかもしれない。私みたいな弱虫じゃ、とても務まらないのかもしれない。

ちょっとだけ抱いた高揚感が急速に萎んでいくのを感じた。
これ以上居座って先生の機嫌を損ねるわけにもいかないので、大人しく席を立って扉を開ける。

「それでは失礼します、先生」
「────ただ、卒業した後もまだ意思が変わらないようであれば、ダンブルドア校長を訪ねなさい。私からは以上です」

────去り際、マクゴナガル先生の声が私の背に降りかかった。
扉を閉める間際、急いで先生の方を振り返ると────先生は、微かに笑っているように見えた。



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